太秦からの映画便り

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映写室 NO.198スラムドッグ$ミリオネア

映写室 NO.198スラムドッグ$ミリオネア     
 ―“スラムの負け犬”が求め続けたもの―

 強豪を押さえて8部門を制したアカデミーの授賞式に、素人のインドの子供たちが大勢登場したのを覚えている人も多いだろうが、あの舞台のように賑やかな作品だ。今やハリウッドに取って代わる勢いのボリウッド映画で、世界中の映画賞を総なめにして躍進中。イギリスのスタッフの端正な仕事振りの後ろに、製作地ムンバイのエネルギッシュな躍動感が広がっている。インド理解にも役に立つのが頼もしい。

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(C) 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

<荒筋>
 ムンバイのスラム出身の青年ジャマール(デーヴ・パテル)が、後1問で2000万ルビーを手に入れそうな今、国中が「クイズ$ミリオネア」に釘付けだ。番組のホストは無学な彼がこんな難問を知っているわけがないと、不正を疑って警察に通報。拷問にかけられたジャマールは、答えを知っていた理由を、一つ一つ辛い記憶を紐解いて話し始める。さあ、疑いが晴れ大金は手に入るのか、彼がテレビに出た目的は達成できるのか…。


 <この作品は大きく分けると3つの場面>で成り立っている。まず実況中継のクイズ番組のスタジオ、警察の取調室、そして回想されるジャマールが答えを知るにいたった彼の半生だ。話が広がるのはもちろん回想シーンだけれど、番組のホストや取調官とのやり取りに、より人間ドラマが広がる。しかも静的なシーンを引き締めるそれぞれの脇役に、インドが誇る名優を配しているのも上手い。

 <インド中の視線をくじ付けにしたスタジオでは>、ホストが内心面白くない。この手の番組の醍醐味は、クイズ以上に、大金に目がくらむ挑戦者の葛藤を司会者が暴く事。でもジャマールにはそれが見えない。淡々とクイズを続ける青年の平常心の前では、大金が手に入るかどうかの天国と地獄の間を煽れば煽るだけ、自分の陳腐さが浮き上がってしまう。番組を盛り上げる決定的な何かを挑戦者に奪われ、カメラに笑顔を見せながら裏側で舌打ちをするホスト。
 <いつもなら皆の視線は自分にあるのに>、今回は目の前の気弱そうな青年に国中が熱狂している。忌々しいけれど、カメラの前ではそんな素振りも見せられない悔しさ。アニル・カプールがさもありなんと思わせる演技と存在感で、テレビ業界人の内外両面の胡散臭さを体現する。二人が向き合って座っただけのシーンがこれだけ力強いのは、カプールの実力だと思う。
 
 <警察の取調室でも、映画的に同じ事が起こる> ジャマールの告白で変わっていく部屋の空気を知らせるのは、もっぱら取調官に扮したイルファーン・カーンの表情。世界的には知らない顔がほとんどのこの作品で、「その名にちなんで」や「マイティハート/愛と絆」等、国際的な出演作が多い彼の出現でメジャー感が出てほっとした人も多いのではないか。豊かな表情に、不正を疑いながらも信じようともする根底の優しさや人情味が滲み出て、ジャマールだけでなく取調官の人間性を浮かび上がらせるのが見事だった。

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(C) 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

 <そうは言っても、もちろんメインは>波乱万丈のジャマールの半生。その半生を、答えを知った経緯の説明の形で回想するのがこの作品のミソだ。幼い頃からいつも兄のサリームと一緒だったジャマール。母が死に二人で生き始めた時に目に付いたのはぽつんと佇む少女ラティカ。兄に反対されながらジャマールは少女を仲間に入れる。この日が運命だったのかもしれない。お金儲けに長け、いつの間にか純粋な心をなくするサリーム、兄について動けば良いから純粋さを無くさずにすんだジャマール、美貌ゆえにやくざのボスに気に入られて囲われの身となるラティカ。
 <絡みながら離れる3人の運命が>、ラストになればなるほど重層的に浮かび上がる手法も見事なのだ。出演者の中でただ1人イギリス生まれと言うデーヴ・パテルのかもし出す静が、めまぐるしい展開のこの作品に気品を与えているのも見逃せない。

 <それらのシーンは実際のムンバイで>ロケがされたという。アジア最大というスラム街を走り回る子供たちの貧しさと逞しさ、舞台挨拶に立った子役の中には実際にこのスラムに住む子供が何人もいる。時にはハンドカメラに持ち替えて切り取り、観光地での不法な商売、近代化された巨大なビル街、さまざまなインドの顔が、街の匂いやエネルギーそのままに、まるでその場に立っているように臨場感を持って広がっていく。人こそがこれからの財産のようなもの、躍動的なインドが映っているのも見所だ。

 <圧巻はラストに浮かび上がる>それぞれの愛の物語。書きたい事は山ほどあるが、運命の絡み合いとジャマールの平常心の訳が解き明かされる過程は、実際に映画を観て欲しい。ダニー・ボイル監督と脚本のサイモン・ビューフォイというイギリスのコンビが、緻密な設計図を作ってこの作品を撮っているのに感動するだろう。
 幼年期から青年期までの物語なので、主演の3人は年代別に3人が扮している。くりくりと動く瞳が印象的な、子役たちの可愛さもこの映画の見所の一つだと思う。(犬塚芳美)

  この作品は、4月18日(土)より全国でロードショ-

<「クイズ$ミリオネア」とは?>
 イギリス発祥のクイズ番組で、徐々に難易度を上げ正解を続けると高額賞金が手に入る仕組みだ。現在までに世界の80カ国以上で放送され、熱狂的な人気を誇っている。全世界の「クイズ$ミリオネア」は、本作の製作提供会社でもあるセラドール・フィルムズの関連会社によって所有・ライセンスされている。日本でも、みのもんたが「ファイナルアンサー?」と迫って社会現象にまでなった。ちなみに最高賞金額はイギリス版では100万ポンド(約1.3億円)、本作の舞台インドでは2000万ルピー(約4000万円)、日本では1000万円。

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コメント


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司会者の気持ち

なるほど、この手の番組が盛り上がるのは司会者が煽る大金に目がくらむシーンですね。見たくなりました。

kawa | URL | 2009年04月15日(Wed)09:10 [EDIT]


大金を目の前にして

もっと大金にするか、子のあたりで確実に手に入れるかと、挑戦者の揺れる気持ちをもっと揺れさせるのが、司会者の役目なのかも。
と言っても、これは司会者のキャラクターによるかもしれませんね。ここでは成り上がりだと自分で言っていました。
見所がいろいろあって、上手い作りだと思います。走り回ったりと躍動感も命なので、ぜひ映画館で!

犬塚 | URL | 2009年04月15日(Wed)22:22 [EDIT]


 

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映写室 NO.198スラムドッグ$ミリオネア:犬塚芳美

 ―“スラムの負け犬”が求め続けたもの― (C) 2008 Celador Films and Channel 4 Television C...
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journalist-net | 2009年04月15日(Wed) 07:26


 
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