太秦からの映画便り

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映写室 NO.188 ベンジャミン・バトン 数奇な人生

映写室 NO.188 ベンジャミン・バトン 数奇な人生
    ―80歳の肉体で生まれ、年を取るごとに若返っていく男―

 <既成概念かもしれないけれど>、生まれたばかりで何も知らない知能や心には、柔らかくてぴかぴかの肉体が似合う。逆に、成熟した知性や心には、深い皴が味わいになる。なのに、この数奇な運命の男ベンジャミン・バトンは、心や頭脳と言う目に見えない部分と目で見える肉体との年齢が、逆の組み合わせだった。つまり1歳の心と頭脳に80歳の肉体という風に。赤ん坊には誰もが触りたくなるが、老いた肉体となるとちょっと違う。畏敬の念を抱くのは肉体にではなく、その向こうに老成した精神が見えるからだ。考えてみると、何も解らなくなった頭と心はまるで赤ん坊のようなもの。今人生の最終章はたいてい痴呆になる。どうせ誰かの手を借りるのなら、この物語のように懐に抱かれるのが似合う、幼い肉体がいいかもしれない。
 <原作は「グレート・ギャッツビー」のF・スコット・フィッツジェラルドで>、フラッパーな暮らしの空しさを描いた彼が、こんなにも意味深で不思議な短編を書いていたとは!と驚く。まるですれ違う電車が一瞬重なったように燃え上がった主人公たちの恋。それは愛でもあって、心が深く結びつくほど肉体は離れていく。愛とは、人の一生とはと、答えの出ない深い思いにとらわれる作品です。

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(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

<荒筋>
 裕福な夫婦に男の子が誕生するが、赤ん坊はまるで老人のようにしわくちゃだった。母親は産褥で死に、驚いた父親はわずかなお金と一緒に老人ホームの前に捨てる。こうしてベンジャミン(ブラッド・ピット)は、其処で働く黒人女性に我が子として、老人達と一緒に育てられた。少しずつ背が伸び腰も伸びてくる。12歳の時の姿は腰の曲がった老人だったが、デイジー(ケイト・ブランシェット)と仲良くなる。二人が再会した時、デイジーは目の前の美しい青年がベンジャミンだと気付かないで激しい恋に落ちる。


 <年齢を逆にとるベンジャミンは>、いつも他の人の人生に伴走できず、すれ違うようにどんどん離れてしまう。出会いは本当に一瞬の事なのだ。そんな孤独を運命として受け入れていたのに、激しい恋ではそうは行かない。何時までも一緒にいたいと思うから、自分の運命がよけいに辛い。
 <二人の人生が重なった証は>、娘だけ。片方は老いていく自分が彼にふさわしくないと思うし、片方は若くなっていく自分が娘の父親にふさわしくないと思う。心では求め合いながら、二人だけならともかく、娘までの人生を含めて考えると離れるしかなかったのだ。もしかすると、娘のことだけでなく、外観の変化でお互いの心が離れるのが怖かったのかもしれない。あまりにも過酷な経験から、ベンジャミンは今の幸せが続かないのを知っていた。

 <普通の成長過程を送ろうとも>、ベンジャミンのような真逆の人生を送ろうとも、成熟して身も心も満たされた“人生の良い時期”は短いのだと思い知らされる。でもそこで本物の出会いをすれば、その愛が人生を照らすと気付く。この二人がそうだった。惨めな姿をさらしてもやっぱり寄り添いたい人、気取りも何も全てを捨てて寄り添った時が本物の愛なのだろう。

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(C) 2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment All Rights Reserved

 <こんな不思議な物語の映像化を可能にしたのは>、もちろん今日の特殊メイクとCG技術の発展で、主演のブラッド・ピットもケイト・ブランシェットも、本当の彼らがどれなのか解らないほど自然に、あらゆる年齢を行き来する。ケイトはプリマドンナを目指すぴかぴかのお肌の少女になったかと思えば、終盤は皴に人生と慈愛を込めた老婦人を演じるし、もっと凄いのがブラピで、初めて彼に惹かれた「テレマ&ルイーズ」のジージャンの青年の姿になる。まずその技術力に驚かされた。
 <そんなビジュアルに魂をこめるのが>二人の名演で、特にブラピは、数日前に観た別の作品で、脳みそまで筋肉で出来ているような気がいいだけの青年を嬉々として演じていたので、本当の彼が解らなくなった。
 ブラッド・ピットとデイヴィツド・フィンチャー監督は「セブン」、「ファイト・クラブ」に続く3本目のコラボだし、主演の二人は「バベル」に続くコンビで、気心の知れた実力派同士が、映像技術以上に演技力を見せ付けている。どちらもの意味でメモリアルな作品だ。

 <ベンジャミン・バトンの人生が教える事>は大きい。どんな姿になろうと大切に抱いてくれた養母とデイジー、結局は彼の魂が身近な人を魅了した事になるが、私たちのうちこんな愛を手に入れられる人がどれほどいるだろう。いや、いざとなれば私たちの愛だってこんな風に深いかもしれない。人と人って結局は魂を見ているはずだから。
 気が付かないけれど、私たちの一生を精神から映像化すれば、こんな風なのかもしれないとも思わされる。子供ほど、全てを受け入れる偉大な大人なのかもしれないもの。


 <映画に感動しながらも>、今回は、こんな不思議で核心を突いた物語を作った原作者のF・スコット・フィッツジェラルドに、より以上に思いを馳せた。対照的なようで「グレート・ギャッツビー」と共通して漂う物、人生の儚さにとらわれていた作家なのだろうか。こんな事を考えていては神経が持たない。フラッパーに騒ぐしかなかったのだろうと彼の人生を思った。
 <デイヴィツド・フィンチャー監督は素晴らしい> 彼の元に集った映画人達が、今の映画界の持てるもの全てを酷使して作った作品です。(犬塚芳美)

  この作品は、2月7日(土)より全国でロードショー
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コメント


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最初、あまりにも

突飛な設定で(手塚治虫の「火の鳥」にもそんな話がありましたが…)、中身的にはどうなんだろう…?と気になっていましたが、この記事を読んで、是非観てみたくなりました!
今、日本の女性の間では「アンチエイジング」なんて単語が踊っていますが、人は必ず年を取り、そして死ぬいうこと、そしてそれをどう受け入れ、向き合っていくか…そんなことのヒントがありそうな気がします。
ちなみに「映画館に行こう」の本、私も是非購入します!とっても楽しみにしていますe-266

ayako | URL | 2009年02月06日(Fri)23:45 [EDIT]


心に染みる作品です

設定は突飛なのだけれど、考えてみるとそれほど突飛でもないと思わされる。物語の構成の巧みさと、確かな技術力と演技力の賜物で、よけいにそう感じます。
どの年代のベンジャミンも哀愁を漂わせていて、それが演技力による物なのか、彼の宿命から来る物なのかと考えました。多分両方なのでしょうね。ayakoさんのコメントを読んで、私ももう一度劇場で見たくなりました。
ちなみに、本は昨日出版社から、ちょっと興奮気味に「今出来上がった!」と電話がありました。この瞬間の喜びの為に彼らは苦労して本を作り続けているんだなあと、実感。私の喜びより大きそう。でも私も今完成品を見るのを楽しみにしています。

梅田だと紀伊国屋やジュンク堂、ブックファーストで確実に取り扱われますが、今、明石のお店にも置いていただけるよう交渉中です。もしない場合は、ジュンク堂の明石店に、「CINEMA,CINEMA,CINEMA 映画館に行こう!関西映画館情報」 創風社出版(地方・小出版流通センター扱い)と言って、申し込んでいただけば大丈夫です。よろしくお願いいたします。

犬塚 | URL | 2009年02月07日(Sat)06:32 [EDIT]


ブラピ御夫妻の映画 両方とも見るべき?

<デイヴィツド・フィンチャー監督は素晴らしい> 『彼の元に集った映画人達が、今の映画界の持てるもの全てを酷使して作った作品です。』
 なるほど、これは是非見たい映画です。有り難うございます。

K.Ishikawa | URL | 2009年02月09日(Mon)03:04 [EDIT]


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| | 2009年02月09日(Mon)03:11 [EDIT]


周り中にぜひ見るべきだと力説しています

ハリウッドの底力を感じる作品です。美しくて演技力があって、体当たりする根性があって、スタッフの技術力も高い。切磋琢磨で鍛えられているのですね。こうしてみると、映画はやっぱりアメリカの国として誇るべき産業なのだと思います。
映画っていいですね。それを大きいスクリーンで観るのはもっと良い。

「CINEMA,CINEMA,CINEMA 映画館に行こう!関西映画館情報」 創風社出版(地方・小出版流通センター扱い)の本をよろしくお願いします。まわし読みできる本ではありません、自分で1冊持っていて時々広げてチェックしたい本。1人1冊とは言いませんが、一家に1冊必須の常備本。周りの方にも薦めてください。
どうぞよろしく!

犬塚 | URL | 2009年02月09日(Mon)08:02 [EDIT]


 

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