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太秦からの映画便り

映写室 「ポチの告白」高橋玄監督インタビュー(前編)

映写室 「ポチの告白」高橋玄監督インタビュー(前編)   
 ―逮捕権を持つ公務員に物言うことを恐れる私たち―

 警察官の帽子の紋章と目のアップにかぶさって「この国は、イヌだらけ」というコピーのチラシや、「ポチの告白」と言う題名からして挑発的な、警察権力の犯罪を問う作品が公開になる。原案協力者として警察ジャーナリストの寺澤有の名前もあり、寺澤が長年取材してきた警察不祥事の数々がベースにあると聞いては、興味は尽きない。高橋玄監督にお話を伺います。

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(2月10日 大阪にて)

<その前に「ポチの告白」はこんなお話>
 所轄者勤務の巡査・竹田(菅田俊)は実直な警官。刑事課の三枝(出光光)に認められ刑事に昇進し、妻にも待望の子供が出来る。だが実直ゆえに竹田は盲目的に三枝の命令に従い、後輩の山崎(野村宏伸)と共に、いつの間にか警察犯罪の主犯格となっていく。不祥事を嗅ぎ回る記者の抹殺を三枝から命令されたのに、警告しただけの竹田に物足りず、山崎が暴力団を使って痛めつける。5年後、仲間の警官が殺された。あの記者が帰ってきて、インターネットで警察犯罪についてゲリラ的な報道を始める。

<高橋玄監督インタビュー>
―3時間15分と長い作品ですが。
高橋玄監督(以下敬称略):この作品のエージェントは香港で、向こうでは大体1時間半位が普通ですから、短くしてと言われて、2時間位に縮めたものも作りました。でもそれは売れなかった。この映画の場合、地味に上司の命令を聞いていた男が、いつの間にか犯罪者になっていく話に説得力を出すには、ある程度の長さで淡々と日常を描く以外なかったんです。それともう一つは、この映画は低予算映画でロケーションの場所も限られていますから、時系列の省略は、次々と場面を変えたりと撮影テクニックが必要になり、予算的に無理でした。
―ラストの印象が強いので、終わってみると長さは気になりませんが、この長さでは上映回数が少なくなる。興行的に不利だろうにそれでもこの長さにしたのは、相当の覚悟がおありなのだろうと思いますが。
高橋:現実に起こっている事をしつこく繰り返し示す事で、観客が主人公と一緒に警察内部を旅したような気分になってもらいたかったんです。僕はプロデューサーも兼ねていますから、自分から売りにくくなる事はしません。そんな視点があっても、結果的にこの長さになったと言うことです。この長さだと1日3回の上映になりますが、そこそこの入りで何回転もするより、回転は少なくてもいいもので満杯にしたほうが結局良いんですよ。ただ残念なのは、日本は外国に比べて映画館に行く習慣が無い。最終上映の開始が6時とかでは、働く人を取り込むことは出来ません。映画が大人の娯楽になっていないんでしょう。こんな上映形態は問題ですよね。香港やタイだと夜中でも劇場が開いている。日本の劇場も、働いている層を取り込む工夫をして欲しいと思います。

―刺激的なタイトルですが、題名は最初から決まっていたんでしょうか。
高橋:そうです。ポチと言うと、犬でもドーベルマンじゃあない、飼い主の言うことを聞く大人しい弱い犬です。その弱い犬が何故強がっていられるか、そこのあたりをブラックユーモア的に捉えたいと思いました。警察ジャーナリストの寺澤とは長い付き合いで、会うといつもこんな映画を撮りたいと言い合っていたんです。で、この題名の映画を作ると言ったら、調べていた事件の資料を色々持って来てくれた。全て実際にあったことが下敷きになっています。
―完成から公開まで大分時間が掛かっていますが、警察側と何かあったんでしょうか。
高橋:何もありません。まあ売れなかったわけです。外国に先に回ったんで、日本には一生懸命売らなかったのもありますが。最初に放映されたのは、イランとタイのテレビです。ニュース番組だとヨーロッパのマードックで「スカイ・テレビ」というのが特番を組んで放映してくれました。

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(C) 2008 GRAND CAFE PICTURES Corporation

―外国での反響はいかがでしたか。
高橋:日本特有の変な現象だと、異文化学習のような感じで見ていましたね。外国は公権力を信用していませんから、警察の腐敗についてもこんなもんだと思っているのですが、これだけきっちり上の命令で動くと言うことに驚くようです。たとえばアメリカ映画とかでも、警官はお互いが対等でかつライバルなので、名前で呼び合ったりしますし、上を信用して組織が号令一つで動くと言うことが無い。それぞれが独立してると言うか、個人の権利意識が強いところではこんな形にはならないですね。警察権力の仕組みを見ることで、極めて日本的な土壌が見えてくる。これは、例えば企業犯罪とかでも成り立つ話ですから。

―なるほど。ところで配役ですが、菅田さんの迫力に驚きました。
高橋:上手いんですよね、菅田さん。菅田さんだけが当て書きで、後の方は3ヶ月間のオーディションで決めていきました。作品の準備には7,8ヶ月かかっていて、僕はいつも低予算の作品ですから、お金のかかる撮影期間を短くする為に、撮り始める前に準備をきっちりして、後は現場でカメラを回せばいいだけにするんです。この作品のインからアップも12月末から1月末と言うものでした。
―宮崎学さんが出ていて、インパクトのあるお顔で印象に残りました。
高橋:グリコ事件の時にあれだけマスコミに露出しましたからね。皆顔は覚えていますよ。友人なので出てもらいました。彼はスケジュールが空いていれば必ず協力してくれます。警察側から見てもっとも嫌な裁判官の役に彼を置くことで、ユーモアになるだろうと思ったんです。

―ご覧になった警察の方からの反応はいかがですか。
高橋:反応は無いです。現職の人も多分客席に紛れ込んでいると思うし、知っているはずなんですが反応は返ってこないですね。
―訴えられるとか、抗議とかも無いわけですね。
高橋:訴えられる要素がありません。自転車泥棒の引っ掛けなんて実際によくありますし、この映画の取材に来た人が、いくらなんでもあんなにぽんぽん札束を渡さないだろうと言いましたが、映画なので映像的に解りやすくはしていますが、同じようなことをやっています。
―そんな警察官はどれほどいるんでしょうか。
高橋:実行犯で言うと割合は少ないと思います。でも皆解ってやっていることなんですよ。例えば架空領収書を作るシーンで、沢山の名前の印鑑がありましたが、あれは移動する人が残していったもので、残したほうも何に使うかを知っているはずです。ある人が言っていましたが、新人の頃はこれを写せと言われて、意味も解らないまま写していた。で、自分が命令する立場になって初めて、(ああ、新人の頃自分がやっていたのはこういうことだったのか)と、自分が犯罪の実行犯だった事に気付いたと。知らない間に犯罪に加担せられていて、気が付いたときにはもう遅いんですよ。告発も出来ない。

―脚本はどれほどの案件を組み合わせて作ったんでしょう。
高橋:ノルマ達成の為のやらせ、収賄、性犯罪と、膨大な数から累計的なパターンに分けていきました。具体的な事件は少なくても、その後ろには同じような多くの事実があると言うことです。(聞き手:犬塚芳美)
                         (明日に続く) 

この作品は3月21日(土)より第七藝術劇場で上映
     4月中旬より、京都みなみ会館で上映予定


 *なお、22日(日)13:45の回上映前、
          野村宏伸さん、高橋玄監督、寺澤有さんの舞台挨拶あり
     上映後(17:10頃より)堂ビル4階新橋飯店オレンジルームにて、
          上記の御3方のトークショ-開催
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コメント


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監督さんの次の言葉を読んで、裏金を告発した仙波さんのことを思いました。
「例えば架空領収書を作るシーンで、沢山の名前の印鑑がありましたが、あれは移動する人が残していったもので、残したほうも何に使うかを知っているはずです。」

世の中の腐敗は、底知れない感じですね。
この映画、明日付の「千里タイムズ」に紹介してありました。そして、同じ紙面に『CINEMA,CINEMA,CINEMA』の紹介も!メールで、コピーを送りますね。

大空の亀 | URL | 2009年03月19日(Thu)18:46 [EDIT]


私もです!

インタビューの時、仙波さんの話と、東さんの書いた仙波さんの本の事、Iさんたち支援団体のこととかをお話しました。高橋さんも、「直接は知らないけれど、仙波さんの話はよく聞いています」と仰いました。
Iさんたちや仙波さんにこの映画の事をお知らせしたいと、出版社のほうには知らせたのですが…。
「千里タイムズ」ありがたいことです。どちらも創風社出版に絡んでいますね。

犬塚 | URL | 2009年03月20日(Fri)00:55 [EDIT]


 

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journalist-net | 2009年03月19日(Thu) 07:48