太秦からの映画便り

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映写室 「精神」想田和弘監督インタビュー(後編)

映写室 「精神」想田和弘監督インタビュー(後編)   
 ―誰かに話したかったこと―

<昨日の続き>
―なるほどと思う意味深い事を言いながら、茶化すように「はい・カット」と自分で仕切る方がいますが。あの方など完全にカメラを意識した行動ですよね。
想田:編集で後半に回っていますが、あの方のシーンは撮り始めてすぐのものです。正直に言って、最初は参りましたね。「選挙」でとった手法は、対象者を外側から観察することで、今回も同じように、対象者とガラスで隔てられた距離感を目指したけれど、それが上手くいかない。皆が僕に話しかけてきますから。途中から考え方を変えて、もっと密着したものでもいいと思ったんです。精神を病んだ人たちは孤立しがち、皆が孤独感を抱えているんでしょう。話したい事がいっぱいあるけれど機会がない。そこに飛び込んでいった僕らは、ある意味で聞き手としてちょうど良かった。映すのは駄目と言う方でもお話は色々して下さいました。

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(c) 2008 Laboratory X, Inc

―ナレーションが無いので誰が患者さんで誰がスタッフか、暫く解りませんでした。服装も一緒ですし。
想田:ええ、混同しますよね。それに元々、健常者と病や障害のある「当事者」にそれほどの区別があるわけではありませんから。「こらーる岡山」を立ち上げた山本先生は、精神病患者を外から鍵をかけて閉じ込めるのを止めようとした運動の草分け的な存在です。だから1997年に開設されたここは、社会の安心の為に病んでいる人を隔離するようなことはしない。精神障害者が病院ではなく地域で暮らすことを目指していて、その支援に力を入れている、外来の精神科診療所です。建物は古い民家をそのまま利用していて、畳敷きの部屋があったりと、自宅のように寝転がったりもできる。先生やスタッフの人柄もあって寛げる温かい雰囲気です。一方、診療所には牛乳配達を行う作業所「パステル」や、食事サービスを行う作業所「ミニコラ」が併設されていて、「当事者」に働く場所を提供しているんですよ。別棟ですがすぐ近くに、ショートステイの出来るところもあります。患者たちは本当に先生を慕っていて、先生はじっと話を聞いてくださる。その治療は、こちらから結論を押し付けるんじゃあなく、自分がどうしたいのか本人が答えを見つけるのを根気よく待って、それを助ける作業です。先生と話していると、自然に自分がどうしたいのかが解ってくる。山本先生の治療は、本当の意味での患者の為の治療です。

―そういう下地があるからこそでしょうが、そこまで話して良いんだろうかと思う様な深刻な事を、ぽろっと話し始めて驚きますが。
想田:子供を殺したと言う話ですね。あの話が出た時は僕も驚きました。これは外せないとカメラを回しながら緊張したんですが、不思議なものでそんな時は集中力も高まる。後で見ると、自分でもこれ以上は無いと思えるほどの完璧なカメラワークが出来ていました。あそこはワンショットで6分30秒ありますが、言葉以上に間が雄弁なんです。編集でも切れなかったですね。でも編集の段階で、モザイクもかかっていない彼女の映像を使っていいものかどうか、ずいぶん悩みました。カメラを向けるのを承諾して解って話しているとはいえ、殺人を告白しているものが公開されるとなると又事情が違ってくる。15年間も話していないのに、彼女がこれからどうなるだろうと心配でした。だから試写の前は緊張しました。そうでなくても精神を病んだデリケートな方たち、この作品を観て病気を悪化させてはいけないと胃が痛くなる思いです。柏木の義母もそれを一番心配していました。

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―岡山での試写には皆さんいらっしゃったんですか。
想田:試写があるというと、出演者たちは皆動揺していました。自分がどう映っているか、どう描かれているか、そりゃあ気になりますよね。彼女は最初見たくないと言って来なかった。あれを入れられたら私は生きていけない、周りの皆が敵になると言い出したんです。肖像権の問題がありますから、この作品はもう上映できないかもしれないと、僕も覚悟を決めた位でした。でも途中で、やっぱり観たいと言ってタクシーで飛んできたんです。観終わるとそんな危惧もなくなりました。と言うのも、他の方が、「これを観て今までは解らなかった貴女の苦しみが解った。世界上に同じ状況で苦しんでいる人が一杯いる。貴方はそんな人を救う事になった」と彼女の苦しみに共感したんですね。それで彼女も納得しました。
―考えてみると、精神病疾患は本人が公表を納得しても、家族が嫌がることもある。モザイクもかけずドキュメンタリーに出るのは大変なことです。
想田:そうなんです。そこが他の病気と違うところで、未だに遺伝とか間違った知識に支配されている。誰でもなりうる普通のことなのに。そんな意味でもぜひこの作品を皆に観て欲しいんです。

―最初に目指した作品の方向性と出来上がったものは違いますか。
想田:違うと言うより、僕の場合最初に方向性は無いんです。とりあえず色々なシーンにカメラを回していますよね。後でその中から残したいものだけを繋いで行きます。その作業を重ねるうちに必然的に残るべきものが残る。それが活きる為に前後に持ってくるものとかを編集していると、やっと作品の方向性が見えてくるんです。僕は撮る時はあまり考えないので、この時期が自分の思いを構築する大事な時期になるのかもしれません。編集は大変でたっぷりと時間と精力をかけます。繋ぐにしても、どういう順番で見せれば自分の印象に近いかとか、慎重になる。ドキュメンタリーに演出はそぐわないけれど、どうしても作為はあります。自分の世界観を作品に反映するのが目的ですから。

―今脳科学が流行です。ポスターにシナプスを現すような模様も入っていますが、精神とは心なのでしょうか、脳なのでしょうか。この作品を撮って思われたことを教えて下さい。
想田:この作品を撮ったからといって僕に精神病の事が解ったわけではありません。謎ですね。解らないと言うこと、もやもやとしたものを撮りました。ただ、病んだ事はマイナスばかりではない。さっき出た「ハイ、カット」と言う方の言葉には力があります。病を得たからこそ深まった世界があるし、病気が感性の鋭さになるんだなあと色々な方を見て思いました。この作品でそんなところも観ていただけたらと思います。
―撮り始めてから少し時間がたっていますが、「こらーる岡山」の皆さんに変化はありましたか。
想田:ありましたね。何人かは亡くなっています。何度も自殺未遂を繰り返していると言った彼女は、とうとう亡くなりました。辛いですね。難しい病気だなあとあらためて思います。(聞き手:犬塚芳美)

<作品の感想とインタビュー後記:犬塚> 
 なぜか私の周りには精神を病む人が多い。私なりに手を尽くして何処かの医療機関等に繋ぐのだけれど、ちょっとした駆け込み寺のようで、精神科医やセラピストの友人から、「あなたには精神疾患者をひきつける磁力があるのかも」と言われる位だ。しかも監督の奥様のように、精神の揺れに同化し安い。つまり自分もおかしくなるって事だ。だから、本当言うとこの作品の映像は私にとってはそんなに珍しくない。精神病は私にとって身近だし、もっと錯乱した状態を何度も体験している。
 それでも物静かに話す「当事者」たちの心の重さにはドキッとした。「頭の中のインベーダーが何時暴れだすのかと思うと…」と冷静に分析する男性の諦めたような顔と根深い恐怖心、どうも出来ない。長年自分の変調と付き合った誰もが、鋭利な感性を持った哲学者だ。それ以外何も解らない。この作品で精神の不思議さを、監督の言うようにもやもやと受け止めた。ただ、自死した女性の周りには確かに別の空気が映っている。亡くなった人がいると聞いた時、その空気感から真っ先に彼女が頭に浮かんだ。色々な不思議を感じた作品だった。


この作品は7/18(土)から第七藝術劇場
   (19日は監督の舞台挨拶あり。時間等は直接劇場へ)
    7/25(土)から京都シネマ、8/15(土)から神戸アートビレッジセンター にて公開
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コメント


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精神疾患者はもっと切羽詰っている

世間で偏見のある精神病患者をモザイク無しで映したのはご苦労があったと思います。それでも現場を知っている者には物足りないのが本音です。こんな物ではないのです。見せても良い姿だけを見せてもらえたんだと思います。皆がそれを解っているのなら良いと思います。これを見たことでずっと重い家族や自分の錯乱に恐怖を持つ人もいるのではないかと懸念します。

医療現場従事者です | URL | 2009年08月13日(Thu)19:31 [EDIT]


Re: 精神疾患者はもっと切羽詰っている

> こんな物ではないのです。見せても良い姿だけを見せてもらえたんだと思います。

仰ることはよく解ります。
でも精神疾患の方がいつも錯乱してるとは限らない。こんな時もあると言うことですよね。現場や患者を知っている方は、当たり前だから、そこら辺りが解っている。知らない方もそれは解ってらっしゃると思うのですが・・・。
もちろんそれが映せたら良いけれど、もっと長期間密着して映さないと無理でしょうね。

犬塚 | URL | 2009年08月14日(Fri)07:24 [EDIT]


 

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