太秦からの映画便り

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映写室 新NO.9セントアンナの奇跡

映写室 新NO.9セントアンナの奇跡 
  ―ドイツ軍による、イタリア、トスカーナ地方の殺戮―

 オバマ大統領が誕生して「CHENGE!」が合言葉になった。その単語に歓喜する黒人たち、アメリカは何を変えないといけないんだろう? 一つの答えのようにタイミングよく登場したこの作品は、1983年のアメリカと第二次大戦も末期のイタリア、トスカーナ地方の物語を繋いでいく。
 <創ったのは、オバマ大統領のシンパとしても名高い>スパイク・リー監督。映画界での黒人の役割を拡大し続ける旗手的存在だ。原作と脚本は「母の色は水の色」と言うベストセラーのある、ジェームズ・マクブライド。当事者だった叔父から聞かされた実話と現地での調査がベースになっている。戦争の最前列に立たされるのはいつも弱者、それでもそこに奇跡を起こす物語があった。

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(C) 2008(Buffalo Soldiers and On My Own Produzione Cinematografiche)- All Rights Reserved

 <物語の発端は>、定年間近の善良な郵便局員が、切手を買いに来た男を突然射殺したことだった。局員の部屋からはイタリア、フィレンチェの橋を飾る歴史的に貴重な彫像の頭部が出てくる。時価500万ドルの、1944年にナチスが爆破して行方不明になっていた代物だ。一体彼は何者で二人の間に何があったのか。謎を解く鍵は1944年のイタリアにあった。

 <こうして導入部は>訳が解らないままドラマティックに展開する。そして主な舞台となるイタリアのシーンからが、ハリウッド作品とは思えないほどリアルで重厚なのだ。戦場のあまりのおぞましさ、痛ましさに目を伏せてばかりになるだろう。もちろん、当時こんな事がこんな悲惨さであったと言う事だ。
 <郵便局員は元第92歩兵師団>、通称バッファロー・ソルジャーの一員だった。バッファロー・ソルジャーとはアメリカが過酷な“最前線”に送り込む黒人だけの部隊のことで、ナチスが待ち受ける川向こうに偵察に行かされる。渡ったものの心優しい兵士が一人の少年を助ける間に4人は孤立、援軍も来ず取り残されてしまう。留まったそこで、黒人に偏見の無い村人たちと心を通わせ合うが、もちろんそんな平穏な時は何時までも続かない。

 <舞台は今や憧れの観光地>、トスカーナ地方だけれど、ここにも血塗られた歴史がある。当時は、ファシズム、米軍、アフリカ系米軍、イタリア人パルチザン等々、色々な勢力が入り乱れた時代、物語が進むに連れて多くの史実が暴かれていく。
 <まず、バッファロー・ソルジャーの事> その起源はメキシコ戦争の頃にまで遡るという。祖国で差別された黒人は、戦場でも命を紙切れのように扱われる。だからこそ、偏見のないイタリア人との交流は楽しい思い出だった。其処にあるのは肌の色の違いではない。戦いを好む者と嫌う者の区別だけ。「僕ら黒人はどんなにイタリア人に愛されたか」と、マクブライドの叔父は繰り返し話したと言う。彼らの向こうにはナチスと言う共通の不気味な敵があった。

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(C) 2008(Buffalo Soldiers and On My Own Produzione Cinematografiche)- All Rights Reserved

 <次は少年の見た恐ろしい光景> ドイツ軍によるセントアンナ教会での大虐殺は、罪のない市民560名が皆殺しにされた。反ナチパルチザンの掃討作戦の名目でなされたが、多くが子供や老人、女性だったと言う。ここだけでなく43年末期から44年にかけて、ドイツ軍はイタリア各地で民間人を虐殺している。この物語でも冷酷な所を見せているが、事件から60周年の記念式典にドイツの内相が出席し、国民を代表して謝罪。これほどの時間が経つというのに、2007年11月には、軍法会議で責任者3名に終身刑が言い渡された。ここの辺りがドイツの戦後処理が国際社会で評価されるゆえんなのだろう。

 <物語はとても複雑に重厚に進んで行く> 誰が見方で誰が敵か? 平穏は一瞬で崩れて、殺戮地獄。観ただけで歴史の全容を理解するのは難しい。映画には奇跡の物語を任せて、触れられている史実の多くは後で探ってみるのが良いと思う。この作品は戦争の悲惨さを思い知る事と、歴史を紐解くきっかけにしたい。
 <リアリティを求めて>、セントアンナ教会とか、実際に戦場だった場所で撮影が行われたという。効果は充分に出ている。古い石組み、朽ちた小屋、当時の血飛沫を未だに内蔵していそう。余談だけれど、こうしてみるとハリウッド作品の軽さは、作風だけでなくそれの撮られた土地の持つ空気感が大きいようだ。
 それでも最後に、奇跡で未来につなげるところがアメリカ映画。オバマ大統領と同じく、黒人と白人両方の血を受け継ぐジェームズ・マクブライドの希望でもあるのだろうけれど、それ以上に監督の希望でもあるはず。善意の力に希望が持てる、こんな楽観主義は好きだ。何しろ奇跡だもの。少年のあどけない瞳が忘れられない。(犬塚芳美)

この作品は、7月25日(土)より、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸
                   TOHOシネマズ三宮OSで上映
    8月1日(土)より京都シネマで上映
    
 
(注)ジェームズ・マクブライドの母親は、白人のユダヤ人で、人種差別の激しい時代にジェームズの父親の黒人と結婚。12人の子供を生んで白い肌で黒人社会を生き切った。その母と自身について書いたのが200万部を売った「母の色は水の色」で、ジェームズが「神様は白人か黒人か?」と問うと、「神様は霊だから水の色をしている」と答えた母の言葉がタイトルになっている。
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