太秦からの映画便り

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映写室 新NO.43海の沈黙

映写室 新NO.43海の沈黙 
   ―岩波ホール セレクション Vol.1― 

 アカデミー賞を元夫婦で二分して評判になった「アバター」、「ハート・ロッカー」のような、大掛かりな撮影やCG技術を酷使した作品が増えてきた。迫力に魅了されながら、一方で、対極に立つ名画が懐かしい。今上映されている、映画の黄金期(50~70年代)の洋画からのセレクト「午前10時の映画祭」はそんな要望に応えたものだと思う。
 <この“岩波ホール セレクション”は>、そんな中でも特に、映画を通して時代と文化を考えようと選ばれた名作だ。第1弾は「抵抗と人間」がテーマ。表題と共に、「抵抗 死刑囚の手記より」が連続上映される。映画芸術とも呼べるような端正な世界感、美しい映像表現をお楽しみ下さい。大戦後すぐのフランスで作られ、60年以上経っての日本初公開です。

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©1948 GAUMONT

 <1941年、ドイツ占領下のフランス地方都市> 老人と姪が暮す家にドイツ人将校が同居することになった。将校は音楽家でフランス文化を尊敬している。夜毎にそれを伝えるが、老人と姪はあたかも彼が存在しないかのように振る舞い、沈黙を貫く。休暇でパリを訪れた将校は、ドイツ軍の悪行を知り…。

 <フィルム・ノワールの伝統を受け継ぐ>ジャン=ピエール・メルヴィル監督の処女作で、原作は大戦中のドイツ占領下に地下出版された同名小説だ。47年の作だから、ドイツ占領から解放されて、フランス映画が再生していく産声のような作品とも言える。
 <しかもそれは難産だった> レジスタンス文学の財産のような作品を、映画に売り渡すには抵抗があったし、原作者が将校にある俳優をイメージしていた為、それとの戦いもあった。又、メルヴィルがハリウッド映画への熱狂を公言して、監督組合に入ってなかったのも災いしたと言う。

 <結局、監督自身のプロダクションにより>、きわめて低予算で作られた。セットは作れず全てロケ。しかもほとんどが主人公3人の演技で進行する。モノクロームのやや暗い映像が素晴らしいが、実はこれも、低予算ゆえの苦肉の策。フィルムはあちこちから貰ってきた端尺で、画調の統一に困って、暗くした結果らしいのだ。
 <何とか二人の心を動かそうとする将校と>、動きそうな心を隠して、沈黙を保ち、無表情を押し通す2人。3人のかもし出すそんな気まずさや緊張感と、瞳に宿るかすかな感情の揺れが、暗めの画質の中のわずかな変化で切り取られる。広がる空気感はまさに深海の静けさだ。撮影のアンリ・ドカは、後に「死刑台のエレベーター」や「大人は判ってくれない」を撮り、ヌーヴェル・ヴァーグを代表するカメラマンとなっていく。

 <実はこんな静かなレジスタンスの情景こそが>、占領当時のフランスの誇りだった。 ナチスに占領された4年間、フランスはサルトルの言葉を借りると「沈黙の共和国」だったと言う。アラゴンたち抵抗の詩人が称えるように、英雄たちはゲシュタボの拷問に耐え、沈黙で応えた。一方民衆は、ナチスの吹く笛に踊らず、沈黙を貫いたのだ。ここで描かれているのは後者で、将校が信じていた、「ヨーロッパ新体制」や「美女はフランス、野獣はドイツだから、ドイツの残忍な性格を直すには両国の融合しかない」と言う言葉に惑わされず、沈黙で答えている。

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©1948 GAUMONT

 <もしもドイツ軍将校でないとしたら>、彼ほどいい人間はいない。同居する非礼を詫び、2人を尊重して敬意を払う。しかも流暢なフランス語を話し、フランスに敬意を払っているのが物腰からも伝わってくる。それでも2人は無視を貫く。彼が帰宅して軍服で居間を通り、「おやすみなさい」と言って階段を上りだすまで、異様な沈黙が支配するのだ。不自由な片方の足を引きずる特徴のある足音、階下の2人は実は気にしながら、黙って聞いている。どちらもが誇り高い人々だった。

 <ある夜将校は、ずぶぬれになった軍服姿を隠して>、居間を通らず直接上に上がり、私服に着替えて現れる。父親の影響でフランス文化に憧れて育ったこととか、軍服を脱いだせいか、今まで以上に親密な話を始めた。「美女はフランス、野獣はドイツだから、ドイツの残忍な性格を直すには両国の融合しかない」と、2人のフランス人に尊敬をこめて語るのだ。そんな夜毎の彼の一人語りにも、やっぱり2人は沈黙で応える。いくら良い人でも彼は憎きドイツ兵なのだから

 <ドイツ軍兵士の全てが>、ナチスの残忍さを知っていたわけではないらしい。将校は、パリで過ごした休暇で、1日に2000人殺せるガス室の話や、ドイツのフランス占領は、文化の融合ではなくフランスを根こそぎ潰す為だと知るのだ。休暇の後、彼は居間を訪れなくなる。それでも2人が彼について話すことはない。でも気にはなっているのだ。このあたりの微妙な空気感も映す。ある夜、ドアをたたく音、思わず「入りなさい」と答える老人。平静を装いながら姪も心を動かした。

 <将校は2人にとっては承知の事実>、衝撃のパリでの経験を話し始める。そして明日この家を去り戦場へ向かう決心を告げるのだ。「おやすみなさい。さようなら」と告げて去る彼に、姪も思わず「さようなら」と答える。翌朝この家を去る将校は、机の上に置かれた本と、それにはさまれた「罪深き命令に従わぬ兵士は素晴らしい」と書かれた記事。老人からのはなむけだった。

 <こんな親仏的な将校にすら>、沈黙を貫いた2人。語らなかった言葉が、将校を目覚めさせたとも思える。端正な映像と共にフランスの誇りを語っています。(犬塚芳美)

     3/20から梅田ガーデンシネマ、5/1から京都シネマ、
          6月神戸アートビレッジセンター にて上映
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| | 2012年07月27日(Fri)10:20 [EDIT]


 

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