太秦からの映画便り

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映写室 新NO.4愛を読むひと

映写室 新NO.4愛を読むひと
  ―彼女の隠したかった事―

 誰にでもある秘密、本人にとっては絶対知られたくない事でも、他の人にとってはどうってこと無い事が多いもの。この主人公の場合はどうだろうか? 少年との性愛に溺れながら、他人の罪を被ってでも隠したいほどの秘密を抱える女性を、「タイタニック」のケイト・ウィンスレットが存在感たっぷりに演じます。表題になぞらえて、「愛を見るひと」にお勧めしましょう。原作はドイツでは教科書にまで取り上げられる「朗読者」で、愛の証のように織り込まれる様々な名作の朗読シーンも素晴らしい。声に出して本を読んでみたくなる。終盤に浮かび上がる彼女の秘密、そのいじらしさが胸に刺さりました。

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(C) 2008 TWCGF Film Services II, LLC. All rights reserved.

 <物語は1958年のドイツで始まる> 15歳のマイケルが学校からの帰り具合が悪くなったところを助けてくれたのが21歳年上のハンナ(ケイト・ウィンスレット)。彼女に大人の魅力を感じて、頻繁に自宅を訪ねるようになる。石炭を運んで煤だらけになった体を洗っていると、裸のハンナに抱きしめられた。こうして二人は日毎貪る様に体を重ねるが、ある日ハンナが「本を読んで」と言い、その日からマイケルは名作を愛の営みの前に読んで聞かせるようになる。でもハンナは突然姿を消す。マイケルが再び彼女を見たのは、法科大学の学生として裁判を傍聴した時の事、ハンナはナチ親衛隊の看守として戦争中に犯した罪を裁かれていた。彼女はある秘密の為に一人で罪を背負うことを選ぶ。その秘密に気付いたマイケルは…。

 <…と、戦後の混乱期から始まって>戦争犯罪というナチの負の遺産を清算する日々が描かれる壮大な物語だけれど、ハンナのセリフに代弁される「貴方だったらどうしたのか?」という重いテーマと共に、この作品は相手の思いを探るような二人の表情が醍醐味だと思う。原作は「朗読者」だけれど、まるで映像が文字に挑戦するように物語を語って、セリフが少ない分、映像が雄弁に二人の感情を表現する。このあたりハンナの秘密にも関係するのだけれど、以前の「重力ピエロ」でも書いたように、優れた製作者の手にかかると映像表現が文字を超えて広がっていく。それに魅了された。

 <若い頃のマイケルを演じるのは>デヴィッド・クロス。自宅に帰ればまだ両親に保護される年頃の少年が、背伸びして年上の人を守ろうとする大人びた表情、それでものぞく初々しさ、ハンナがまぶしく感じるままに場面場面で表情を変えて、この年頃の少年の多面性を表現する。ハンナの視点に重ねていたのだろうか、彼の両親の心情だったのだろうか、彼に迷いがないのに、こんな事がいつまで続くのだろうと年上の女性に溺れる彼をハラハラしながら見た。恋にはつき物の危うさは、年齢差ゆえに余計に漂うのだ。

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(C) 2008 TWCGF Film Services II, LLC. All rights reserved.

 <一方大人の余裕でマイケルを翻弄する>ハンナ役のケイト・ウィンスレット、美貌に頼れない36歳からの女性の30年間を、時にはふてぶてしく、時には哀れに体当たりで再現。多くの映画賞受賞が納得できる。空を捉えたまま視点の定まらない瞳で、悪女なのか聖女なのか観客までが翻弄された。心の奥底まではのぞけない曖昧さは彼女のスタンスのまま。抱えた秘密と母親ほどの年齢で少年との性愛に溺れる不安定さを、刹那的に表現するのが見事だった。ただこのあたり、恋なのかどうかが見ていてもよく解らない。まるで解らないゆえにのめりこんでいくマイケルの心情のままだ。
 こんな具合に、恋の物語なんだけれど、双方向の恋というより微妙にすれ違う恋心が切ない。ハンナ自身もそれを感じて、朗読してもらう愛の物語で自分の感情を量っていたようにも思うのだ。男性ならば又違う視点で見れるかもしれない。

 <弁護士に成ったマイケルが>秘密に気付いて名作を朗読して刑務所に差し入れる日々、後半になって二人の関係は大きく変る。年上の人にのめりこんだ恋心はいつの間にか保護者のそれになっているのだ。このあたり関係性の変化を受け入れて、それでもマイケルにすがっていくハンナの姿がいじらしい。最も彼女にはもう彼しかいないのだけれど。マイケル自身も人生に躓いているのは、過去のあまりに衝撃的な出来事のせいだろうか。
 <そこらあたりに説得力を持たせるのが>、原作以上に役割を大きくした後年のマイケルを演じるレイフ・ファインズ。彼もまた曖昧な瞳と複雑な表情で言葉や文字にならないハンナへの思いを表現する。あれほど焦がれた人の弱さ、やっぱり心は複雑なのだ。今度は彼が、自分の感情を探るように差し入れの愛の物語を朗読したのかもしれない。もちろんハンナも自分の思いと彼の思いを探るように朗読を聴いたはず。だからこそある決意も生れる。

 <愛の形の変化>、彼の支えを哀れみではなく慈しみと受け取って最後の最後にプライドを捨ててすがる彼女、そうして自分に向かってくる、かって愛した人を受け止める彼、二人の関係性はそんな風に変化していく。美しいと言えば美しい。でも切ないと言えば切ない。そんな現実を愛の勝利ではなく、ほろ苦い思いで受け止めるのは、私に人生の何かがまだ解っていないのかもしれない。

 <こうしてみると物語はたいてい愛を>描いている。物語の数ほど愛の形はあると言うわけだ。私たちは愛を探して、あるいは自分の感情を探るように本を読んでいるのかもしれない。
 ドイツだから成立した物語を、監督はドイツに拘って撮影したと言う。ドイツの重厚な空気や静謐な空気感も作品世界になっています。(犬塚芳美)

この作品は6月19日(金)より
  TOHOシネマズ梅田、なんばパークスシネマ等全国一斉ロードショー
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エロいけど

エロいけど究極の愛かも!!!

フリーター | URL | 2009年06月17日(Wed)09:03 [EDIT]


Re: エロいけど

> 究極の愛かも!!!


究極の愛かもしれません。労わりに変わった愛を受けることにはとまどいもあるでしょうが・・・。

犬塚 | URL | 2009年06月17日(Wed)22:34 [EDIT]


プレミアシートで観ました

初めての体験です。
しかもたった一人で!
さすがにゆったり。
しかしクーラーの効きすぎで冷えること。
こんないい作品が、何てことだろう。

kawa | URL | 2009年07月28日(Tue)08:07 [EDIT]


Re: プレミアシートで観ました

> しかもたった一人で!
> こんないい作品が、何てことだろう。

これって他にお客さんがいなかったってことですか?まさか?
曜日や時間帯にもよりますが、もし上記の通りなら本当に(何てことだろう)です。

実はずいぶん前に試写で見たので、もう一度みたいなあと思っているところです。
細部にラストや彼女の秘密への伏線があって、多分何度見ても飽きないはず。というか、綿密な演出の工夫に感動すると思うのです。
久し振りに自分の評を読み返して、二人の関係に重点をおいて書いているけれど、監督の工夫から書いても面白いだろうと思いました。そのほうが見る人にとっては親切かもしれませんね。でもそんなことも含めて全てで、私の場合は二人の関係性に視点を集めさせられた。
私も時々プレミアシートに当たります。本当言うとゆったりし過ぎて、私の場合は少し居心地が悪い。もっとひっそりとスクリーンに集中したいのです。

犬塚 | URL | 2009年07月28日(Tue)21:12 [EDIT]


 

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