太秦からの映画便り

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映写室 NO.37インビクタス/負けざる者たち

映写室 NO.37インビクタス/負けざる者たち 
    ―ラグビーにかけたアパルトヘイト後の南アフリカ―

 <もうすぐ>サッカーのワールドカップが開かれるが、これはサッカーとは似て非なる球技ラグビーの、1995年のワールドカップのお話。開催地は同じく南アフリカだった。
 <ワールドカップと言っても、ラグビーの場合は>サッカーのようには騒がれないし、最終戦の死闘を覚えているラグビーファンでも、アパルトヘイト政策を取り続けた南アフリカという国の、歴史的側面からは眺めていないと思う。そんな斬新な視点で綴ったワールドカップとネルソン・マンデラのノン・フィクションを、クリント・イーストウッド監督が高潔な光の部分を重点に置いて描きます。迫力のスクラムやタックルを捕らえるカメラワークも見所で、サッカー熱に押されて寂しがっているラグビーファンも必見。

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 ©2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC

 <南アフリカに初の黒人大統領ネルソン・マンデラ>が誕生したのは1994年の事。熱狂する黒人と怒る白人に囲まれたマンデラの急務は、肌の色で分断された国を一つにすることだった。自分の護衛官に白人も起用し、もうすぐ開かれるラグビーのワールドカップに目をつける。でも黒人から見るとラグビー自体が白人のスポーツで、このチームのジャージはアパルトヘイトの象徴だった。…と凄まじいアパルトヘイトの後遺症が描かれるが、一方でここから、双方の思いが極端に違う、火種になりそうなラグビーを核にして、融合を目指そうと言うマンデラの無謀な試みが始まるのだけれど、もちろん簡単には行かない。黒人は貧しいし、白人は黒人の報復を恐れている。社会は一発触発なのだ。

 <マンデラに扮するのは>、モーガン・フリーマン、彼の夢を助けるラグビーチームの主将には、髪を金髪に染めていつもより肌が白く感じるマット・デイモンが扮する。モーガン・フリーマンのマンデラは背中を丸めて、スタイリッシュに決めれば決めるほど27年の厳しい牢獄暮らしが滲む。一方ピナールは、逞しい体以上に繊細さが浮き上がり、黒人社会の中で白人性が強調されるのだ。それでも2人はお互いの思いを理解し合い、国の再生をワールドカップに託していく。

 <実際にもそうだったのだろうけれど>、この2人のリーダーが高潔過ぎて、物語としては少し物足りなさもある。過去を語らず自分を殺そうとした側を許すマンデラ、そんな新大統領に心酔するスポーツマンらしい若者と彼を誇りに思う家族、破綻がなくてアメリカ映画好みのヒーローなのだ。現地で撮影しながら流れている空気感がアメリカ的に明るいのも、クリント・イーストウッドをもってしても仕方ないんだろう。アフリカの地はそれだけ遠いと言う事だ。
 <もちろんマンデラが理想主義だけの訳がなく>、現状を冷静に見つめる限りないリアリストだったからこそ実現した事だけれど、この物語はそこまでは踏み込まない。リーダーはそんな非情な思想を隠し、民衆を酔わせるカリスマ性が必要なところまでを描く。

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©2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC

 <国民は単純だ> 食うや食わずでバラックに住んでいても、昨日までの敵も、オリンピックやワールドカップのような国家を背負った行事では、一瞬で支配階級や恵まれた階層とも一体化できる。スポーツと言う祭典の素晴らしさだけれど、それは良いことでもあり、何かに誤魔化されたナショナリズムでもありと、少し複雑な思いで見た。興奮が冷めた後には又多くの困難が押し寄せたに違いない。それでも皆で一緒に盛り上がったこんな瞬間があった事実は、両者の融合の一歩になったはず。これはそんな事を熟知した黒人大統領の手で、新しい南アフリカに向けて動き出した日を、誇らしく描いた作品なのだ。

 <南アフリカは今、成人の5分の1が>エイズに感染している。それが経済を圧迫しているし、20パーセントを超える失業率で白人の中にも貧困層が現れ、有色人種間では少ない仕事を奪い合って隣国からの不法侵入者との小競り合いが耐えないという。一方では黒人の中にも富裕層が現れ格差社会が出現した。歓喜の時から15年、南アフリカは未だ混迷の中で、治安も悪化しているのだ。
 <90歳を過ぎたマンデラは>もはや国政を握ってはいないけれど、皆の記憶の中で95年の戦いは輝いているはずだし、現大統領も覚えているに違いない。あの時と違って今度の祭典は黒人も対等に参加できるサッカーだ。さあ、この好機を現大統領が利用し切れるかどうか。6月に南アフリカはどんな顔を見せてくれるのだろうと楽しみが増えた。

 <ちなみに「インビクタス」とは>、マンデラの長い獄中暮らしを支えたウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩の題名で、不屈という意味になる。本作で「インビクタス」な者とは誰なのか。もちろんマンデラと主将の二人だけれど、同じ黒人としてマンデラを映画化しようと試行錯誤していた主演のモーガン・フリーマンもそうだし、良作を作り続けるクリント・イーストウッド自身に、まず送られるべき言葉かもしれない。
 <そしてそのイーストウッドが>今一番この言葉を送りたいのは、未だに困窮の中にいる南アフリカの人々へだと思う。不屈の精神でもう一度再生を目指して欲しい、マンデラたちの苦しみを無駄にしないでとの思いを込めて。あえて影の部分を排除した監督の意図をそう読みたい。(犬塚芳美)

  この作品は、2月6日(土)より全国でロードショー
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相互リンク依頼

新しくサイトを立ち上げた者なのですが、相互リンクしていただけましたらと思い、コメントさせていただきました。
http://art.link-z.net/rand/link/register
自動の仕組みになっているので、簡単に登録できます。ご迷惑でしたらすみません。8Ed

rand | URL | 2010年02月03日(Wed)04:16 [EDIT]


Re: 相互リンク依頼

> http://art.link-z.net/rand/link/register

どうぞよろしく

犬塚 | URL | 2010年02月03日(Wed)08:40 [EDIT]


国旗と国家

ワールドカップになると日の丸をペインティングする若者達。もうすぐ始まるオリンピックでも日の丸のペインティングがあるはず。

クリスタル | URL | 2010年02月03日(Wed)22:02 [EDIT]


アフリカは遠いけれど

南アフリカの成人の5分の1がエイズとは…ショックです。
アフリカは、まだまだとても遠い国ではありますが、
これからはもっともっと目を向けて行かなくてはならなくなると思います。
その意味では、サッカーのワールドカップが南アフリカで開催されるということ、
そしてこの時期にこういう映画が出たということは、とても意義深いことですね。
故淀川長治氏の言葉を借りて言うのもおこがましいですが、まさに“映画は教科書”だなぁと思う今日この頃、アフリカの一端を知るためにも是非見てみたいと思います。

ayako | URL | 2010年02月03日(Wed)23:27 [EDIT]


Re: 国旗と国家

> もうすぐ始まるオリンピックでも日の丸のペインティングがあるはず。

確かに日本人も国際試合になると日の丸に結集しますね。そんな時、日本の国旗はペインティングしやすい。以前は外国で心細い思いをした後、空港で日航機を見ると誇らしくて嬉しくて、ほっとした物です。
世界に出て行くと、日本と言うのを意識するから不思議。スポーツに結集する時は日の丸論争も小休止ですね。

犬塚 | URL | 2010年02月03日(Wed)23:28 [EDIT]


Re: アフリカは遠いけれど

> 南アフリカの成人の5分の1がエイズとは…ショックです。

この作品はそんなくらい部分を描いていないけれど、「ツォツィ」はそこがテーマでしたね。
クリント・イーストウッドが知らないはずがなく、それでもこの物語は、南アフリカがマンデラの下、希望に燃えて歩みだした日だからそう描いているのでしょう。本当に映画は色々な事を教えてくれますね。社会や人を描いているんですね。

ワールドカップでの中継を色々な意味で楽しみにしています。
ちなみに我が家の夫はラグビーファン。この試合を(見ていないけれど)よく覚えていて、仕事でまだ見ていないけれど、アバグビーファントしての側面からとても楽しみにしています。私も以前はよく応援に行っていたので、そんな視点でも見ました。

犬塚 | URL | 2010年02月04日(Thu)10:09 [EDIT]


良い人が主人公

良い人を主人公にすると話が教訓的になって難しいものです。マンデラはそればかりではないだろうけれど祖国の為にじっと我慢する事のできる人だった。その我慢する姿勢が攻撃する方の良心を苦しめ協力的な看守もでたはずです。

T.T | URL | 2010年02月05日(Fri)21:36 [EDIT]


Re: 良い人が主人公

> 良い人を主人公にすると話が教訓的になって難しいものです。

「沈まぬ太陽」でも、渡辺謙さんは物足りなかったですものね。(もっとも私はそう思ったけれど、年配の方には好評だったから、色々な見方があるなと)でもどちらも事実、正しい出来事、正しい人と言うのはあるのですね。そういう意味では、この映画は人物を描いているのではなく、感動的な出来事を描いているのだと思います。決勝戦、圧倒的な迫力で歴史的な瞬間を描いていて、私は其方の方に主眼を置いて楽しみました。

だから余計に見終わった後で、(南アフリカって、今大変な事態だったはずだけど…)と、過去の映画を思い出して。

犬塚 | URL | 2010年02月06日(Sat)09:57 [EDIT]


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| | 2012年04月24日(Tue)08:32 [EDIT]


 

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