太秦からの映画便り

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映写室 「トロッコ」川口浩史監督インタビュー(前編)

映写室「トロッコ」川口浩史監督インタビュー(前編)
 -芥川龍之介の世界から台湾に舞台を移して-

 台湾の美しい自然を舞台に、少年の成長と家族の形、台湾と日本の関係とかを描いた、叙情性豊かな作品が公開になる。篠田正浩、行定勲等、名だたる監督の下で助監督を務めた、川口浩史さんの初監督作品だ。芥川龍之介の「トロッコ」を撮ろうと思ってから3年。入念なシナハンを繰り返すうちに、何時しか台湾に魅せられ、物語が独り歩きし始めたという。川井郁子さんの情感溢れるバイオリンに乗って流れる映像は、何処か懐かしくて優しい。古きよき時代を思い出す。失くした何かを探しに、台湾に行きたくなった。川口浩史監督に撮影秘話や作品への思い等を伺います。

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(4月20日 大阪にて)

<その前に「トロッコ」とはこんな映画>
 ある夏の日、敦と弟は台湾人の父の遺骨を届けに、初めて父の生まれた台湾の小さな村に行く。台北で暮す父の弟夫妻と、日本語を話すおじいちゃんに迎えられた。父から貰った古い写真を見せると、おじいちゃんは遠い目をする。素直に甘える弟に対して、敦は寂しさも甘えたい思いも胸の内に収めるが、母親はそれに気づかない。あるきっかけから、日本に帰ろうとトロッコに乗って森の奥に入る敦たち。家では母親が帰ってこない2人を心配していた。


<川口浩史監督インタビュー>

― 一生懸命子育てをしているお母さんの心情がよく伝わってきました。長男と次男の扱いの違いとか、リアルですよね。夫に遺された母親にとっては、頼れるのは長男だけ。まだ幼いのに、どうしても大人扱いして、子供として守ることを忘れてしまう。2人が森から帰ってきた時、次男を抱きしめながら、心配のあまり思わず怒ってしまう母親に、「僕、いないほうがいいの?」と尋ねる。いじらしくてほろりとしました。母親が抱きしめる思いは、そのまま観客の抱きしめたい思いに重なります。長男役の少年が又良いですよね。腫れぼったい目とか、内向的な長男そのもので。
川口浩史監督(以下敬称略):あの子はあのまんまの子です。いつも本を読んでいて、想像力が豊かなんですよ。間の取り方が上手かったですね。対照的な次男は、甘え上手で無邪気そのもの。お母さんと長男の関係って、だいたいこうなんではないでしょうか。弟を自分が守らなくてはと言う責任感や、甘えたいのに我慢している長男の寂しさを、彼が上手く表現してくれました。

―大人の何気ない言葉を子供流に解釈して、後先も考えずに森の奥に入って行ったり、勝手に子供だけで帰って来るところとか、ハラハラしながらも、(そうそう、男の子はこんな無茶をするもんだ)って思いました。
川口:少年が大人になるって、ああいうことだと思うんですよ。憧れによって自分の今までの行動範囲をどんどん超えていく。でも恐怖と不安を覚えて又戻ってくる。それの繰り返しで、自分の位置を確認しながらその範囲を広げて行くのだと思うんです。この作品の元になっている芥川龍之介の「トロッコ」では、たった1日の中で、そこのところを、とても上手く表現している。少年の成長物語として大好きなんです。主人公の少年は僕自身ですから。

―お母さん役の尾野真千子さんも、お綺麗で儚くて素敵でした。
川口:尾野さんは、最初会った時、「子供を育てた経験がないから不安です」と言ったんです。でも僕は「不安で良いんです」と返しました。何故かと言ったら、それが今の日本のお母さんだと思うからです。今、日本のお母さんたちは、子育てが凄く不安になっている。役をやる不安と、お母さんの持っている不安は同じだと思っていて、不安なままで撮影が始まり、尾野さんがどう母親をやれば良いかを戸惑う様子を、そのままドキュメンタリーで撮っていけば良いと思いました。最終的に子供を抱きしめるけれど、不安なお母さんだからこそ抱きしめる事にドラマを感じるんで、安定していて母性を感じる女優さんだったら、予定調和になってしまって、其処にドラマは生れない。だから「そのままやってください」と言いました。僕も子供がいるんで、子育ての大変さは解かる。一生懸命子供を育てているお母さんを何とか応援して上げたいんです。一生懸命でもなかなか上手く行かない所があって、新聞を見ると、この頃凄い事になっているじゃあないですか。どうすれば良いんだろうと思って、これに繋がりました。

―なるほど。ここでは良い形で、親子の間におじいちゃんとおばあちゃんが絡んできますね。このクッションが良かった。昔人間で頑固なおじいちゃんが良い味を出しています。
川口:あの方はさすがに上手いですよね。何気ない仕草にすら情感があると言うか。子育ては大変なんだけど、子供と母親の間に何かがあると、追い詰められない。母親の不安を、ここではおじいちゃんとおばあちゃんが、大きく包んでやんわりと受け止めますよね。しかも愛情を注いでも見返りを求めない。出て行く親子を、寂しくても引き止めず、そのまま送り出すことが出来る。おじいちゃん、おばあちゃんは、自分で自分の人生を、全うしているなあと、そこのところを弓子は感じとるわけです。「私、自分で選んできたのに、ちゃんとしてないんですよ」という台詞を言わせたんですが、2人の人生を見てると、ついそう思ってしまうのではないかと。実は僕も、地元のおじいさんやおばあさんに会った時に、そう思ったんです。ちゃんとやるということを定義するなら、このおじいちゃんたちが最後なのではないかなあと思いました。亡くなっても、3回忌位までは自分のお金で始末が出来るとか。以降の人はなかなか同じことは出来ないんじゃあないかなあ。

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©2009 TOROCCO LLP

―そうかも知れません。ところで、台湾の方は日本人によく似ていますね。顔形もありますが、持っている感情も日本人に近いというか。これを見て感じました。それって風土のせいでしょうか? それとも、昔の日本語教育のせいもあるのでしょうか?
川口:風土だと思います。台湾には日本と同じ様な風が吹いている感じがしました。食べ物もそうなんですよ。台湾料理って、味付けが薄いのに旨味はしっかり付いている。油っぽくなく、素材の自己主張が静かにしっかりされる。それが台湾の人と話している時の印象と同じなんです。

―なるほど。言われてみれば確かにそうです。台湾料理店は流行っていますしね。日本人にとっても、食べやすくて美味しい。味覚も近いのでしょう。日本人としての従軍経験のあるおじいちゃんが、軍人恩給を貰えないという不条理と、それへの怒りが出てきたりはしますが、それにしても全体のトーンは親日的です。日本の統治時代があるのに、中国や朝鮮半島とはずいぶん違いますね。温かくされるのは、やはり日本人としてホッとします。
川口:それも捉え方だと思うんですよ。台湾の人たちの気風は、確かに日本人に近いと思います。しっとりした感じを受けるのは、彼ら自身の持っている感情が、攻撃的でなくしっとりしているからでしょう。ただ、言い方が回りくどくて、本心が解かりにくいんです。遠まわしだから、言ってる事が本音かどうかはこちらが推し量る必要がある。このあたりも、日本人と似てるかもしれません。不幸な過去にもかかわらず、親日的なことを言ってくれる彼らが、日本に対して複雑な思いを持ってないかどうかは別なんです。おじいちゃんにしても、最初日本を褒めるけれど、自分の中には複雑な思いがある。その部分を僕としてはやっぱり汲み取りたい。すぐに言わないのは、本音を遠まわしに言うという彼らの特性でもあるんですよ。もちろん、彼らの紳士さであり優しさでもあるんだけれど、そういう風に見えて、実は別の思いもあると言うのが僕らの驚きでもある。遠くにいる外国の方が、日本語を喋るというのは不思議ですよね。僕はそれに驚き興味を持って色々なことが始まっていきました。

―ええ。日本との歴史が滲み出てきます。そんな事がありながら、それでも親日的でいてくれるのが台湾なんだなあと言うのも伝わってきました。もちろん、それに私たちは答えないといけないんですが。そんな具合に、この作品には台湾への愛が滲み出ていますが、元々台湾がお好きだったのでしょうか?
川口:いや。恥ずかしいですが、何も知らなかった。元々僕は、芥川龍之介の「トロッコ」が大好きで、それを撮りたかった。でも、日本には線路が残っていない。そんな事を「春の雪」を撮ってる時にボソッと言ったら、撮影監督のリー・ビンビンが「台湾には残っているよ」と教えてくれたんです。で、合計6回、延べで6ヶ月間、台湾各地にシナハンに行ったんですが、行く度に台湾が好きになりました。スパやグルメと、台湾を好きになるのは女性が多いんだけど、どうしてかなあと思ったら、人が親しみやすいんですね。日本人のような遠慮がないというか、電車で隣に坐っただけの知らない人でも、「このカバン良いね」とか気軽に声をかけてくれる。驚いたけど嬉しかった。人と人の距離感が近くて、それが凄く楽なんです。心地良い距離感だったので、それを表現したいなあと思いました。(聞き手:犬塚芳美)
<明日に続く>

この作品は、5月22日(土)から梅田ガーデンシネマ、
      7月京都シネマ、9月元町映画館 にて公開
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| | 2011年06月09日(Thu)16:30 [EDIT]


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| | 2012年07月26日(Thu)14:44 [EDIT]


 

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