太秦からの映画便り

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映写室 「台湾人生」酒井充子監督インタビュー(後編)

映写室 「台湾人生」酒井充子監督インタビュー(後編) 
   ―日本兵として戦った日々が、日本政府に認められない―

<昨日の続き>
―色々複雑な感情を聞きだしていますが。
酒井:ええ、日本人の私が日本語で尋ねたからこそ、ここまで話して下さったのかも知れません。日本に言いたいことがあるというか、誰もが多くの思いを持ってらっしゃるのもあるでしょう。自分たちはもう長くないと思っているので、何らかの形で残しておきたいというのもあれば、長い間話せない時代があったので、やっと話せるというのもあったと思います。これが完成して台北で試写をした時に、見て下さった方が、日本人どころか台湾の若い世代も知らない事が多い、ぜひ台湾の若い人に見せて欲しいと言っていました。そう言われてみると、今回は台湾のお爺ちゃんお婆ちゃんの話を聞いたけれど、私も自分の祖母や祖父の話を聞いたことがない。この映画を若い人が観て下さったら、今度はぜひ、自分の御祖父ちゃん御祖母ちゃんの話を聞いてあげてほしいと思います。
―どこも世代間ギャップが大きいんですよね。
酒井:そうなんです。特に台湾では戦後日本時代が否定された。日本時代は悪かったと学校で教わり、自宅に帰るとアメリカ志向の親がいてそれを否定しない。御祖父ちゃん御祖母ちゃんの出る幕がなかったんですね。教科書が民主的になったのも90年代になってからなので、余計に世代間が断絶しているんです。

taiwanjinsei_main.jpg
(C) 台湾人生 2009

―全部で何人の方に会われましたか。
酒井:話を聞いたのは50人くらいです。特に長く話を聞いたのがこの5人で、私がもっと話を聞きたい、もっと会いたいと思ったのがこの方たちでした。全部で100時間くらい回しているので、編集で縮めるのは大変。身を切られるような様な思いですね。最終的には、この人が一番伝えたいことは何か?というのを大切にして、それに集中して編集しました。
―台湾原住民とか日本軍従軍者とか、台湾社会を象徴するような色々な方がバランスよく入っていますが。
酒井:台湾に詳しい方にはよくそう言われるんですが、特にバランスを取ったわけではないんです。たまたまこうなったと。最後にお会いしたのがお茶畑のヤンさんなんですが、ヤンさんに会った時、(これでこの映画を作れる。何とか形に出来る)と確信しました。と言うのも、ヤンさんは時代にかかわらずいつも働いていて、台湾の大地のような方なんです。彼女を主軸にしたら、他の方それぞれの人生も浮かび上がるはずだと思いました。実は他の方は今まで比較的日本語を話す環境にいるので、流暢だったのですが、彼女は最初上手く話せなかった。ほとんど単語だけで話していたのが、私と話しているうちにだんだん思い出して、日本語が上手くなっていくんです。それが如実でした。今回の取材は、問いただすことはせず、聞かせてくださいと言うスタンスで、話してくださるのをじっと待っています。ご高齢と言うこともありゆったりした時間でした。

―皆さん日本語時代を懐かしみ好意的ですよね。日本統治は本当に良い事をしたのか、それとも教育による刷り込みでしょうか。
酒井:そこら辺りが解りません。ただ私は、どうであれ日本の統治は悪いと思いますが、国レベルでは不幸な歴史があったにも拘らず、未だに恩師のお墓参りをする人がいるとか、人々の間には心の繋がりがあったのが素晴らしいと思うのです。単純に日本時代が良かったという事ではなく、日本語教育を受けた統治下、蒋介石の時代を生き抜かれた人たちが、今も健在だと言う事を知らせたくて。彼らが言いたいのは、お金をくれでも昔の事を謝れでも無い。そんな自分たちに対して、今日本がどう向き合ってくれるかと言う事だと思います。戦後日本は台湾を無視し続けました。あんな風に流暢な日本語を話す人々が健在なように、日本統治は過去の事ではなく今に続いているんだと忘れないで欲しいのです。

―同じ様に日本の軍国主義の被害を受けながら、韓国や中国とは国民感情が違うのですね。
酒井:台湾の寛容さとか他の要素ももちろんあるでしょうが、台湾と言う国の辿ってきた歴史が対日感情を良くしていると、今回取材をして思いました。もちろん日本も、欧米への対抗上手厚いことをしましたが、日本の統治時代の方が蒋介石の統治よりましだったと、よく言われます。それと、台湾は九州と同じ位の大きさなのに、共通の言語を持っていないところでした。清の統治下まで国と言う概念のないところに、日本語という共通言語を持って、日本が入っていったんです。反日感情もありましたが、裏返しの民族意識、台湾人としての自覚が生まれたのがこの頃でした。そうするうちに大陸から蒋介石が入ってきて、またしても傀儡政権が置かれます。こんな具合に、結局台湾人の国が持てなかったんですね。しかも蒋介石が随分酷いことをしたので、反動で親日的になったのもあるでしょう。「犬が去って豚が来た」と台湾で言います。犬が日本で豚は中国なんですが、日本人は煩かったけれどちゃんとしていれば何もしなかった。豚は手当たりしだいに辺りの物を食い荒らかしたから、まだ日本のほうが良かったと言います。

―撮っている間にこんな事がと思われた事は?
酒井:元日本兵の方、ショウさんの日本政府への怒りですね。それまでは一切触れなかったのに、最後の最後に出ました。彼は二二八事件で拷問を受けていますし、白色テロでは弟も亡くしています。そんな過酷な運命を生きながら、日本兵として戦争に行ったことを誇りにしている方でもあり、まさかあんな話が出てくるとは思わなくて驚きました。が、(一番言いたかったのはこれだったのか!やっと出たか!)とも思いました。ショウさんはお金とか保証とかそんなことは言っていない。日本兵として何年間も戦場にいた事を認めて欲しい。政府の公式見解として、そんな自分たちに感謝の言葉がほしいと、それだけが望みなんです。実はショウさんは知る人ぞ知る有名人で、台湾に興味を持っている台湾好きの日本人ならたいてい知っているような方です。ボランティアの解説も、教育勅語のコピーを持っていて、自分はこういう教育を受けたと説明するところから入っていくような人なので、彼がそんなことを言うとは誰も思ってもみなかったはず。積年の秘めた思いでもあり、カメラがあったからこそ言った言葉かもしれません。

―そんな事とか何も知らなくて、自分の国の残酷さがショックでした。
酒井:本当に冷たい国ですよね。日本人として戦争に行きながら、台湾の方は軍人恩給をもらっていません。80年代に元日本兵が訴訟を起こしていますが、駄目でした。日本政府は、サンフランシスコ条約の戸籍条項により、今は日本人じゃあないんだから、かって日本人だったとかは関係ないというスタンスを取っているんです。皆の思いは単純な事で、日本人として戦った自分たちに感謝の言葉が欲しいと言うことなんですが。
―本当に申し訳ないです。心が痛みます。ところで監督は、文字から映像へと表現方法を変えました。違いはいかがですか。
酒井:取材をするという意味では記者だった頃と同じです。記事を書くのは編集と一緒ですね。ただ横にいるカメラと一緒に取材すると言うのに無自覚で、まだ慣れていません。
―今回、(カメラマンの手で)自分の目を超えたものが映っていると思われたことがありますか。
酒井:カメラマンは同じ年齢ですから気が合うし、しかも私よりずっとキャリアが長い、信頼できます。時々「こんなんでどう?」とか聞かれてファインダーを覗かせてもらったりと、助け合いながら共同作業で進めました。編集で冒頭が決まらず最後になったんですが、どういうシーンから入ろうかと随分悩んだんです。そうしたら、こういうのもあるよと、今回使っている茶畑とか山のもやのシーンを見せられて、えっ、こういうのもあったんだと驚きました。私では気付かなかった視点です。

taiwan-k2.jpg

―今まで取材する側だったのが今回取材される側に回っていかがですか。
酒井:自分で話している間にだんだん頭の中が纏まってくるのが解りました。
―そうして纏まった観客へのメッセージを最後にお願いいたします。
酒井:台湾の若い世代は日本が大好き。テレビでよく流れる、「可愛い」とか、「おいしい」とかは普通に使われますし、嵐とかのアイドルのファンも多いです。そんな親日的な国が、何時までも親日的でいてくれるとは限らない。かって日本の統治下にあった事、日本語教育を受けた人たちがその後の過酷な運命を潜り抜けて今も生きている事を知って、今日本がどんな風にこの国に向き合えるかを考えて欲しいのです。何より、私の大好きな台湾を知って欲しいと思い、このドキュメンタリーを作りました。(聞き手:犬塚芳美)

<作品の感想とインタビュー後記:犬塚>
 スクリーンの中には、流暢な日本語、古風な考え方、日本の唱歌を歌う楽しそうな人々。多感な頃に刷り込まれた日本語教育の威力を感じます。それと共に、インタビューやこの原稿を書く過程で、あまりにも自分が台湾について知らない事にも驚きました。又台湾人の寛容さにも頭が下がります。監督に感化されて、台湾が大切にしたい大好きな国の一つになりました。


この作品は、8月22日(土)から第七藝術劇場で上映、
       (舞台挨拶があるので、時間等は直接劇場まで。06-6302-2073)
      その後京都シネマ、神戸アートビレッジセンターで上映予定
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愛国心を育てる名言

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愛国心を育てる名言 | 2009年10月07日(Wed) 07:29


 
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