太秦からの映画便り

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映写室 「沈黙を破る」シネマエッセイ

映写室 「沈黙を破る」シネマエッセイ    
―占領地にいたイスラエル兵士たちの告白―

 この作品は2002年の春、イスラエル軍のヨルダン川西岸への侵攻で破壊と殺戮にさらされたパレスチナのバラータ難民キャンプとジェニン難民キャンプの人々の生活を生々しく記録する。一方で「沈黙を破る」のメンバーに助けられて、占領地に送られたイスラエルの兵士が、そこで何をしてどんな心境だったかを、自らの良心にかけて告白する姿も映す。攻められる方だけではない、攻める方の悲劇により密着して中東問題を映しているのがこの作品の新しい視点だと思う。

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 <イスラエルにいればただの若造に過ぎない>あどけなさを残す兵士が、占領地で銃を構え高圧的に尋問する姿は、人間の本質を映し出して誰もが怖くなるだろう。戦場で1人でも多く人を殺すことを義務付けられた精神が、休暇で平和な街に帰ったからと言って急に変わるもんではない。荒くれた心を持て余し、戦地の異常性を引きずって街を暴走すると言う告白にも、肯いてしまう。戦場とは、平時にはタブーの人を殺す事を義務付けられた異界。二つの常識の間で引き裂かれる心、悲鳴を上げる魂。そんな息子の荒廃を感じ、案じながらも言葉には出来ない両親。戦争とは全ての人を巻き込む、人間性を無くした異常事態だと改めて気付かされる。

 <もちろんこれは何時の時代にもどの争いにも>当てはまるもの、誰もが過去や現在を苦い気持ちで思い出すだろう。日本の侵略、ベトナム戦争、今も続いているイラク戦争、アフガニスタンやパキスタン等々、フィルムの回る時間と共にやるせない気持ちになってくる。それでもそんな思いと共に、ここにはない視点の、パレスチナを占領し、軍事大国に走るイスラエルの悲劇をもぼんやりと考えた。それはタリバーンの思いを想像するのと同じ視点だと思う。
 <その切り口もあればより公平でテーマが大きくなのにと>終盤に思ったけれど、かすかに思ったくらいでそれほどの違和感はない。だから私は、そのまま帰ればよかったのだ。かすかな思いと映像の訴えるものを反芻しながら、自分で発酵させるべきだった。と言うのも、続いてあった土井敏郎監督の講演で、映画の偏向を過剰に感じて、そのイメージが強く残ってしまったのだ。

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 <監督のプロフィールを考えると>それも当然の事。土井監督は1985年からパレスチナ・イスラエル問題にかかわり、映像による取材を続けている。命を危険にさらしパレスチナで取材を続ければ、パレスチナの悲劇により目が行き、イスラエルの傲慢さに怒りを覚えるのだろう。それが正しいのかもしれない、いや、多分正しいのだとは思う。でも、この日の私は、ジャーナリストを強調する監督の口調や、プロパガンダに変わってしまった論調に、聞き始めたことを後悔した。

 <壇上でジャーナリストを強調されればされるほど>心が冷えていく。(ジャーナリストってなんなの? そんなに偉いの? 貴方も知らないうちに貴方が攻撃している傲慢な強者になっているよ)と、横にお酒があって親しければ茶化すはず。だって土井監督自体は良い人っぽいのだ。後ろの方だったら耐えられなくて席を立っていただろう。
 <もちろんそんな思いが壇上に届く>はずもない。益々加熱する熱弁を聞きながら、この作品と対照的な、亡くなった佐藤真監督の「エドワード・サイード―OUT OF PLACE―」を思い出した。いまさらながらに、あの作品の知性を感じる。汲み取る力を求められても良い、観客の感性を信じて、安易な結論に導かない作品のほうが好きだ。会場の皆はどんな思いだったのだろう。

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 <余談だけれど、この作品も同じシグロ> 佐藤監督の追悼上映会で、パレスチナ側のキャンプとの交渉が上手く行かなかったと残念がった山上氏だけれど、そんな意味では充実感一杯のこの作品と講演を、山上氏はどう見てどう聞いたのかと又もや考える。映像自体は貴重で魅力的なのに、私の場合講演で思考が横道にそれてしまう。
 <そんな私の思いを代弁してくださったのが>、最後にあった野田正影氏のコメントだ。「証言はそのまま真実ではない。話す人の感性で歪んでいるのも忘れてはいけない」と言う、多分主催者には肩透かしを食らったような意味深な発言で会場を煙に巻く。面識も有る。真意を伺いたいと思いながら出来なかった。野田先生はいつも行き過ぎた熱気に水を差す。そのシニカルな視点が興味深い。…と、帰り道の思考は映画の主題から遠く離れっぱなし。

 <映画監督が自作を語るのは難しい> インタビューでは根堀は折り聞くけれど、実際の所監督に言葉は要らない、出来上がった作品が全てだというのを改めて感じた講演だった。だから、私のようなひねくれた人には、映像だけをお勧めしたい。貴重な作品です。(犬塚芳美)

  この作品は第七藝術劇場で上映中、
   5月23日(土)から京都シネマ、7月以降神戸アートビレッジセンターにて公開


※「沈黙を破る」とは
 占領地に赴いた経験を持つ元イスラエル将校たちによって作られたNGOで、創設者代表のユダ・シャウールを始め20代の青年が中心メンバーになっている。占領地での虐待、略奪、殺戮等の加害行為を告白することにより、イスラエル社会が占領の実態に向き合うことを願って作られた。もちろん「祖国への裏切り」と言う非難は堪えない。2004年6月、テルアビブで「沈黙を破る―戦闘兵士がヘブロンを語る」と言う写真展を開催し大きな反響を呼ぶと、以降、大勢の兵士の証言ビデオを収集し、国内外に占領の実態を訴え続けている。

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