太秦からの映画便り

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映写室 新NO.3重力ピエロ

映写室 新NO.3重力ピエロ 
 ―原作と映画の幸福な結合―

 久し振りに余情の長い映画を観た。実は評判だという伊坂幸太郎の原作も知らず、ただただ加瀬亮を目当てに観たのだけれど、加瀬君やっぱり期待を裏切らない。あ、これって、出演作の選択と演技力という両方の意味です、念の為。親子関係、ひいては遺伝子に至る問題は重く、映画の世界観と物語の深さに圧倒される。私的には現在までの今年の邦画NO.1です。

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(C) 2009「重力ピエロ」製作委員会

 <表の物語は町に多発する>グラフィティアート(落書き)とそれに関連して起こる放火の犯人探しだけれど、その裏側で仙台市郊外に住む3人家族の物語が、微妙な危うさを感じさせながら進んでいく。二つの物語が絡み始めてからが真骨頂、表裏が逆転してなんとも温かい深遠な家族ドラマが浮かび上がる。この構成の巧みさにも魅了された。

 <才能に恵まれしかも美し過ぎる弟の春>、そんな弟といつも比較されていじけたと言いながら、大きな愛で弟を守ろうとする遺伝子工学を学ぶ院生の兄泉水、別荘風の生活感のない家でミツバチを育てて暮らす、どこか浮世離れした父親、母親は回想で登場する。
  <眼鏡をかけていつもデイバックをしょった泉水は>、確かにこんな院生がいそうなたたずまい。彼が家族に向けるまなざしの温かさと、何かもっと深いところを見ているような不安感が映画の基調になっている。春の美貌も儚さよりは危うさを感じさせるし、追っかけがいるほどもてるのに女に関心が無いことも後々謎解きのように効いてきた。普通なのに現実から少し浮遊したような父親の姿勢、おでんにミルクを入れるような3人の暮らしぶりも危うさになっているかもしれない。ともかく私の場合、このかすかな危うさに引っ張られるようにして観た。

 <不安の発端は、冒頭のバッドを持って>強姦犯を打ちのめしに行く春の確固とした姿勢に秘められた狂気、軽々と2階から飛び降りた弟に兄が感じた戸惑いだったろうか。のっけから兄に感情移入してしまった。そして少しずつ明らかになっていく家族の事情、このあたりの種明かしの手順も旨い。テンポが良くて、何気ない寓話ですら家族の物語を肉つけていく。
  <元モデルの美しい母親と公務員の父親>、幼い息子の3人家族はやっかみを受けるほど幸せだったのに、連続レイプ犯に母親が犯され春を身籠った事で影を抱えることになる。と言っても、この父親並ではない。いわくつきの子供を生もうと決断し、自分の子供として可愛がる。4人家族は一見何の問題も無いのに、うるさいのは世間だ。心無い噂で子供の頃から何かを感じながら育っていく春。このあたりで泉水の守るような視線の訳が理解できてくると言う訳だ。

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(C) 2009「重力ピエロ」製作委員会

 <町の落書きを消しながら連続放火犯を追う春>、弟に誘われて無理やり巻き込まれる泉水、やがて遺伝子記号と絡めてつながっていく点と線。ミクロからマクロまで、時空を超えるスケールでミステリーとしてもすばらしいけれど、それ以上に、過酷な運命に押しつぶされそうな美しい若者の慟哭が痛ましい。
  <ちょっととぼけた父親役の小日向文世>、理科系らしい緻密さと不器用さで家族を見守る兄役の加瀬亮、自分を殺したいほどの苛立ちを隠して兄に甘える弟役の岡本将生、不思議な設定を見事な配役のバランスで自然に受け入れていたけれど、考えてみると両親の決断は並外れた事。クリスチャンとかそんな思想が無くては成り立たない話で、一家の暮らしぶりからしてそうなのかもしれない。それでも子供にとっては重過ぎる運命、人ってそれほど強くはないもの。育ちや環境は遺伝子に勝つのだろうか。私にとっても 遺伝子はそう簡単には乗り越えられない。最後まで父親の決断や春へ打ち明けたことへの疑問が消えなかった。春と泉水二人をじっくり描いたほどには両親は描かれなくて謎を深める。でもそれも映画の余韻になっているかもしれない。

 <そんな点や、原作の通りだと言う印象的な台詞に魅せられて>、観終えてすぐに原作を読んだ。そしていっそう映画の素晴らしさを実感することになる。文字の世界が鮮やかにドラマティックに映像化されていて、自分ではとてもここまで読み込めない。映画監督って、俳優さんたちって、こんな風に豊かに世界を広げていく人種なのだと今更ながらに驚く。原作の世界感と映画の世界感の幸せな結合、もう森淳一監督ははずせない。もちろん原作者の井坂幸太郎もはずせないけれど。

 <この一家は表題のように「重力ピエロ」>だ。運命と言う重荷を背負いながら、微笑に苦悩を隠して、落ちそうで落ちず、綱渡りで渡っていくと思う。その健気さが心を打つ。余情はこれかもしれない。これからは私も大変な事ほど明るく伝えよう。観てから読んだけれど、演出や脚本の工夫の後を追ってもう一度映画を観ようと思っている。(犬塚芳美)

この作品は、梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、イオンシネマ久御山
       シネプレックス枚方、シネリーブル神戸等全国で上映中
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コメント


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評判ですね

ちょっと映画館付いています。ここまで薦めるのなら行かねばなるまい。今から行って来ます。見てきます!

kawa | URL | 2009年06月13日(Sat)09:36 [EDIT]


行きたいな!

ミステリーの苦手な私ですが、伊坂幸太郎さんのは読めます。これはまだ予約が詰まってて、読めてないのですけれど…。
原作&加瀬亮さんで、「これは見なくては!」と思っていたのですが、犬塚さんが「もう1回見に行く!」とのこと。
「これはぜひとも行かねば!」とガーデンシネマのスケジュールを昨日調べました。

大空の亀 | URL | 2009年06月13日(Sat)10:04 [EDIT]


Re: 評判ですね

> ここまで薦めるのなら行かねばなるまい。今から行って来ます。見てきます!

そうです、これを見逃す手は無い。・・・て、もう観てきたのでしょうか?
映画と言う贅沢な藝術の奥深さに触れて、なんとも幸せな気持ちになりますよ。

犬塚 | URL | 2009年06月14日(Sun)00:09 [EDIT]


Re: 行きたいな!

> ミステリーの苦手な私ですが、伊坂幸太郎さんのは読めます。これはまだ予約が詰まってて、読めてないのですけれど…。

若い人たちが本を読まないと言われるけれど、良い指導者のいる所では図書館がにぎわっているのですね。安心しました。私の本は友人に上げてしまって、回せなくてごめんなさい。原作も良いけれど、本当言うとこれに関しては映画のほうが好きです。地表から5ミリくらい浮いて暮らしている感じの一家を映像的に説得力を持って描いているのが凄い。それと巧みな時系列の配置、脚本の構成に魅せられます。2度と言わず何度でも観たい作品ですよ。

この作品ミステリーの形にはなっているけれど、犯人探しと言うより、春の心の空洞の形を探るのがミステリーのような物。笑顔の底にちらちらとのぞく不気味な炎に魅せられて、息をつめてみました。

犬塚 | URL | 2009年06月14日(Sun)00:35 [EDIT]


 

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