太秦からの映画便り

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映写室 NO.176レッドクリフPart.1

映写室 NO.176レッドクリフPart.1   
  ―ハリウッドから里帰りのジョン・ウーが送る「三国志」― 

 オリンピック景気に沸いた中国から、その余勢を借りたようなスケールの大きい作品が登場した。見所の1番は迫力の戦闘シーンで、世界でもトップクラスのSFXスタッフと組みながら、リアリティと臨場感を求めて、撮影には1000人以上もの現役兵士と200頭以上の馬を使ったという。中国だからこそ可能なこの人海戦術、スクリーンからはみ出しそうな馬の大群、地響きまでを体に感じて、土煙にうごめく人々に圧倒される。制作費100億円が底をつくと、監督自らが10億円を投入し、最後まで完璧を目指した成果を大きなスクリーンで確かめて欲しい。男性向けの題材なのに、裏には愛や横恋慕が見える構成も巧みで、女性ファンにとってもトニー・レオン、金城武、チャン・チェンと、アジアの誇る美しい男優たちの競演が見逃せない作品です。

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(C) Bai Xiaoyan

<荒筋>
 西暦208年、80万の兵と戦艦2000を持つ曹操(そうそう)は、周辺に勢力を伸ばしていた。天下を掌握しようと劉備(りゅうび)と孫権(そんけん)にも降伏をせまるが、それぞれには、孔明(こうめい)と周瑜(しゅうゆ)と言う名将がいる。たった5万の兵で仁義無き大軍と戦うことになった。実は曹操の目的は周瑜の美しい妻小喬(しょうきょう)を奪うことだ。


 <孫権の悩める君主にはチャン・チェン>、その軍の人望厚い司令官周瑜はトニー・レオン、彼の妻小喬役にはトップモデルのリン・チーリン、ここの武将に日本から中村獅童が参加して、周瑜をかき口説く劉備の軍師孔明には金城武が扮する。…と乱世を生きる英雄が大集合で、漢字が続いて飲み込みにくいけれど、実際に画面を観れば大丈夫。時々洋画で、同じような体型で同じくらいの年齢の、同じようなスーツを着た白人が次々と出て来て、アジア人の私には誰が誰なのか訳がわから無くなることがあるが、この作品はそこらあたりに充分な配慮があり、特徴的な顔立ちの俳優を並べた主な人物たちは、他の文化圏の人にも解りやすいと思う。そう考えると日本からは美男と言うより個性派の獅童というのも、納得が行く。
 <三国志やそれぞれの俳優を知らなくても充分>楽しめるが、知っていればより深くなりそうで、通には通の深さのある作品だ。実は私は1日置いて2度観たが、2度目になってより細かい表情に気が付いた。覇権争い、駆け引き、奇策、ちりばめられている有名なエピソード、今回の工夫等、監督の構成した多くの下敷きの上で俳優達はそれぞれの人間ドラマを演じている。歴史的な争いを見るか、人間ドラマを見るか等、一度に全てを見るのは無理なほどに重層な仕組みになっているのだ。余裕があれば繰り返し見て、より創り手に近い視点で、ジョン・ウーの企みや方法論を探ると面白いと思う。

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(C) Bai Xiaoyan

 <まず魅せるのがトニー・レオン> この配役は難航して色々なビッグネームが出ては消えたが、今回の情に厚く穏やかな周瑜像はトニー・レオンと決まってから書き直したものだという。指揮棒を手に冷静に軍を動かしていても、いざとなると先頭に立って攻めていく果敢さ。勇ましい戦闘シーンだけでなく眼差しの一つで心を掴む人望の厚さを滲ませ、皆にとっての司令官は一人の男として限りなく魅力的なのだ。金城武と二人並んだ美しさは格別で、一番の見せ場のジャズセッションを思わせる激しい琴の競奏は、この物語が争いを描いているのを忘れさせる。時々絡みつく二人の視線はいわば男同士のラブシーン、一方リン・チーリンとの本物のラブシーンは、少しぎこちない所に二人の気品が漂い甘やかで美しい。トニー・レオンはやっぱりラブシーンの名手なのだ。

 <金城武は今までで一番と言って良いほどの存在感>で、深い彫りの顔が時々憂いを帯び、美しい青年はいつの間にか大人の色香を漂わす骨太な男になっていて驚かされる。少し乱れた髪にこの男の複雑な心情を覗かせるのが、今後の展開を不透明にして又見事だった。チャン・チェン君主の端整な横顔に浮かぶ苛立ちと気負い、その妹の大きな瞳と勇ましい姿、一人一人の人格が際立ち、個性的な俳優陣が織り成す人間模様に魅せられる。
 <人を切っては捨ての残忍な血生臭い話>なのに、気の弱い私でも何とか見れるのは、監督の込めた躍動感と軽快なリズム、からっとした作風だと思う。武将は誰もが主君に忠義を誓い、信じる力で戦いを潜り抜けていく。男達の物語なのに、匂やかな女達が少ない出番で鮮やかさを加え、しかもラストには甘い歌声がこの物語の底流の愛を浮かび上がらせる。時代劇なのに其処に流れているのは今と変らない空気感と言うのも見事だった。…とジョン・ウーへの賛美が止まらない。

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(C) Bai Xiaoyan

 <そんな人間模様だけでなく>、本来の「三国志」ファンには見逃せない、名場面や両陣営が繰り広げる戦いの形も解りやすく示されていく。ざざっと動く楯の作る亀甲模様の八卦陣、逃げたと思わせた女達を使った囮作戦や奇襲と、鮮やかな展開だ。もっとも肝心の赤壁の戦いは4月公開の5時間の物語の後半、Part.2に委ねられて、待ち遠しい。
 <この作品は衣装や小道具も見所で>、よく見ると大胆なデザインなのに、しっくりとした色で全てを馴染ませ、観客を幻想の世界に引き込んでいく。ワダエミの撒いた種は中国衣装のレベルを相当に押し上げている。しかも誰もがそんなコスチュームに負けることなく着こなし、しっかり人物像に焦点を当てさせるのが見事だった。壮大な物語に負けない壮大な映像になっている。

 <ジョン・ウー監督の18年の構想>に、中国が国を挙げてサポートし、日本、アメリカ、韓国、台湾等の大手映画会社も資本参加した。ハリウッドに挑む大作は、多くの協力で成り立っている。それがこの作品のテーマ「友情」、「智謀」、「団結」にも重なるようで、男達の企みは大勢の仲間と、影で支える女達がいればこそ実現できるのだった。ジョン・ウー監督の描いたのは今回も男の世界。ロマンと友情に支えられたヒロイズムは、さあ後半でどうなるのだろうか。(犬塚芳美)

   この作品は全国で上映中。
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