太秦からの映画便り

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映写室 NO.175天国はまだ遠く

映写室 NO.175天国はまだ遠く   
 ―海と里山で癒されに、宮津に行きたい!― 

 <仕事や日常に疲れると>何故か人は旅に出たくなる。しかもそんな時に目指すのはたいてい自然溢れる田舎、靴を泥だらけにして野山を歩きたいと思うものだ。癒しの旅の目下の候補地は宮津。ぐっすり眠って、目覚めたら産みたての卵で作った玉子焼きと、炊き立てのぴかぴかのご飯を食べて、おみお付けの具は前の畑で取れた野菜。お昼ご飯には蕎麦を打ってもらおう。物音一つしない夜は寝転んで満天の星を眺め、後は闇と一緒に眠るだけ。旅行鞄を横目に、そんな時間を夢見てこの映画のロケ地マップを眺めた。
 <「幸福な食卓」等の映画化作品もある>、瀬尾まいこ原作の温かい癒しの世界が、そんな自然と、M-1グランプリも制した人気お笑いコンビ、チュートリアルの徳井義美演じるストイックな青年から伝わってくる。紅葉の頃と季節もいい。(海と里山に抱かれに、宮津に行きたい!)と思わせられる作品です。

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(C) 2008『天国はまだ遠く』製作委員会

<荒筋>
 仕事も恋も上手く行かない千鶴(加藤ローサ)は、「知らない土地でさよならするのだ」と空っぽのトランクを持って、小さな町を訪れる。絶景の宿「たむら」と言う民宿に泊まり、睡眠薬を大量に飲んだが、32時間後に美味しそうな匂いで目覚める。主は両親からここを継いだ若い男(徳井義美)で、1泊1000円で良いという。千鶴は死のうとしたことも忘れ、田舎暮らしを楽しみ始める。


 <話自体はちょっとした御伽噺のような浮遊感>でも、そこは日常の微妙な思いをさりげなく描く瀬尾まいこ、ディテールや言葉がはっとするほどリアルで、この物語を身近に感じさせる。明日にでもふらっと出かけて、タクシーで民宿「たむら」を探せばこの少女になれそうだ。「ここは何もないとこや」と田村が言うけれど、何もないからこその宮津の自然とそこに住む田村の無骨な優しさに癒されて、知らず知らずに頬が緩む。若い頃の絶望なんてそんなもの、この作品で、死のうと思っても些細なきっかけで明日はあっけらかんとなれるのを、思い出して欲しい。

 <自殺にも失敗し、恋人へのその予告も意味が伝わらない>、不器用でノー天気な千鶴を加藤ローサが可愛く演じて、微笑ましくもある。たいていの若い女性は、千鶴のように思い込みで八方塞に陥ることがあるものだ。死にたい願望だって、このレベルだったら解る。そこがこの物語の巧みさで、構えているものを脱げば、誰もがこんな風にそそっかしくてちょっと自惚れの少女になってしまう。長逗留してもあくまで旅行者の視点で、そこに溶け込み過ぎないのもリアルで、まるで私たちが何処かを訪れたかのように物語は展開する。何か訳があるらしい旅行者を、何にも聞かず温かく包み込む人々。少し休めば元気は戻るもの、ここは人生の小休止を黙って受け止めてくれる場所らしい。

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(C) 2008『天国はまだ遠く』製作委員会

 <傷心の千鶴をさりげなく包む田村は>、都会の青年にはない骨太さが魅力だ。こんなに長い演技は初めてだと言う徳井が、田村は普段の自分のままだと言う様に、あまりに自然に演じるから、現実と混同して彼を探しに宮津に行きそうになる。既存の俳優ではない匂いに「あの人の本業は何?」と聞くと、さすがは大阪の人たち、皆詳しくて得意そうに、今人気のお笑いコンビのイケメンのほうだと教えてくれた。映画を見ない人や大学生にもそんな話題を出したが、私以外は皆彼のことを詳しく知っていて驚く。今度は映画ファンにも認知されたわけで、徳井義美の素敵さを見る作品でもあるのだ。余談だけれど、相棒のほうもさりげなく登場しているので、ファンの方は楽しみに見て欲しい。

 <自然な演技の二人が演じるから>、千鶴と田村のほのかに芽生えた思いもリアルで、まるで不器用な友達の恋を覗いている気分。気が付くと観客全員が二人の応援団になっている。思いとずらした台詞や繊細な感情表現が巧みで、本当の事は言わないもの、創造の世界はとても繊細な域に入っているのだと、原作者、監督、演技者等と若いクリエーターたちの力量がまぶしい。
 
 <宮津が故郷の原作者だけでなく>、シナハンをした長澤雅彦監督と脚本家の三澤慶子さんも、よほどこの地を気に入ったのだろう。自分たちの故郷の様に、愛を込めて宮津の名所を案内している。
 <圧倒されるのは、見上げて俯瞰してと>、色々な角度からカメラが捕らえる紅葉のメガネ橋の情景。自然は癒しばかりではない。人を引き込むような魔力もある。自殺の名所と言うのが解かる様で、美しさに魂を抜かれそうになる。自然の中で暮らすとはそんな魔力にも負けない何かを体の芯に持つこと。それが田村を素敵にしている物でもある。魂を抜かれても仕方ないから、この橋に立ってみたい。(犬塚芳美)

   この作品は11月8日(土)より、テアトル梅田、なんばパークスシネマ、
                     MOVIX京都他でロードショー
          11月15日(土)より、109シネマズHAT神戸で上映予定
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コメント


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瀬尾まいこさん

瀬尾まいこさんは、確か「坊ちゃん大賞」(こんな名前だったかな?)をとった人で、実力があります。
今は宮津の辺りで、現役の中学校教諭。やっと講師から正教員になれました。(なんて、自分のことのように…)
優しく丁寧な小説を書く人で、好きな作家の一人です。中学生にもファンが結構いますよ。
チュートリアルの徳井くんは、美男子なんだけどかっこつけてなくて、たしかコスプレオタク。姉さん話題の多い人。
ごめんなさい。知っている二人の名前を見て、つい嬉しくなって…。

原作と俳優さんで、すでに癒しの世界ができているような気がします。
そこに、宮津の自然ですものね。私も行きたいな。映画にも宮津にも。
毎回、見たいなと思わせる解説が続いているので、何とか時間を作って見に行きたいです。

大空の亀 | URL | 2008年11月07日(Fri)08:57 [EDIT]


皆詳しい!

正確には「卵の緒」で「坊ちゃん文学賞大賞」をとられたようですね。故郷の文学賞も良い事をするんだなあと、ちょっと鼻が高い。でも瀬尾さんが現役のしかも宮津あたりの中学教諭だとは知らなかった。どうりで詳しいはずです。こんな先生に教わるなんて、又其処から次世代の瀬尾まいこさんが出るかも。
私は映画を2本、本は「幸福な食卓」を読んだだけですが、ナイーブな心理描写が本当に丁寧ですね。セリフのリアルさにも、漂う世界観にも感動しました。今そんな感性の表現が出来る所が若い世代に移ってしまって、それが皆本当に上手くて、昔のようなわざとらしさが無い。上の世代の物を創る人たちは大変です。
徳井君も、都会の青年には無い骨太さが素敵です。いっぺんにファンになりました。
余談ですが、忙しかった自分へのご褒美に、ロケ地マップには載っていないめがね橋を見に行こうと思って調べたら、ここはよその場所で、岐阜の方のようです。それ以外を楽しんでと言うことですね。

犬塚 | URL | 2008年11月07日(Fri)19:57 [EDIT]


地元でも盛り上がっています

ロケ中は地元も協力して皆で作った気分です。先行上映のあった地元では大盛り上がりでした。紅葉もきれいになってきました。美味しいお魚を食べに宮津に来て下さい!

宮津から | URL | 2008年11月12日(Wed)08:50 [EDIT]


宮津に行きたい!

この映画を見ると無性に宮津に行きたくなりますね。地元が協力しても中々そうはならないものだけれど、そんな意味でも協力のし甲斐があったというもの。地元の皆さんの暖かさがにじみ出ています。地元の皆さんが一杯映っていると言う集会場の宴会が楽しそうでした。

犬塚 | URL | 2008年11月12日(Wed)15:33 [EDIT]


毎回ご飯が美味しそうでお腹がすいてきました。徳井君は堂々としていて立派なもん。テレビの色々な番組に出ています。気をつけてみてください。

K.K | URL | 2008年11月23日(Sun)10:00 [EDIT]


この作品以来(徳井君も知らないなんて…)と、自分が世間から遅れているのを実感しています。駅のポスターにも大きく載っていました。まだテレビでは遭遇していなくて…。ご飯は監督が「かもめ食堂に負けるな!」と大号令をかけたようですね。本当に美味しそうで、加藤ローサさんはそれを本当に美味しそうに食べただけでも(本当に美味しかったらしい。特にご飯が最高だったとか)適役でした。宮津に行きたくて仕方ありません》多分行くと思いますが。

犬塚 | URL | 2008年11月24日(Mon)09:56 [EDIT]


 

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