太秦からの映画便り

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映写室 「無防備」市井昌秀監督インタビュー(後編)

映写室 「無防備」市井昌秀監督インタビュー(後編)    
 ―息子の誕生に命の大切さを思う―

<昨日の続き>
―富山と東京の違いはどうですか? 物を書く仕事で、東京は時間の流れが速く、情報が多過ぎて自分を見失いそうだからと、敢えて不便な地方に住み距離をとっている知人がいますが。
市井:僕もそんな感じを持ちます。今回は特に、以前と違って東京の何かに馴染めないんです。家族を持った事が大きいかもしれないけれど、2年間富山に住んだ事もあって、何かが違ってしまった。出来れば都心を離れて、1時間位で仕事に通える、田舎の雰囲気が残っていて情報も入って来る所に住みたいんです。僕は大学時代を過ごした阪急沿線の西宮が好きで、片側に海が見え町にも近く、しかし自然もあるというのが理想なんです。今は東京に住まざるをえないけれど、撮影だと田舎に行って撮りたくなる。僕の今までの作品は、東京で撮ったものも、都会というより田舎の匂いの残った所で撮っています。これを撮る2年間は富山に住んだので、脚本を書きながら自分の過去が甦って来て、随分助けられました。15年位前に離れた場所ですが、田舎や故郷の温かさというのは良いですね。

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(C)2008『無防備』製作委員会

―田んぼの中にぽつんと建った工場とか、田舎の閉塞感や、逆に田舎の豊かさやのんびりした所とか、この物語自体が田舎だから成り立つわけで、私もそんな所で育ったので、微妙なニュアンスが伝わってきました。そこで暮す律子のリアルさも格別ですが、森谷さんはこれ以外でも市井監督の作品によく主演されていますね。
市井:僕自身が特別な存在ではなく、目立たないという事にコンプレックスを持っています。だから僕の映画では、あまり目立たない所の人に光を当てたいという思いがあるんですが、失礼ですが森谷さんにも同じ匂いを感じました。最初短編の主役をお願いして、出来上がってみると僕のイメージにぴったりで、3作続けてお願いしています。
―そうは言っても、森谷さんはふてぶてしいほどの存在感。目立たない様で凄く目立っていますよね。
市井:そうですね。森谷さんはカメラの中で独特の存在感を示します。それに役の解釈も適切なんです。いつもは律子よりずっと明るいおっとりした方ですが、カメラの前では役柄を掴んで、この作品の律子のように変わっていきますね。

―森谷さんへの演出とかは?
市井:僕は最初から押し付けないで、俳優さんの解釈のまま一度野放しで演じて貰う方なんです。要所要所の手直しはしましたが、今回もそれでほとんどブレが無かったです。この作品は富山で妻と2人、期間・お金と制約の多い中で作りました。森谷さんだけでなく他の役者さんも、それを解ってくれ、なおかつ僕を理解してくれる人たちと組んで作っています。スタッフも同じです。そんな事もあって、最初はどうしても遠慮があり、僕が一人で多くの事を抱え、準備が追いつかなくてパニックになったりしました。これじゃあ駄目だと皆に謝り、低予算のこんな状態でも皆それを承知して参加したプロなんだから、遠慮せずに力を借りようと思い直して、話し合い、上手くいくようになりました。

―律子にしても千夏にして女性は素敵で頑張るのに、夫たちがあまりにだらしが無い。そんな設定とかはどうしてですか?
市井:確かに男たちはだらしが無いですね。前作もそうなんですが、僕の作るものは、女性の頑張りに対して、男が酷い。誰しも完璧な人はいないけれど、根本的に女性の方が強いなあと思っているんですよ。現に、律子の夫の冷たさや自分勝手さ、千夏の夫のだらしなさとか、脚本を書いた僕自身の持っているものでもあります。彼らに何処か重なりますね。
―それでも従う女性たちに少し不満も持ちました。
市井:そうでしょうねえ。千夏に嫉妬する律子の感情とかも解りますし、女性たちのキャラクターも僕自身が持っているもので、僕の願望かもしれませんね。
―律子の家とか、今回はロケシーンも絶妙でしたが、ロケハンとかは?
市井:富山に帰ってから、僕がほとんど一人でロケハンをしました。律子の家はフィルムコミッショナーの方が「誰々さんとこ行って見たら?」という感じで、何箇所か候補を挙げてくれて、その中でも一番イメージに近い所にオーケーが貰えました。例えば、階段に手すりが付いているとか、食器が沢山あるとか、以前に夫の両親と同居していた痕跡が残っていて欲しかったんです。今は両親が死んでしまったという設定ですが。踏み切りで二つに分かれた道とかも、フィルムコミッショナーの方に教えて貰いました。最後まで決まらなかったのが、工場への行き帰りに律子や千夏が歩く田んぼの中の真っ直ぐな道です。田んぼはあってもたいてい間にぽつんぽつんと家が建っている。あそこまで開いている所はなかなか無くて、探すのが大変でしたね。

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(C)2008『無防備』製作委員会

―監督はいつもは他のお仕事をされているんですね。奥様の日記に、早く映画の仕事だけをさせてあげたいと書いていました。
市井:助監督とかをするより、1本でも多く映画を観たり脚本を書く時間を作るほうが大事だと思うんで、あえて映画の仕事には関わらず、全く別の仕事をしています。でも時間的にも仕事の占める割合が大きく、それが悩みですね。
―カードローン、消費者金融と目いっぱい借金をしてこれを作ったとも書いていますが。
市井:ええ、これは最後の自主映画で、どんな借金をしても完成させたかったんです。でももうそんな事は止めて、借金がまだ残っているので、そういう意味でももう自主制作では作れないんですが、今度からは企画書を出して、お金も出して貰って作れるような監督になりたいですね。
―この作品で大勝負に出たと?
市井:自分をさらけ出したという意味ではそうですね。お金でもそうですかね。借金の事は両親にも内緒です。今も知らないんじゃあないかなあ。

―どうしてそこまで映画作りに拘るのでしょう?
市井:自分が出る事も好きで、最初はお笑いを目指していました。でもだんだんお笑いではなく、役者として出たいと思い出し、東京乾電池の研究生として1年間演技の勉強をしたんです。でも劇団員に残れなかった。自分が脚本を書いて監督をやれば出演できると思って、作り始めたのがきっかけです。
―じゃあ機会があれば、ご自分も出たいと?
市井:もう今は考えていないですね。監督として外から見ていて、役者さんの大変さが解ってきたし、自分がそれをやるというのは考えられなくなりました。監督としての映画作りの面白さに目覚めたのもありますし、自分はそんなに器用でもないので、作る側でいようと思います。この作品には音楽を担当してくれた朝倉裕稀が出演していますが、音楽家というのは何処かで俳優とリンクする所があるんでしょうね。独特の存在感を見せてくれました。

―撮影中に息子さんが誕生したわけですが、子供が生まれる前と後で変った事を教えて下さい。
市井:日常的には妻と息子という家族に対する責任をもの凄く感じるし、自分を生んでくれた親の事にも目が行く様になりました。映画的にはどうでしょうねえ…。(暫く考える)こんな事を始めて聞かれたんで、今考えてるんですけれど、子供の顔を毎日見て思うのは、例えば走っていて直角の曲がり角とかに来たら、大人だったら向こうから誰か来るんじゃあないかとか考えて少し怯むんだけど、子供は何の躊躇も無くそのままのスピードでバーッと曲がっていくんですね。こんな風に未来を恐れない子供の感性を持ち続けないといけないなあと思いますね。
―そもそもこの作品、最初は息子という題名で書き始めたんですね?
市井:ああ、そうでしたね。忘れていました。「無防備」に変ったのは、脚本を書いている時、アメリカの高校で銃の乱射事件があって、それを伝えるニュースが「無防備な子供たちを…」と繰り返して、何か引っかかったんです。で、子供というのも無防備だし、律子にしても、殻に閉じこもっていた心が段々無防備になっていく。そんなものを描きたいと思ったんです。

―お話していて気付いたんですが、無防備というのは監督自身の事かも知れませんね。ご自分の姿勢にリンクするから、誰もが聞き逃すニュースのその言葉に引っかかったんじゃあないのかと。創作する姿勢においても、子供のような無防備さを失くしたくないと仰っていますし。
市井:そうかもしれません。借金の事とかはそうですよね。次に作りたいものも、ある程度具体的になってはいるが、何かが足りないんです。お話していて、子供が無邪気に突っ走っていく勢いを、表現者として忘れてはいけないと思いました。これからも物を作る上で、僕自身から生まれてくるものを大事にしたいし、映画作りは多くの人が関わってくれるので、これを現したいというものは、例え無防備であってもぶれないで作って行きたいと思います。

―最後になりなしたが、皆さんへ一言。
市井:先行した東京では年配の方が多く見て下さいました。もちろん年配の方にも観て欲しいけれど、命を粗末にするのは若い世代が多いので、若い世代にもぜひ観て欲しいと思います。又この作品の大きなテーマは再生、女性だけに解る映画でもないので、男性もぜひ御覧下さい。観光名所は出ないけれど、怪獣公園とか、富山の面白い所、美しい所が映っています。(聞き手:犬塚芳美)

<作品の感想とインタビュー後記:犬塚> 
 “この秋、劇場が分娩室になる!”という、ちょっとショッキングなキャプションも付いていますが、生まれたのは赤ちゃんだけではなく、新しい試みの作品でした。女優2人の体当たりの演技で、柔な頭に強烈なパンチを食らった気分。映画の放つ衝撃をぜひ劇場で体験して下さい。又、素晴らしいのが、作品の世界をそのまま豊かに広げていく、ラストの齊藤さつこさんによるボーカルです。心に染み入って震える事請け合い! 市井監督と素敵な仲間たちの無防備なコラボレートが光る作品です。


    この作品は、11月7日(土)より京都シネマで先行上映、
                 11月21(土)からシネマ-ト心斎橋で上映
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コメント


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充実したインタビュー

一連のインタビュー、読み応えがあります。じっくり懐に切り込んでいて読み応えがあります。感謝です。

T.T | URL | 2009年11月06日(Fri)08:25 [EDIT]


Re: 充実したインタビュー

> 一連のインタビュー、読み応えがあります。

有難うございます。このところインタビューが続いて、しかもじっくりお話を伺え、幸せな気分です。両監督共に別々の所だけれど、共鳴しあえた気がして、元気をいただけました。
作品公開時の映画監督は、創った志や過程と、作品に関する思いが一杯。映像からそぎ取った物を話してくださるので、なるほどと思うことばかり。熱い思いに真剣に観なくてはと思わされます。

犬塚 | URL | 2009年11月07日(Sat)00:53 [EDIT]


 

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