太秦からの映画便り

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映写室 「無防備」市井昌秀監督インタビュー(前編)

映写室 「無防備」市井昌秀監督インタビュー(前編)     
―息子の誕生に命の大切さを思う―

 妻の懐妊で思いついたという、大きいお腹と同時進行のこの物語は、ドキュメンタリーなのか、劇映画なのか? 題材と共に、境界を曖昧にした斬新な手法が光ります。そんな独特のスタイルと出産を真正面から扱った大胆さに、第30回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)はグランプリを含め3部門の賞で応えました。さらに第13回釜山国際映画祭コンペティション部門ではグランプリを受賞し、第59回ベルリン国際映画祭への正式出品と勢いが止まりません。市井昌秀監督に制作秘話等を伺いました。


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(10月27日 大阪にて)

<その前に、「無防備」とはこんなお話> 
 田園地帯のプラスティック工場で働く律子は、家と工場を歩いて往復するだけの単調な日々だ。ある日、大きなお腹を抱えた千夏が新人で入ってくる。仕事を教え、一緒に帰り姉のように慕われる律子。流産をきっかけに夫との仲が冷え切っていたが、もう一度子供が欲しいと思いだす。しかし夫は冷たく、幸せそうな千夏を見るとざわめく思いが…。

<市井昌秀監督インタビュー>
―妻の懐妊すら映画作りのきっかけとして見逃さないという姿勢に、快諾したという奥様共々、物作りをする者の性を感じました。
市井昌秀監督(以下敬称略):そうかもしれません。ぼくも妻もいつもクリエイティブでありたいと思っているし、撮りたいものが出てくるのを探しています。そんな僕等にとって、妻の懐妊は何よりの刺激になりました。「無防備」は出産から逆算して作ったといわれるけれど、僕自身は最後が決まってないと書けないタイプなので、他のものでも最後を構築してから逆に書いていきます。
―ただ今回の場合、物語的にだけでなく、タイムテーブルを合わせることも必要でした。
市井:ええ、出産を最後に持ってきたくて。日時が不確かなだけにそれが大変でした。これを撮ろうと決めたのは妻の妊娠が解ってすぐですが、出産の半年位前からシナリオを書き始めています。

―ご両親とかの反応は?
市井:どちらの両親にも黙っていました。両方とも映画祭で知ったんです。妻の両親の反応が特に心配で、叱られるのではとドキドキしていましたが、素直に褒めてくれました。僕の両親も同じで、褒めてくれましたね。
―もちろん良かったというのが前提ですが、映像で真正面から捉えた出産シーン等、子供を生んでいない私には衝撃的な作品でもありました。自分が封印してきた、人間も動物だという部分を見せ付けられて、がーんと頭を殴られたというか…。出産をご覧になっていかがでしたか?
市井:撮影中は上手く撮らなくては等々、監督としての立ち居地で一杯一杯で、感動とか無かったんですが、後で撮った素材を見て自然に涙が流れました。産まれて来てくれてありがとう、産んでくれてありがとうと思い、感動しましたね。本能的な部分を擽られたんだと思います。こんな風に自分も生まれてきたんだなあと思い、両親に感謝すると共に、神々しい気持ちにもなりました。そうは言っても照れくさくて、言葉には出していないんですが、ぴあの映画祭に出す文章の、「妻の大きなお腹を眺めながら、母の背中を思い出しながら脚本を書いた」という言葉で解ってくれたのではと思います。

―衝撃の大きさもあって、公開前から色々な所でこの作品の事を話題にしています。出産経験のある教師をしている友人が、子供たちにも見せてあげたいと言っていました。エロティックというより、命の神秘さ大切さが素直に伝わるだろうと。親への感謝も芽生えるでしょう。でも、この作品はR18+(成人映画)指定を受けましたね。
市井:ええ、そうなんです。僕自身としては心外で、ありのままを切り取ったので、子供に見せてもいいのではと思うんです。特に映画的にR18+と言うと、過激な暴力シーンだったり、エロティックなシーンがあったりと想像しがちだけど、そんな事はありませんから、指定を受けた事が僕自身とても残念でした。妻と僕はある意味同じスタンスで、お互いに発信する側にいたいという思いを、ずっと持っています。妻の妊娠がこの作品の直接の契機にはなっていますが、それ以前から命を軽視するニュースに心を痛めていて、それを是正するような何かを作りたいと言っていました。お腹の中に命があると解って、余計に命に関わるニュースが目に付くようになり、こんな作品で命を考えるきっかけになってくれればいいなと思ったんです。僕自身、こんな風に産まれてきてくれたという子供への感謝、取り上げて下さった医療スタッフへの感謝、こんな風に生んでくれた両親への感謝が、自然に芽生えました。それが主人公、律子の自然な涙にも繋がっていると思います。

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(C)2008『無防備』製作委員会

―ええ。でも出産が遅れて、それが大変だったんでしょう?
市井:予定日を1週間過ぎて、妻は動くのが大変だったんです。何人かは仕事で東京に帰っていき、最終的には律子役の森谷さんも含め9人が残ってくれて、それで撮影しました。それも大変だったけれど、陣痛が始まってから16時間続いて、僕はずっと背中をさすったりしたけれど、妻が痛みで殺気立っているのです。隣にいる僕にずっと怒っているんですよ。だんだん追い詰められ、もう撮影どころじゃあないという気持ちにもなって、時間が立つにつれ、どうしたらいいのか解らなくなってきましたね。夫や父親としての感情になれたのは、撮影が終わって機材等撤収し、母子同室の部屋で3人で寛いでからです。
―なんか、その時の監督を映したメイキングを観たいような…。
市井:そうですね。メイキングでおろおろする僕が映っていたら、それはそれで面白いかもしれません。

―そういう情景も見て、ラストの律子の表情が撮れたと。
市井:森谷さんには陣痛にも立ち合って貰い、出産にも立ち合って貰い、子供をお腹の上に乗せたあのシーンで自然な涙が流れました。順撮りでいって良かったと思います。
―失礼ですが、森谷さんはお子さんは? 出産に立ち合われて何か仰いましたか?
市井:子供はいません。誰しも温かい言葉をかけてくれたんですが、森谷さんは「こんな現場に立ち合えて良かった。初めて子供が欲しいと思った」と言っていました。
―子供を産むって凄いですよね。産んでいない女とは雲泥の差。負けましたというか、修羅場を潜っているなあと、しみじみと思いました。
市井:そんな方の感想ははじめて聞いたんですが、地方に行くと、子供を産んでいないと駄目だという悪しき風習があるので、そのあたりを律子で入れてみたんです。

―後でご自分の出産シーンを見た、奥様の感想はいかがでしたか?
市井:出産はドキュメンタリーなので創作の前半とのバランスが難しいんですが、生々しくならずバランスよく治まっていて良かったと言っていました。それと出産を記録に残せて良かったという事ですね。
―奥様もあくまでクリエータの視点ですね。凄いです。それまで東京にいらしたのに、撮影の為に富山に帰られたんですね?
市井:ええ、富山に帰って映画を撮り、その後も今年の3月まで、この作品にも登場する実家の工場で働いていました。富山に帰って映画を作ったのは、それ以外に方法が無かったからです。律子は両方をしていましたが、工場は基本的には男性が成型をし、女性が検査をしています。ぼくも色々な仕事をしていました。でも工場の事情もあり、作品を公開できそうだというのもあって、今度は又東京に出てきましたが。(聞き手:犬塚芳美)
                            <続きは明日>

 この作品は、11月7日(土)より京都シネマで先行上映、
       11月21(土)からシネマ-ト心斎橋で上映
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| | 2013年02月12日(Tue)05:04 [EDIT]


 

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