太秦からの映画便り

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映写室 「天安門、恋人たち」シネマエッセイ

映写室 「天安門、恋人たち」シネマエッセイ
    ―政治運動と恋とセックス―

 <中国映画が今面白い> 「レッドクリフ」のようにハリウッドに挑む大作もあれば、アート性の高い作品も作られる。この作品は後者で、中国では未だにアンタッチャブルな天安門事件と言う題材を、あの中にいた学生の視点から描き、大胆なセックスシーンも多いから、2006年にカンヌで上映された時、会場は賛美と衝撃でざわめいたという。しかも中国政府の許可を得ないまま国際映画祭に出品したから、後で「技術的に問題がある」と言う、訳の解らない理由で国内での上映が禁止になったし、ロウ・イエ監督は5年間の表現活動の禁止が言い渡されたりもした。この頃の日本では鳴りを潜めた、タブーに挑む前衛性が頼もしい作品なのだ。

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 (C) LAUREL FILMS/DREAM FACTORY/ROSEM FILMS/FANTASY PICTURES 2006

 <1989年6月にあった「天安門事件」>を覚えているだろうか。たまたま北京にいたテレビクルーが、武力鎮圧されて不気味に静まり返る天安門広場を映し、「この向こうで何が起こっているのかは解らない」と言いながら、何かに怯えて無意識に声を潜めていたのを思い出す。自由化は近いと思っていたのに、突然の事態にこの国が私たちの国とはまるで違うのを実感させられた。当然西側諸国の非難は激しくて、内部抗争も引き金になっていただけに、政府にとっては未だに清算できない事件のようだ。

 <この作品はそれを描いているわけではない> 田舎から北京の大学に進んだ超エリートの女子大生が、そんな時代を生きて、運命の男と出会い恋をしてセックスをして、別れながら忘れられずに、幾多の相手を経て又巡り会うと言う物語で、10年ほどの移り変わりの激しい中国をバックに、人は時代ほどには変われなくて、あの頃の記憶を抱えたまま体と魂がさ迷う様を描いたものだ。
 <これほどセックスシーンを描きながら>、誰と体を重ねても零れる主人公の虚ろさ。それは、もう手が届かないあの時求めた自由とあの時の彼が纏っていた自由への郷愁。いや、全ての可能性を信じていた若い日の自分への郷愁かもしれない。大学を出たばかりの監督が、あの騒動の中にいたからこそ持てる共感で虚ろさを描いている。

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(C) LAUREL FILMS/DREAM FACTORY/ROSEM FILMS/FANTASY PICTURES 2006

 <時代は20年ほども違うけれど>、この物語が日本の学生運動の頃に重なっていく。あの頃も革命を唱えながら、アジトの中で若者たちは目の前の恋とセックスで、時には仲間同士争うこともあった。自由と改革と恋とセックス、まるで違うこれ等が切り離せなくて、時に革命や自由は恋になりセックスになったのだった。でもどちらも追えば追うほど遠ざかる。全ては夢でもあり、若者のエネルギーの発露でもあったのだと思う。

 <政治の季節の残したものは重く>、運動の余韻を未だに引きずっている人は日本にもいる。衝撃の時代を見た若者を覆った虚しさと喪失感が、人生を曇らせた。空回りした虚しさこそが自由の代償で、さ迷う事も仕方がないと、しみじみと思わされる作品だ。それがあの時代を伝えることかもしれないのだから。
 余談だけれど、この年の1月、日本では雪の降る日に昭和天皇が崩御し、ドイツでは11月にあっけなくベルリンの壁が崩壊している。1989年も世界は激動していた。(犬塚芳美)


   この作品は第七藝術劇場で上映中。
   時間等は、直接劇場(06―6302―2073)までお問い合わせください。
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コメント


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運動とセックスうーん深い。

| URL | 2008年11月28日(Fri)04:21 [EDIT]


言葉足らずなままですが

でしょう? 言葉足らずなままですが、もっと考察したら其処には深いものがあるだろうと感じています。

犬塚 | URL | 2008年11月28日(Fri)08:20 [EDIT]


 

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映写室 「天安門、恋人たち」シネマエッセイ:犬塚芳美

    ―政治運動と恋とセックス―  <中国映画が今面白い> 「レッドクリフ」のようにハリウッドに挑む大作もあれば、アート性の高い作品も作ら...
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journalist-net | 2008年11月05日(Wed) 07:40


 
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