太秦からの映画便り

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映写室 「精神」想田和弘監督インタビュー(前編)

映写室 「精神」想田和弘監督インタビュー(前編)    ―「選挙」の監督が今度は精神科クリニックに寄り添った―

 閉塞的な世の中のせいか、精神を病む人が多い。なのにまだまだタブー視されて、家族にすら病気を隠す人もいる。体の怪我なら包帯を巻けるけれど、心の怪我にはどうしたらいいのだろう。この作品を撮ったのは、「選挙」の想田和弘監督で、躁鬱症から重篤な統合失調症まで、心の痛みで苦しむ人々に寄り添う医師、「こらーる岡山」の山本昌知医師とスタッフ、そこに通う患者たちにカメラを向けている。度重なる自死未遂、頭の中で暴れる怪物、子供殺し等、時には思いもかけない深みまで告白を始める患者、妄想なのか真実なのかは解らない。他者に何が出来るのか解らないけれど、じっと患者の言葉を待つ山本先生の姿が一つの答えのようだ。想田和弘監督と制作の補佐をされた奥様、本業はダンサーの柏木規与子さんにお話を伺います。

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(6月17日 大阪にて)

―この作品を作ろうと思われたきっかけは。
想田和弘監督(以下敬称略):柏木の義母が「こらーる岡山」に関わっていて、山本先生について色々話を聞いて惹かれていたんです。それと僕自身が、大学時代に精神科にかかった経験があるのも大きいと思います。自分で言うのもあれですが、僕はずっと田舎の優等生で順調に東大まで進んだのに、新聞部に入って色々な仕事を1人で抱えほとんど寝ないでこなしていたら、ある日突然何にも出来なくなった。びっくりして精神科に行ったら、医師から燃え尽き症候群だと言われたんです。何にもするなと言われ、全部ほっぽり出して実家に帰り、ずっと寝ていたら直ったんですが、この経験から、精神病は決して特殊な病気ではなく誰でもがかかる病気だと知りました。

―確かに、欝なんて心の風邪のような物で、誰でも一度位はかかるとも言われます。それにしてはタブー視され過ぎますよね。病気を隠している方も多く撮影は大変だったのでは。
想田:ええ、僕も最初は無理だろうと思いました。ところが、「こらーる岡山」に問い合わせたら、こちらでは強制できないけれど、個別に許可を取れば良いと言って下さったんです。でカメラを持って行ったんですが、やっぱりほとんどの人に断られる。一日中カメラを回せない事もありました。僕らが所在無げにしていると話して下さるから、映してもいいですかと聞くと、それは駄目だと言う。そんなことを繰り返しながら少しづつ慣れていって、一部の方がカメラの前で話して下さる様になったんです。でも10人中9人には断られました。

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(c) 2008 Laboratory X, Inc

―その方たちにインタビューされたのは奥様ですよね。
柏木規与子さん(以下敬称略):ええ、母がここに関係しているせいで私は以前ここでダンスを披露しています。その時とても良い雰囲気で、自分でも思いがけないほどの良い作品が出来たんですね。そんなこともあってここの皆さんと顔馴染みだったので、私がいたほうが上手く行くだろうと言うことに。合槌を打つと声が入るので、目と口で肯きながら声は出していません。
―何かそうするうちに、規与子さんが患者さんと同化して精神状態が不安定になったそうですが。
柏木:そうなんです。皆さんの話を伺っていると色々自分と重なるんですね。それって自分と一緒だ、だったら自分も病気じゃあないかとか思う様になりました。何か一つ嫌な事があるとそれがどんどん増殖されて、憎悪が雪だるまのように大きくなっていくと言うんですが、私の場合も夫への不満がだんだん膨らんで留まる所を知らない。自分はニューヨークでダンスをしているべきなのに、こんな所で何をしているんだろう。こんな事に巻き込んだ夫が悪いと、どんどん夫への不満が膨らんでいく。悔しくて涙が止まらないとか、感情がコントロールできなくなったんです。でこれはもう駄目だと思って、山本先生に予約してカウンセリングを受けました。

―その時監督が一緒に入ってカメラを回そうとしたとか。
想田:ええ、精神病のドキュメンタリーを撮っている監督の、補佐をしていた連れ合いが精神病になったと言うのは凄いことだ、これこそ撮らないといけないと思って、当然のようにカメラを向けました。そしたら『撮影して良いとは行っていない。失礼よ、出て行って!』と凄い剣幕で言われて、仕方なく諦めました。
柏木:だって失礼ですよね。許可を取ってないんですから。それにこちらは夫の悪口を言おうと思っているんだから一緒にいられたら困ります。
想田:そうだろうとは、解っていたんだけどね。
柏木:幸い先生にワーッと話したら衝きものが落ちたようにすっきりして、それだけで直ったんですが、一時は涙が止まらないとか本当にひどい状態だったんです。
想田:柏木の義母から、「ニューヨークに帰ってもこんな調子だったら、規与子だけ帰してね」と言われたくらいだったんです。こんな具合に、なんでもなかった普通の人でも一気にこんな事が起こる。精神病は特別な病気ではなく誰でもかかりうる病気なのだと言う事ですよね。
柏木:後で考えると、やっぱりあそこは撮影するべきだったと思いますが、あの時は許せなかった。

―奥様が同化されたのは解るような気がします。私の話も真剣に食い入るように聞いてくださる。患者さんのお話もこんな風に聞かれて、距離感を無くして同化されたのでしょうね。監督のほうは同化しそうにはならなかったんでしょうか。
想田:僕はカメラを持っていますから、撮影中は物事をカメラを通してみるんですよ。ちょっと距離があるんです。カメラを持ってなかったらどうなったでしょうねえ。そんな彼女の存在もあって、この作品は僕のドキュメンタリー手法、観察映画とは違ってしまいました。最初はそう撮ろうと思っていたんですが、対象が勝手に近づいてくる。壁に止まった蝿のように存在して観察すると言う、さり気無い位置からが望ましいんだけれど、距離感が保てなくて戸惑いました。観察映画には二つの意味があります。監督自身が目の前の物を観察すると言う意味と、お客さんの観察の邪魔をしないと言う意味。僕は今回観察よりももう少し濃密に関わってしまいましたが、そんな意味ではこれも観察映画になっていると思います。(聞き手:犬塚芳美)
            <続きは明日>

この作品は7/18(土)から第七藝術劇場
       (18,19日と監督の舞台挨拶あり。時間等は直接劇場へ)
      7/25(土)から京都シネマ、8/15(土)から神戸アートビレッジセンター にて公開
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