太秦からの映画便り

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映写室 新NO.46第9地区

映写室 新NO.46第9地区
 ―南アフリカの人類立ち入り禁止地区―

 <今まで見たこともない>、不思議な映画が誕生した。舞台はワールドカップ開催真近の南アフリカで、ここに人類立ち入り禁止地区が誕生すると言う話だ。棲んでいるのは、空中に浮かんだ巨大な宇宙船から降り立ったエイリアンたち。現実には黒人達が住んでいるスラム街をもっと崩壊させたようなところに、有刺鉄線を張り巡らして隔離され、海老のような外観をした地球外生物が徘徊している。その不潔さ、その不気味さ、類を見ない。一方で見え隠れする彼らの人格(?)、いったい彼らは何者? 何が目的?
 <創ったのは南アフリカ出身のニール・ブロムカンプで>、弱冠30歳の新人監督が、故郷を舞台に斬新なアイデアを散りばめて、今年のアカデミー賞でもひときわ異彩を放った作品だ。新しい才能に喝采しながら、人類、エイリアン共に哀れな物語が心を締め付ける。

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(C) 2009 District9 Ltd All Rights Reserved.

 <28年前、巨大宇宙船が南アフリカ>、ヨハネスブルグの上空に浮かんだまま動かなくなった。船内には弱ったエイリアンが多数いて、その形からエビと呼ばれる。第9地区の仮設住宅に集められるが、そのまま月日が流れ、市民との対立が激化して、ヴィカスを責任者に第10地区への強制移住を始める。そのヴィカスが謎のウィルスに感染し人類から追われる羽目に。逃げ込んだのは第9地区だった。

 <第9地区を紹介するニュース映像で始まり>、調子もドキュメンタリータッチ。気がつくと、現実と混同しながらエビ族を探っていた。ヨハネスブルグと言う距離感が良い。ここにならこんな不思議なことが起こるかもしれないという、未知の領域がある。実際にもここのスラム街で撮影されたと言う。白人から迫害され続けてきた黒人達の悲しみが、空気感で漂っているのかも。二つに分断された街はSFの世界でも魔力を発揮する。

 <ここでちょっとエビについての知識を整理しよう> 28年間で収監されたエイリアンは総数180万。外観がエビに似ているから人間からはそう呼ばれるが、知能は高そう。凶暴そうだけれど、それは劣悪な環境に閉じ込められてきた歴史からかも。キャットフードの缶詰に目がなく、買収はもっぱらこれ。人間の策略に負け、猫缶1個で見苦しいほどの争いをするなど、ちょっと目に見えない差別感を感じて辛くもなる。
 <一方人間にも負け組みはいる> 他の地区からはみ出したナイジェリア人のギャングはここに潜り込んで暮す。エビを搾取するのが仕事だった。自分たちの女をエビに抱かせ(?)、猫缶を法外な価格で売りつけ、彼らの強力な破壊兵器を取上げる。でもその兵器はエビのDNAがないと使えない。

 <…と、よくもここまで荒唐無稽な事を>想像するものだと感心するエピソードのオンパレード。まさに映画ならではの世界に喝采だ。とは言うものの、奇妙なリアリティにも溢れ、乱暴なエビの擬人化も見事だった。B級感と大作感の間をさ迷う不思議な感覚、ヒット・メーカー「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソンが、若い才能をメジャー世界に導き、色々な映画賞で話題をさらっている。

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(C) 2009 District9 Ltd All Rights Reserved.

 <笑えるのが>、事件の鍵となるヴィカスがエビたちに立ち退き承認のサインを取り付ける過程だ。エビたちを騙して、もっと劣悪な環境に押し込むと言うのに、無理やりとは言え、契約のサインは取る。あの手この手で、しかし誠実にサインを迫るヴィカス。人権を無視ている様でもあり、尊重しているようでもあり、この国の黒人と白人の歴史を見ているようだ。

 <ヴィカスが昇進で張り切る様>、ヴィカスを自慢する家族、異人種を前にへっぴり腰になる様と、どれもリアリティに溢れ、平凡で誠実な男の人生と人柄が浮かび上がる。エイリアンを描きながら、核心は人間ドラマなのだ。
 <一方少しずつ明らかになっていく>、エビの事情。彼らは故郷に帰りたがっていて、宇宙船の故障で難民になってしまったらしい。エビの中でも特別な存在のクリストファー・ジョンソンとの出会いが後半を盛り上げていく。ぼろぼろの小屋に見せかけて、その地下で最新ハイテクを組み立てる抜群の知性。追われる立場になったヴィカスとの心の触れ合い。お互いマイノリティ同士だ。終盤の悲劇の中のわずかな光がここにある。

 <とにかく盛りだくさんの作品> 言葉だって、英語やアフリカーンスだけでなく、ナイジェリア語、架空のエイリアン語と入り乱れている。荒唐無稽な物語に込められた、新星ニール・ブロムカンプの温かいメッセージが余計に哀れを誘う。ヴィカスに救いはあるのか。人もエイリアンも心を持っているから切ない。(犬塚芳美)


*4月1日エイプリルフールに、難波周辺を、この作品から飛び出したエビエイリアンが徘徊した。

   この作品は、4月10日(土)より、梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、
                    MOVIX京都等で上映


*今洋画界は、ちょっとした9ブームだ。「NINE」と言う、イタリアが舞台でもてもての映画監督を中心に美人女優が大挙出演する、業界の裏側を面白おかしく描いた、映画全盛期の古きよき時代を髣髴させる作品も公開中だし、1ケ月後には「ナイン 9番目の奇妙な人形」という、この作品と同じ様に若い監督が作った、奇妙な形をした人形が主人公の、CG技術を酷使した未来映画もやってくる。同じ様な題名ながら、方向性はばらばら。でもどれもが見逃せないクオリティの高さと面白さ。ナインマジックが続いている。
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| | 2012年06月21日(Thu)13:09 [EDIT]


 

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