太秦からの映画便り

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騙し騙される男達が主役の2つの物語

映写室 NO.140バンテージ・ポイント&アメリカを売った男
     ―自国の暗部を最大の題材にして映画を作る国―

 やっぱりアメリカ映画は凄い。潤沢な資金力と、政治的、経済的に世界の中心にいる国の直面する色々な題材で多彩な作品を作ってくる。特に優れているのは、自国の暗部を晒す政治的な作品や、国際的な諜報活動を題材にしたものだ。目の前で起こった米国大統領暗殺犯を追うダイナミックなカメラワークの「バンテージ・ポイント」と、長年アメリカを売り続けた二重スパイを追いつめる心理戦を描く「アメリカを売った男」と言う、対照的なこの2作品がその典型だろう。どちらも緊迫感で一時たりとも気が抜けない。今回は騙し騙される男達が主役の2つの物語です。

1.バンテージ・ポイント――8人の視点で真実を探る大統領への銃弾
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<スペイン、サラマンカのマイヨール広場では>、大観衆を前に今まさに米国大統領の演説が始まる所だ。1年前大統領を庇って銃弾を浴びたバーンズは、久しぶりの護衛で緊張している。とその瞬間一発の銃声が響く。倒れる大統領、騒然となる広場、さらに響く大爆音、いったい何が起こったのか。惨劇に涙するTVレポーターも次の瞬間爆音と共に吹っ飛んだ。ビデオを回していた観光客、中継のカメラ、其処に移っていたのは…。

 <トラウマで極限の緊張にあるシークレットサービス>のバーンズ役は、瞳を血走らせたいかつい顔のデニス・クエイド。一部始終を中継したテレビ局のディレクターは渋くなったシガニー・ウィーバー、温和な大統領をウィリアム・ハートが人間味溢れさせて演じる。他にもおなじみの主役級がずらりと並んだゴージャスなエンターテインメントだ。
 蒔き戻して繰り返し映すその瞬間の映像。ただし視点はその場にいた8人それぞれのもので、同じ事件も場所や立場で見えるものが違うのを証明するような映像だ。8人の視点を重ねて真実を炙り出していく。
 <だからこの作品は>、その瞬間を網羅した8面のモニター画面を順番に見ると思えばいいかもしれない。観客が何かを気付くよりは数段早く、この事件を捜査する者たちが危険や陰謀に気付いて、更なるせめぎあいが始まる。それも見れるのだから、観客と言う私たち第9番目の視点は、全てを俯瞰できる恵まれたものだった。

 <何故これ程どきどきしたのだろう> 知らず知らず、まだ精神的に不安定なバーンズに寄り添っていたのだろうか。事件を追いながらも、落ち着きのない表情から、猜疑心で一杯の彼の精神状態を疑ってもいるのだ。寄り添いながら寄り添うものを信じきれない不安が私の足元を揺るがせる。怪しいと言えば全てが怪しく、誰も信じられず、何も解らない。確かなのは映像に映った真実だけだ。
 <スペインのエキゾチックな町並み>、広場に集まる人々を大きく俯瞰する映像、全力疾走の捜査を角度を変えながら臨場感たっぷりに追いかけるカメラ、凄まじいカーアクション等がスピードに乗ってスクリーンに展開する。それでなくても町自体に何が起こっても不思議ではない不穏な空気が漂っているのだ。
 <そんな全てを息を呑んで観ただけに>、最後の過剰な予定調和がただ一点残念だった。でもこの予定調和こそが、消しきれない不気味な敵の残像に対抗するアメリカの正義なのだろう。温和な大統領の判断は正しかったのかどうか、多くの疑問に何故、如何してと尋ねたくてもこの物語が描くのはここまで。他国だけでなく国内にも敵を持つアメリカへの陰謀の全容は謎の中だ。

   3月8日(土)より、全国でロードショー


2.アメリカを売った男――二重スパイを追い詰めた2ヶ月間

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 (C)2007 Universal Studios. All Rights Reserved

 <この作品は米国史上最大の情報災害といわれる>、20年以上にわたり国家の機密をKGBに売り続けたFBI捜査官リバート・ハンセンが、2001年に逮捕される直前の2ヶ月間を克明に描いている。活発な活動期ではなく、疑われて閑職に追いやられてから証拠を掴まれるまでの期間なので、主体は手口を探る為に彼の部下として送り込まれたFBIの野心的な若者と、ハンセンとの腹を探り合う心理戦だ。

 <観客の視点はもちろん部下のエリック>に重なる。任命されながら最初の間は本人も教えてもらえないFBIの極秘中の極秘の特命。解った後も妻にも話せず、頻繁に組織から呼び出され、行動を疑われて家庭は崩壊寸前だ。しかも自分が探るのは長年スパイを探し続けてきた諜報のプロ、職場は常に緊張の極みのなか。上司からの指示が来てエリックの携帯が鳴る度に、ばれるのではとこちらが肝を冷やす。
 <もちろんそれは探られる方のハンセン>も一緒で、これほどの男が疑っても当然のエリックを疑いながら疑い切れない。それって適当に抜けている息子のような存在の彼を信用した以上に、引退間近の油断と疑うことに疲れたようにも見えるのだ。エリックの仕事は、安らぎを求め始めたこの男の懐に飛び込み、自らが彼の安らぎとなって、もう一度スパイ行為をさせる事だった。スパイと言えどもこれは辛い。人間性の問題だ。このあたりの葛藤もじっくり描かれている。

 <ハンセンは扮する役ごとに印象までを変えてくる>個性派クリス・クーパー。重厚感と探るような瞳は、登場するだけで威圧感。全てを見透かされるようで、彼の瞳がこちらを見ると、観客ですら動きを止めてしまう。
 <騙し合いの果てに最後には彼を騙し切った>エリックを演じるのはライアン・フィリップ。無防備に危険な任務を遂行するあたり、まさに敵の懐に飛び込んで秘密を掴む巧みさ。小心さと青年らしい大胆さが共存して、ハラハラさせられる。ただし最後まで男と言うより息子の瞳だった。この瞳を失いたくないからこそ、彼はこの仕事の後である決断をする。
ハンセンが二重スパイをし続けた動機は描かれないが、ラストに残す謎めいた言葉が観客を更に混沌に落とす。真実は何か、世界の平和は何処にあるのか、全ては謎だ。騙し騙された親子のような2人の男のこの2ヶ月は、人生をかけた消耗戦だったに違いない。

  
  関西では3月8日(土)より、敷島シネポップにてロードショー!
       3月22日(土)、シネカノン神戸にて!


ちょっとディープに 
 裏に政治の絡んだ問題は、複雑過ぎて映し切れない部分がある。だからそんな作品が成り立つのは、じっくりと前面の心理戦を映せた時だけだ。この2本はそれを成し得る俳優陣の高い演技力があってこその作品だと思う。
 ところで2本の作品とも組織を束ねる上官は女性だ。こちらも美貌だけでなく、強さと複雑な心情を瞳に込めてリアルだった。残念ながら邦画では足元にも及ばない、男女俳優の競演をお楽しみください。
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