太秦からの映画便り

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映写室 新NO.44花のあと

映写室 新NO.44花のあと 
  ―桜の花の満開の下で―

 <「蝉しぐれ」、「武士の一分」等>、映像化の多い藤沢周平の世界が、又映画化された。今回も「山桜」と同じく、藤沢作品では異色の若い女性が主人公だ。男たちが主役の武家社会で、影に沈みながらも凛と生きる女性の恋が、匂やかに浮かびあがる。
 <俳句では花と言うと桜をさす> 山桜、今回のソメイヨシノと、藤沢周平は桜をよく取上げる。武士を描くと桜になるのか、それとも武家社会の女達を桜に例えているのだろうか。パッと咲いて、パッと散る桜、華やかなのにどこかに死の影を宿す花。武家社会の恋が桜のように儚いのかもしれない。でも、情景、心意気、共に、とても日本的でもあって、藤沢周平は武家社会という形を借りて、日本を描いたとも思うのだ。
 <桜だけでなく>、長閑な時を止めたような風景は、日本の原風景かも。障子に差す影、畳と襖、和室ならではの茶道に通じる所作、全てが端正で美しい。でも主人公の心は私たちと同じ普遍性も持つ。「青い鳥」の中西健二監督が、時代劇に今の息吹を吹き込み、瑞々しく仕上げています。

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(C) 「花のあと」製作委員会

 <江戸時代の東北地方のこと>、男顔負けの剣術使いの以登は、花見で声をかけられた孫四郎と、一度だけ竹刀を合わす。惹かれ合う2人、でも父から以降は会うのを禁じられる。お互いに別の相手との縁談が進んでいたのだ。婿養子に入った孫四郎、許婚の帰りを待つ以登。初めての大役で不手際があり孫四郎が自害したと聞いて、以登は不審を持つ。許婚に真相を探って欲しいと頼むと…。

 <この作品、恋模様を繰り広げる>3人の俳優の個性が光る。以登に扮するのは、北川景子。日本髪が似合って、着物のぎこちない裾さばきも、いかり型にきっちりし過ぎた着方も、不満よりも初々しさに変える風情がある。硬い仕草も、考えてみると乙女の物だ。役柄どおりに、おっとりとしながらも、瞳に男勝りの気の強さを滲ませて、以登を現代に通じる凛とした魅力的な女性にしている。「真夏のオリオン」でも、もんぺ姿に冒しがたいような気品を感じさせたけれど、古風な衣装の中で余計に美貌が耀く女優らしい。髪を解いて、剣術に臨むシーンの剣術着もりりしくて、時代劇に馴染みにくい層も、違和感をなくすだろう。次々と着替えながら花模様で通した着物姿等、まるで咲き誇った桜のような、芯に強さを持つ北川の美しさを堪能する作品でもあるのだ。

 <孫四郎に扮するのは宮尾俊太郎で>、真っ直ぐで強い瞳と凛とした立ち姿が、いかにも剣の道に生きる男。セリフや表情で表現する俳優とは違う、体全体から発する独特の存在感、立ち居振る舞いからのオーラも、本来がバレエダンサーと聞けば肯ける。感情で表情や瞳が動かないのも、この男の無骨さに思えた。以登と竹刀を合わすシーンが見所だ。男勝りの以登が一歩もひるまず向っていきながら、孫四郎の腕前に次第に屈していく過程、お互いに男と女なのを忘れた戦いだったのに、以登が腕に竹刀を受けてよろけた瞬間、2人の張り詰めた思いが崩れて男と女に戻り、尊敬が恋に変るさまが鮮やかに描かれる。これでは父親が再会を禁じるはずだ。そうは言っても淡い恋、芽生えた瞬間に引き裂かれる運命だった2人の恋、まるで美しいまま散る薄いピンクの桜の様でもあるのだった。

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(C) 「花のあと」製作委員会

 <前半は、こんな具合に>、端整な2人や、以登の友人達の初々しさで張っぱられる。この作品が巧みなのは、後半になって観客の興味を大きく変えてくるところだ。物語が一気に人間臭くなる。
 <大飯食いで、遠慮のない不躾なさまを見せて>、以登と一緒に観客の眉までひそめさせた許婚。扮するのは甲本雅祐で、飄々と楽しそうに演じて、徐々に大人物の片鱗を見せてくる。こんな許婚ではと以登の不幸を連想したのに、全ての対応で大人の思慮を見せて、貧相に思えた風体までが、次第に味わい深く見えてくるのだ。これはそのまま以登の視点だったはず。不機嫌だった以登の顔に、徐々に観念したような笑みが浮かび始める。端正な藤沢周平の世界に人間臭さを加え、しかもその人間臭さを、もう一度上質な次元へと引き上げる甲本の許婚役。以登だけでなく、あっけらかんと不細工な男を演じる甲本雅祐にやられてしまった。

 <封建時代の女として>、以登はこれ以上望めないほど幸せな人生を送ったのではないかと思う。男子を望んでいた父から、男の子のように剣術を仕込まれた以登。でも父は、娘としても以登を慈しむ。
 <許婚がいて世間体を守りながら>、父母の愛情を一身に受け、気楽な娘時代を人より長く楽しめた以登。そうかと言って、恋を知らなかったわけでもない。たった一度の竹刀合わせで、時めく思いを知り、生涯の思いにさえなっていく。そんな大切な人を失う苦しみは味わうが、一方、真面目な男では乗り切れなかったかもしれない人生の荒波は、昼行灯と言われながら実力を発揮して出世する夫が、大きく包んで守ってくれた。

 <武家社会で、所詮女の幸せは男しだい> 男は守るもの、女は守られるものだった。藤沢周平は、そんな世界の人々を描きながら、男にも女にも人としても一分を持たせる。その一分が生きる姿勢なのだ。主人公達は一分を支えに、例え不幸があろうとも、悲しみを乗り越えて、自分なりの幸せをつかんでいく。それは、武士の美学ではあっても、性別や時代を超えて、私たちの胸を打つ姿勢。私達が考える日本的な美学なのだと思う。光を捕まえる、時を戻したような美しい映像で、日本の美学を描いています。(犬塚芳美)

   この作品は、梅田ブルク7、MOVIX京都等で上映中
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コメント


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映画化を知って、原作を読みました。
短編集の中から、この作品を拾い上げてきて映画にされたことに、まず感心しました。
短いだけに、映画としてふくらませていく面白さがあるのだろうなと、ここの解説を読んで思いました。
凛とした強い女は、文句なしにかっこいいです。

大空の亀 | URL | 2010年03月25日(Thu)09:23 [EDIT]


Re: タイトルなし

> 映画化を知って、原作を読みました。

実は藤沢作品は読んだ事がないのです。作品によっては、見た後でも、大空の亀さんのように、映画を見る前でも、原作を読みたくなるのだけれど、藤沢作品はなぜか読んだ事がなくて。
短編のエッセンスを膨らませたものの方が(と言うか、膨らませるべき物を持っている作品の方が)、良い結果を生むようですね。多分、出来事としては短編仁万となるような物でも、物語の中で人格が動いているのだと思いますが。
「真夏のオリオン」で、素敵な女優さんだなあと、思っていたら、こんな良い作品に出られて。私は松たか子のファンなんだけれど、藤沢作品だけでも、宮沢りえ、檀れい、田中零奈等、初々しい姿を見せる女優さんがいて、着物の着こなしが上手いとはいえ、女優さんはライバルが多いなあと、変な感慨を持ちました。

犬塚 | URL | 2010年03月25日(Thu)21:26 [EDIT]


藤沢周平の映像化も、円熟感。このところ女性の視点のものが続きますね。見たくなりました。

T.T | URL | 2010年03月26日(Fri)23:03 [EDIT]


Re: タイトルなし

> 見たくなりました。

ぜひごらんくださいね。最近の時代劇の中では群を抜いていると思います。
他の作品に押されて、一度は紹介のタイミングを逃したのですが、今にも開きそうな平野神社の桜を見ると、この作品が思い出されて…。遅ればせながらの紹介になりました。

読んだ事がないのですが、藤沢作品は、1つの美学の表現として、完成されているのでしょうね。映像化は、どれも成功していますから。余裕が出来れば読んで見たいと思います。

犬塚 | URL | 2010年03月27日(Sat)01:12 [EDIT]


 

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