太秦からの映画便り

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映写室 「夢のまにまに」長門裕之さんインタビュー(前編)

映写室 「夢のまにまに」長門裕之さんインタビュー(前編)
    ―有馬稲子さんを妻の南田洋子さんと重ねながら―

 日本を代表する美術監督の木村威夫さんが、ご自分の人生と戦争への思いを綴ったものを基にして、初の長編監督作品に挑みました。命を救えなかった若者との往復書簡を挟み、老いと若さ、男と女、生と死を、戦争体験と絡ませて浮かび上がらせる様は、題名の通りまるで木村さんの「夢のまにま」のよう。90歳を超えての初監督はギネスコードだそうです。映画界での長いキャリアを物語るように、豪華な俳優陣が駆けつけていますが、木村さんに重なる主人公に扮するのは長門裕之さん。ちょうど長年連れ添った妻で女優の南田洋子さんがアルツハイマーになった様を、TVドキュメンタリーで公表した直後でもあり、この作品の話だけではなく、役とも重ねて介護の日々を伺いました。

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(11月14日 大阪にて)

<その前に「夢のまにまに」はこんなお話>  
 映画学校の学院長の木村は精神を病んでやめていった学生村上(井上芳雄)が気になる。村上は木村にどうして戦争をしたんだと、生きたかったのに死んでいった若者たちの無念さをぶつけていた。頻繁に手紙を交換するがとうとう自殺してしまう。そんな木村の前に木村を描く女性(宮沢りえ)が現れる。それは青春時代の淡い思いの相手に似ていた。自宅では妻のエミ子(有馬稲子)が夢と現の間で原爆で亡くなった姉の形見を離せないでいる。

<長門裕之さんインタビュー>
―映画界の重鎮の木村威夫さんの演出はいかがでしたか。
長門裕之さん(以下敬称略):木村さんは我々とは別の次元の方で、はるか上の事を考えてらっしゃいますから、あの方とイメージを共有するのは無理です。台本を見てもドラマツルギーから離れていて、参考にならなかったですね、役について何も見えてこないし浮ばない。で、どうしますかと伺ったら、何もやらないで下さいと言われました。これは僕ら役者にとっては辛い。イメージも沸かずしかも役つくりをやらないでくださいと言うのは、両手両足をもぎ取られたようなものです。現場での木村さんとは距離がありました。そんな訳で何もやらせて貰えず充足感のないまま撮影が終わったんですが、仕上がりを見るとさすがに木村さんですよ。初めて、ああこんな風になるのかと思いました。人間を救おうと思っても救えるもんではないとかいった葛藤が写っています。ただこれは木村さんの作品なのでこの中には自分のものは何もありません。

―長門さんを始め豪華な俳優陣ですよね。
長門:そりゃあ木村さんが長年映画界で培ってきたものがありますからね。宮沢りえさんはずっと主役を張ってきた人だけに存在するだけで輝いている。さすがにオーラが違いますね。有馬稲子さんは久しぶりの映画出演ですが、お婆ちゃんぶりが可愛いでしょう?仕事にかけるエネルギーが凄くて、有馬さんがいるだけで現場に緊迫感が出ましたね。桃井かおりだって少ない出番で存在感がありますしね。彼女のおかげで母親の役が大きくなっているでしょう?浅野君や永瀬君は前の作品からの付き合いでしょうね。これだけの俳優を集められるのはさすがです。能楽師の観世榮夫さんはこれが遺作になりましたしねえ。僕もこの年で主役をやれて幸せですよ。今上映中の東京でも評判が良くて、それもだんだん良くなってきて、弟のマキノ(津川)雅彦が俺も見に行くよと言ってくれました。

―有馬稲子さん扮する痴呆の妻を慈愛込めて見つめる長門さんが印象的でした。
長門:そうですか。まあ、そのあたりは現実と重なります。もうご存知だと思いますが妻の洋子が認知症をわずらってましてね、今日のように家を出る時等は気になるんです。これを撮っていた頃は、まだこの間のドキュメンタリーで見ていただいたほど悪くなかったんですが、ああいう場面等は家に置いてきた洋子の事が頭をよぎったかもしれません。当時はまだトバ口で認知症かどうか解らなくて、何で自分だけがとか、どうしてこんな事にとかね、泣けたし悲しかったですね。仕事に来ても本当言って頭のどこかに洋子のことがあって、これからどうなるんだろうと現実に怯えていました。しかも世間では洋子が仕事をしないので色々な憶測や間違った噂が広まっている。それも気になりましたし、僕自身も日々進行する症状に洋子はこの先どうなるんだろうと不安になる。認知症の行き着く先を知らないので、それも知りたい。こうなったら洋子を皆に見てもらって、この病気をもっと研究してもらおう。そうしてこの病気が治るようにしないといけないと思ったんです。今まで僕が洋子を映したものもたくさんありますから、今度も自分で映してもよかったけれど、それでは僕が映らないでしょう。我侭ですが二人の関係性を映しておきたかったんですよ。

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(C)2008パル企画/ポニーキャニオン/トルネードフィルム

―そのあたり映画監督の視点で、さすがマキノ一族の方だと思いました。
長門:日本はこれから凄まじい高齢化社会に突入しますからね、アルツハイマーは大変な問題になってくる。この病気はもっと早く研究されるべきだったんです。そうしたら洋子だって直っていたと思う。洋子の最後の仕事は僕と一緒の北海道の旅番組でした。洋子が「どうしても台詞が覚えられないからカンニングペーパーを出してもらってもいいか」と言うんですよ。「そんないい加減なことは駄目だ、付き合ってやるから徹夜しても覚えろ」と怒って、二人で必死で一晩中洋子は泣きながら何とか覚えたんですが、その後で「台詞が覚えられないから仕事をやめてもいい?」と言って、それが最後の仕事になりました。その時はまだ認知症だとは思わなかったんです。
―先日放映されたお二人のドキュメンタリーは凄い視聴率だったと伺いますが。
長門: 7時台に地味なドキュメンタリーだと言うのに23パーセント近くの数字が取れた。それは洋子が女優と言うのも大きかったでしょうし、世間の皆さんが僕らに注目してくださったわけですからありがたいですよね。翌週の別のドキュメンタリーは7パーセントも取れなかったと聞いています。誰でも同じなんですけどね、残念ですが現実はそんなもんです。やっぱり洋子だから皆の注目を集めたんでしょう。ただ実際はあんなどころじゃあありません。もっと大変な事や修羅場があります。僕も情けなくてね、思わず叩いてしまう事もある。(聞き手:犬塚芳美)
              <明日に続く>

この作品は、11月29日(土)より第七芸術劇場 
        1月10日(土)より神戸アートビレッジセンターで上映
        1月京都シネマにて上映予定
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コメント


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あの大女優の南田さんがどうしてこんな事にと衝撃を受けましたが長門さんのお話を読み、それを公表された長門さんの勇気にも感動しました。こうしてこの病気を一般の方が知り長門さんの言われるように研究が進んで欲しい物です。ただアルツハイマーは早く対処すればいくらか進行を遅らせる事は出来ます。ドキュメンタリー番組でも其処を強調して欲しかったと思います。

akiko | URL | 2008年11月27日(Thu)19:22 [EDIT]


早期治療が肝心!

何事もですが早期治療が肝心ですよね。現実を受け入れるのが怖くて、1日延ばしにするのはよくあることですが。私もそう思ったけれど、今更言うのも残酷で言えませんでした。映画のことを伺ってもどうしても奥様のお話になって、今長門さんの心に占める南田さんの比重の大きさを感じました。

犬塚 | URL | 2008年11月27日(Thu)23:09 [EDIT]


 

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