太秦からの映画便り

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映写室 新NO.33カティンの森

映写室 新NO.33カティンの森
―第二次世界大戦にからむポーランドの悲劇―

 新年おめでとうございます。年末年始は娯楽作品を主体に紹介しましたが、この辺で方向転換。映画ファン待望の少し重い作品を取上げましょう。まずは、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督悲願の作品。ポーランド映画ならではの重厚な映像から、忘れそうな歴史の暗部が浮かび上がります。今年もスローガンは「映画で歴史と世界を知ろう!」かな。たかが映画、されど映画という訳で、どうぞよろしく。

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 <かって大王国を築きながら>、隣国による分断や独立と国力の変異を繰り返したポーランドだけれど、近代の悲劇は、第2次世界大戦でドイツとソ連の両方から侵略された事と、終戦後ソ連の衛星国家となって長い間言論の自由がなかった事だ。監督自身が両方の被害者で、この作品はポーランドのそんな悲劇を、いわゆる「カティンの森」事件に集約させて描いていく。それも戦った側ではなく、銃後で待ち続けた妻達、家族の不安な姿を通してだ。その女優達が美しい。大人の骨太で知的な姿に、ポーランド映画が好きなのはこんな女優達が登場するからだと改めて思う。この国の映画独特の重い空気感や静謐さに魅せられた。

 <始まりは逃げ惑う人々の姿だった> 1939年9月17日、ポーランド東部の橋の上では、ドイツ軍に追われる西側の人々と、ソ連軍に追われた東側からの人々が出くわす。アンナは娘を連れて西側から将校の夫を探しに来たが、すでにソ連軍の捕虜で目の前で移送される。大学教授の夫の父親も逮捕された。ソ連占領地に取り残されたアンナは、自宅へ戻ろうにも許可が下りない。そのころ将校ばかりが集められた収容所では恐ろしい事が…。

 <こうしてカティンの森の悲劇>が起こるが、今回のアンジェイ・ワイダは辛抱強い。劇的なシーンを押さえて、小さな出来事を重ね、皆の記憶の中から真実を浮かび上がらせていく。すべてに意味があって史実の説明に繋がるけれど、知識がないと説明されているのも解らない。悲劇を知った後の家族の抵抗等、特に予備知識が必要だ。

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 <ソ連軍の捕虜になったポーランド軍人>は18万人と言われ、そのうち将校が15万人を占めた。ソ連は「戦時捕虜の待遇に関するジュネーブ協約」に加盟していなかったため、法律的な拘束を受けないまま、将校や知識人が集められた収容所で大虐殺を起こす。(これは戦後の指導層の空洞化を計ったソ連の戦略で、目論見どおりそこにソ連じこみの者達を転入させ、戦後のポーランドの共産化が起こった)
 <1万数千人の将校が行方不明になった事実は>1年後には明らかになるが、ポーランドからの問い合わせに対してソ連は言い逃れに終始する。43年に一時全域を占領したドイツが、「カティンの森」で大量のポーランド軍将校の死体を発見して事件が発覚。当事同盟関係を結んでいた日本でも大々的に報道された。しかしソ連がここを奪い返すと、今度は虐殺をナチスの仕業だと言いだし、ドイツが負けた為に事実は封印される。
 <戦後ソ連の衛星国となると>、真実の追究がタブー視された。冷戦構造の崩壊と共に、少しずつ真実が明らかになっていき、1989年ポーランドの雑誌が、虐殺はソ連軍によるものだと証拠を記載。ソ連が自国の犯行と認めポーランドに謝罪したのはその翌年で、その2年後にエリツィン大統領が、スターリンが直接署名した命令書で行われたことを正式に認めた。以来多くの事が明らかになったが、未だに謎のものも多い。


 <アンジェイ・ワイダの父親は「カティンの森」で虐殺され>、母親もアンナのように夫を待ちながら命を落としている。主人公夫妻は監督の両親に重なるわけで、ワイダ自身は監督になってすぐの50年代半ばには真実を知ったという。生涯のテーマに出会い映画化を模索するが、この事件を語る事さえタブーだった当時のポーランドで出来るわけもない。その思いを「地下水道」や「灰とダイヤモンド」に吐き出し、キャリアを積み上げ時を待ちと、映画化までには歳月が必要だった。

 <戦死情報が入るたびに新聞を漁り>、名前がないと胸をなでおろし、わずかな望みを明日への糧にする妻達。ドイツとソ連両方の脅威にさらされ、不安と苛立ちからつまらない争いをする女同士。将校たちにしても最後までソ連に抵抗する者もいれば、知らないうちに取り込まれ命を永らえる者もいる。毅然とした者、巻き込まれた者、裏切った者、2人の独裁者に翻弄されて、結局は多くの人が命を落とす。そんな姿を誰を責めるでもなく、ワイダは淡々と歴史を検証するように映していくのだ。否、それ自体が、戦後ポーランドへの非難かもしれない。事件の首謀者ソ連だけでなく、事件を知りながら口を噤んできたポーランド政府の醜さ、ソ連の思惑通りに動いて表立っては口を噤んできた自分たち国民全てを、非難しているように見える。(犬塚芳美)

この作品は、アンジェイ・ワイダ監督から両親に捧げられています。

この作品は1月9日(土)より、シネ・リーブル梅田、
シネ・リーブル神戸、京都シネマで上映
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コメント


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アバターものだめも良いが今一番期待する映画です。懐かしい監督の名前をみました。

T.T | URL | 2010年01月06日(Wed)18:59 [EDIT]


Re: タイトルなし

> 懐かしい監督の名前をみました。

古い(?)映画ファンは期待も高まりますね。ご期待下さい。
邦画の台頭が目覚しいといっても、アメリカ映画が復活したといっても、こんなテイストはやっぱりヨーロッパ映画。
私はヨーロッパの中でもポーランド映画が特に好きで、予備知識がなくても最初のシーンの色彩や重さだけで、(あ、ポーランド映画では?)と色めき立ちます。骨太な女優、仕立ての良い服、石畳の道、重厚な家と、甘さがなくて歴史の匂いが高い。
これってポーランドが好きなのかも。行った事がないのですが、こうして書いていたら無性に行きたくなりました。
余談ですが、主人公の名前はアンナ。ポーランドでアンナという名前の意味はどんななのでしょう?

犬塚 | URL | 2010年01月07日(Thu)09:39 [EDIT]


軍服の立派さ

重厚な映画ですね。色々な話が混じっているので正直解りにくいが、ここの歴史を読んで確認しました。日本軍もシベリアに行ったがこんな立派な軍服を着ていたのだろうかと、国力の差を感じる。

素浪人 | URL | 2010年01月10日(Sun)11:16 [EDIT]


Re: 軍服の立派さ

> 日本軍もシベリアに行ったがこんな立派な軍服を着ていたのだろうかと、

体格が良いせいもあって本当に立派な軍服でした。それが冬枯れの森に似合って、情景だけで絵になります。映るのが知識階級ということもあり、悲劇だけれどそんなすべてが素晴しく、国力を感じますね。
この作品で難しかったのが、日付の刻印でもめるところ。わずかな日時の違いでカティンの森がソ連支配だったり、ドイツ支配だったりするわけです。犠牲者たちはソ連の脅威にひるまず、身内である犠牲者の無念を訴えようと、そこに拘る。最初はそれがわかりにくくてと惑いました。
一番の悲劇は、主人公の夫にセーターを譲り、タイミング的にソ連よりのポーランド軍に入った将校の自殺でした。彼をあをった隊長の妻はどんな気持ちでそれを知るだろうと、尽きせぬ悲劇を感じます。
ソ連の脅威に怯え、皆が一瞬の命を惜しんで口を噤み、結局多くの命を失ったポーランド。それを告発したのがドイツ軍では、自身のやっていることも50歩100歩と、信憑性がないのも仕方ないかもしれません。

犬塚 | URL | 2010年01月10日(Sun)21:00 [EDIT]


 

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