太秦からの映画便り

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

映写室NO.197 MILK(ミルク)

映写室NO.197 MILK(ミルク)  
 ―1970年代のアメリカでマイノリティの為に戦った政治家―

 さすがに本年度のアカデミー賞主演男優賞を射止めた演技だ。脚本も凄いし、実在の人物ハーヴィー・ミルクも凄いが、映画的に言うなら、この作品はまるでショーン・ペンの力を再認識する為のようなもの。公職に付いたゲイの男性の、微妙なゲイ的匂いを過不足なく漂わせる見事さ。マドンナの元夫の問題児は、今やハリウッドを代表する演技派だと確信する。

milk-m.jpg
(C) 2008 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

<荒筋>
 72年、同性愛者のハーヴィー・ミルク(ショーン・ペン)は20才年下の恋人と共に、サンフランシスコの「カストロ地区」でカメラ店を開く。ミルクの人柄で店はたちまちコミュニティ・センターのようになる。全ての人の権利と機会の平等を求めて市政執行委員(日本の市議のような立場)に立候補し続け、4度目の挑戦で米国史上初めてのゲイを公言した公職者が誕生した。しかし同性愛者の権利剥奪の動きが全米で起こり、ミルクは多くのマイノリティを巻き込んでそれを阻止する運動を起こすが、ある日…。


 <ミルク側からの視点で描くこの中では>はっきりとした悪者だけれど、同性愛者への差別運動の筆頭、元準ミス・アメリカのアニタ・ブライアントを笑ってばかりはおれない。当時、海のこちら側日本でも西海岸のこの騒動は時々報道されていたが、正直に言うと私も、パレードで腕を組んだりキスしあったりと、同性愛を白日の下にさらす行為に、アメリカって極端な国だなあと驚き、彼女に近い懸念を持ってもいた。アート志向でヒッピーやウッド・ストック等自由を求めるアメリカ文化に憧れていた私ですらそうなのだから、当時の世間はまだまだ同性愛者へ偏見が強かったと思う。
 <そうかと言って同性愛を嫌悪していた>わけでもない。ゲイの友人に好意を持っていたし、「モーリス」とかの映画には魅せられたんだから、認めつつもどこかで秘めるべきものと思っていたんだと思う。その、自分でも意識しない、(秘めるべき事)と言う思想の中に潜む差別意識に立ち向かっていったのがミルクだ。(何故秘めなくてはいけない?正々堂々と言えば良いのだ)と示す彼の姿が、どれほど多くのマイノリティを救った事だろう。

 <いつの間にか婚姻届すら受理されるところが出来たが>、この映画を見て、時代は自然に変ったのではなく、悔しい思いをバネに、血の滲むような努力を続けた人々がいるのだと思い至る。しかも偏見を持つ人は1つに対してだけではない。例えばゲイへの偏見でも、その向こうにはもっと多くの差別意識があること、自分との違いを排除する思想がある事を教えられた。

milk-s.jpg
(C) 2008 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

 <亡くなった時のミルクは政治家だけれど>、彼は政治の為に戦ったわけではない。正々堂々と自分の愛を誇り、愛する人を太陽の下で抱きしめたかっただけ。そんな、人としての基本的な自由の為に戦った人だと思う。
 毎回どんな難役でも確実に自分のものにするショーン・ペン。微妙な口元のニュアンス、少し前に回した肩や手の角度が匂わす微かなゲイの雰囲気、決してアーティスト系のゲイではなく、優秀な保険屋だった人の持つ地味さと普通さも纏っている。顔形ではなく彼の本質に迫ってミルクになったのだ。

 <そんな主役との2人3脚で>この作品にリアリティを与えたのは、もちろんガス・ヴァン・サント監督。この手の作品ではラストに記録映像を畳み込むように映して、観客を当時に連れ戻す手法がよく取られるが、今回は途中にバランスよく配して(これが出来るのはもちろんミルクに限りなく近づいているショーン・ペンがあればこそだけれど)、記録映像と劇映画をシャッフルし、私たちをまるでその場に迷い込んだような気分にさせる。しかも当人役は別の俳優でも、ミルクの周りの当事者をさり気無くその場に配して、その時の空気感を再現。劇映画なのかドキュメンタリーなのか時々解らなくなった。もうこの監督の作品は見逃せない。

 <ミルクが銃弾に倒れた夜の>伝説的な追悼行列が再現されているが、多くの市民がエキストラとして協力したと言う。既成概念や伝統を変えることは難しい。しなやかな心と強い意志でそれに挑んだ人として、ミルクは今なお慕われている。(犬塚芳美)

この作品は、4月18日(土)より梅田ブルク7、シネマート心斎橋、
                  京都シネマ等全国でロードショー
      4月25日(土)より三宮シネフレックスで上映


<ちょっと横道に>
 理解し合っていたはずの恋人スコットは、選挙に落ち続けても、二人の関係性よりも公人として皆のミルクになろうと夢を追い続ける姿に(もう付いていけない)と呟いて離れていくし、後の恋人ジャックは職場にまで電話して帰宅時間を尋ねるし、あげくには取り残された寂しさで自ら命を絶ってしまう。これってまるで男女の関係と一緒。恋に性別は関係ないと改めて気付かされる。
スポンサーサイト

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 

トラックバック

TB*URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

映写室NO.197 MILK(ミルク):犬塚芳美

  ―1970年代のアメリカでマイノリティの為に戦った政治家― (C) 2008 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHT...
[続きを読む]

journalist-net | 2009年04月08日(Wed) 07:25


 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。