太秦からの映画便り

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映写室 NO.196フロスト×ニクソン

映写室 NO.196フロスト×ニクソン 
   ―リチャード・ニクソンとは、一体何者だったのか?―

 アメリカの一般市民に「歴代大統領のうち“もっとも好ましくない大統領は”」という質問をすると、ジョージ・W・ブッシュと共に、たいていリチャード・ニクソンが上がるという。でも歴史学者や政治学者の評価はそれほど悪くない。大衆と専門家の間でかなり評価が違うのだ。実績を残しながらウォーターゲート事件の汚名にまみれ、任期半ばで退任したリチャード・ニクソンとは、一体どんな男だったのか。トニー章受賞の傑作舞台劇の映画化で、今も語り継がれる伝説のインタビューが再現される。

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(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

<荒筋>
 1977年、米国元大統領ニクソン(フランク・ランジェラ)に、イギリスのテレビ司会者、フロスト(マイケル・シーン)が独占取材を申し込む。政界復帰を目論んでいたニクソンは、タレントのフロストをくみやすしと考え、巨額の報酬で承諾する。一方フロストは、これをきっかけに米国メディア復帰を目指していた。それぞれの思惑の元、カメラの内と外で丁々発止のやり取りが始まる。


 <主演の二人は舞台と同じ俳優なので熟達の境地にあり>、どちらもこれ以上望めないほどの役との一体感。まるでリアルタイムで本物のインタビューを見ているように、一挙手一投足に息を呑む。ただ正直に言って、主役の二人はどちらも気持ちのいい人間ではない。特にマイケル・シーンの演じるフロストは、メディアと言う水商売の垢がたっぷり。日本で言うと「古館一郎」や「みのもんた」のようで、人を食った雰囲気に違和感がある。ビジュアル的にも日本人の私には馴染みにくい顔立ちで、企画が売れなくて金銭的に追い詰められるシーンにすら、気弱さを隠す精一杯の虚勢や自意識が鼻について、同情はしにくいのだ。
 <彼に追い詰められるフランク・ランジェラ演じる>のニクソンの方がまだしも深い。ニクソン本人のものなのか、演じた俳優の力なのかは解らないが、老獪さと孤独、弱さが共存していて、何を考えているのかと心の内を図りかねる。これこそが政治家かもと目を見張った。ただしそこは映画的な表現というもので、ランジェラがあらゆる感情を顔面で複雑に表現するのが見事で、余計に人間味が増してもいるのもある。本物の政治家なら、これほど表情に心のうちを出さないだろう。

 <こんな具合に名演ながら、二人のどちらにも感情移入できない>のがこの作品の特徴で、私たちは目の前の凄まじいやり取りを、聴衆そのままにジャッジするようにテレビ的視点で見ることになる。まあ、疑惑の主へのインタビューという設定だから、それが正しいのだけれど、本当にどちらもが曲者だ。
 <老人臭かったニクソンは>テレビカメラが回り始めると急に威厳を持ち始めるし、元大統領の風格も戻ってくる。最初のフロストをなめた視線や、途中からの甘く見ていた相手の意外な力に身構える瞬間等、刻々と変わる心のうちをランジェラが解りやすく演じていく。

 <元大統領に気を使わずに>、言葉尻を取ってじわじわと追い詰めるフロスト、彼の厭らしさも凄い。まるで言葉のボクシングのようなやり取りさえも正義感よりは野心丸出し。こうでなくてはこんな仕事は出来ないのかもしれないが、どうも苦手だ。
知性よりも成り上がり根性が見えて、どちらもに人間的な品性を感じられず、いわば二人の厭らしさ比べをしたようなインタビューだった。

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(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 <驚くのが収録時間の長さ> まるで回顧録の聞き取りのように2週間も当てられる。脛に傷の有る身でそんな条件を飲んだニクソンの甘さを感じたが、ニクソンはニクソンで、弁明と政界復帰の宣伝に最大限に利用したかったんだろう。テレビを利用しようとして、テレビに止めを刺されたといえるかもしれない。
 <そうして作られた実際のインタビュー番組は>450万人のアメリカ国民を釘付けにしたという。唇の上に噴出す汗に象徴される元大統領の緊張、思わず「大統領は時に法律を超える存在だ」と言わされてしまう無防備さ、多くの業績を残しながらアメリカ的な正義感の元、大衆の好奇心の渦中に引きずり出されたニクソン。私には元大統領という以上に一人の老人に見えた。望みをたたれて背中を丸めた後年の姿が痛ましく映ったのは、フランク・ランジェラの名演に負けたということだろうか。

 <ロン・ハワード監督は>、このインタビューをリアルタイムで見ている。追い詰められたニクソンの懺悔で、もう2度とこんな醜い事件は起こらないだろうと思ったというが、この映画を見た観客の私に残ったのは、背後の謎とニクソンの得体の知れなさだった。再選確実といわれた男が、汚い手を使ってまで知りたかった民主党側の情報は何だったんだろう。「大統領は時に法律を超える存在だ」という言葉に、言葉尻を掴んだという思い以上に、そうまでして知りたかったことのほうに興味を持ってしまう。アメリカ国民ではない私は大衆の嫌悪感も持てないし、政治学者の知識もない。最後までフランク・ランジェラのかもし出した不可解さにやられっぱなしだ。(犬塚芳美)
 
《ちょっとディープに》
 <リチャード・ニクソンの功績>は、まず外交面では、泥沼化していたベトナム戦争を終結させ、中国との国交を回復し、ソ連とはデタント政策で緊張を緩和したりと、共産主義圏との冷戦関係を平和的に解決しようとしたことだ。内政面でも経済を再建し、人種差別撤退を遂行。環境問題にも取り組み、環境保護庁を設立して、オイルショックへの対応策として石油節約の為に高速道路の最高速度を制限もしている。こんな実績を引っ下げ、再選確実といわれていたニクソンが、一気に泥にまみれたのがウォーターゲート事件だった。
 <ウォーターゲート事件は> 1972年6月の事で、ワシントンD.C.のウォーターゲート・ビルにあった民主党全国委員会本部オフィスに、5人の男が不法侵入して逮捕される。取調べで時のニクソン政権の高官たちが、野党の盗聴に関与していたことが発覚するが、ニクソンと側近は捜査を妨害し、事件の揉み消しを図った。でも大統領執務室での会話を録音したテープが出るなどして、ニクソン自身も不法行為の容疑を受ける。弾劾を避けて74年8月に辞任表明。現職大統領の辞任は米国史上初めてという汚名を科せられた。ただし疑惑は一杯でも、後任のフォード大統領の恩赦で刑事責任は問われず、国民への謝罪もない。司法の手を免れた元大統領への民間調査のようなこのインタビューは、その3年後に行われる。


 この作品は、全国で上映中
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映写室 NO.196フロスト×ニクソン:犬塚芳美

 ―リチャード・ニクソンとは、一体何者だったのか?― (C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESE...
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journalist-net | 2009年04月01日(Wed) 08:51


 
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