太秦からの映画便り

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映写室 新NO.49オーケストラ

映写室 新NO.49オーケストラ 
  ―チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に込めた思い―

 <クラシック音楽の世界を>、ドラマティックに描いた映画が続く。音楽家たちの浮世離れした物語と共に、個性的に演奏されるクラシックの名曲を聞くのが醍醐味だ。
<日本の音大生が>音楽家になっていく過程を描いて、今大ヒット中の「のだめカンタービレ最終楽章」では、のだめの吹き替えをした、中国人ピアニスト“ラン・ラン”のエキセントリックな演奏に魅了された。ロシア・ボリショイ交響楽団が舞台の、これから紹介する「オーケストラ」では、劇中曲にどこか東欧的なジプシー音楽の匂いがする。音楽の向こうに、音を奏でる人の心が見えて、音楽が解かりやすいのだ。
<音楽って生き物、演奏する人の心なのだと>、このあたりで音楽と物語が絡んでいく。終盤に、美貌のソリストとの競演で、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が使われるが、目と耳の両方が圧倒される。にわかクラシックファンが増えること請け合い! ぜひ音響設備のいい劇場で見て欲しい。

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(C) 2009 - Les Productions du Tresor

 <元ロシア・ボリショイ交響楽団の指揮者>アンドレイは、清掃員。ユダヤ人が迫害された時代に、彼らを庇って職を追われたまま30年が経つ。ある日、支配人室で、パリ・シャトレ劇場からの招待状を見つける。とっさに閃いたのが、昔の仲間を集めて乗り込むことだった。シャトレ座の支配人を騙し、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲をやる事と、ソリストとしてアンヌ=マリー・ジャケを呼ぶ事を納得させる。色々な仕事で糊口を凌いで来た仲間がパリに集まるが、観光気分だったり、行商を始めたり。アンドレイは偽ボリショイ交響楽団を指揮し切れるのか…。

 <音楽家の暮らしを描くと>、何処かこっけいになるようだ。この作品でも敗者復活戦に臨む筈のアンドレイは、だらしがなくてハラハラさせられる。特に序盤は、彼の頑固さや不甲斐無さばかりが描かれ、何故彼が掃除夫にまで落ちぶれたのか解からない。ただ、不遇の彼を支える妻がいて、彼の成りすましの計画を聞くと「離婚だわ」と呟き、少し間をおいて「もし、それをやらなかったら」と満面の笑みで付け加えて夫の背中を押す。この辺りで、観客も彼にかけてみようと思い出す。決め手は妻の一言と言うわけだ。

 <元団員たちの現在は>、聞くも涙語るも涙の世界。どんなに才能があっても、特殊な仕事をする人が仕事を追われるというのはどんなことか、不況の日本だけに、身に詰まされる。特に、続けるのにお金がかかるのに、暮らす上では無くてもいい音楽となると、生きていくのは大変。音楽の流れる劇場から離れたくなくて(?多分)、清掃をしながら、漏れて来る音にタクトを振り続けてきたアンドレイ、タクシーの助手席に楽器を乗せ仕事の合間に演奏していた者、生活に困り楽器を売り払った者、怪しい仕事に手を染める者、妻と別れた者、夢と現実の隔たりは大きい。それでも何処かこっけいなのは、この作品の視点でもあるけれど、音楽を志す人たちの、どこかノー天気で浮世離れしたところでもあると思う。この辺りは、「のだめ…」の貧乏オケの団員と一緒だ。

 <復活を夢見るアンドレイは>、パリのステージに残りの人生の全てをかけている。でも他の団員にそこまでの思いはない。30年の間に、音楽やステージへの夢は、実現したいものではなく本当の夢になりかけているのだ。やっとパリに到着しても、陽気でいい加減なロシア人気質のまま、久しぶりの自由を謳歌し、あっちにふらふらこっちをうろうろ、飲んで食ってに浮かれ、練習どころじゃあない。焦る招聘側、暢気な団員たち、狂騒劇はここからが本番なのだ。
 <そんな表面の狂騒を尻目に>、アンドレイの心は深い闇を漂い始める。久しぶりの舞台への不安から、止めていたアルコールに手を出し、意識も朦朧。そもそも、なぜアンヌ=マリーに拘るのか、エリート指揮者が何故失脚したのか、過去を辿ればロシアの悲しい歴史が絡んで来た。

 <脚本と監督は>,「約束の旅路」のラデュ・ミヘイレアニュ。今回もユダヤ人のうけた迫害の歴史を上手く織り込んでくると思ったら、彼自身がユダヤ系のジャーナリストの息子で、独裁政権下のルーマニアからイスラエルに逃げた過去があるらしい。彼にとって、迫害の歴史は、創作からはずせないテーマなのだ。アンドレイたちの再生を描くことが、仲間へのエール。歴史を風化させたくないという思いでもあると思う。


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(C) 2009 - Les Productions du Tresor

 <ハチャメチャな寄せ集め団員達が>笑わせてくれるとしたら、調子を変えるのは、ソリスト、アンヌ=マリーの登場だ。ついこの間「イングロリアル・バスターズ」で、心を掴まれたばかりのメラニー・ロランが、又もやユダヤ系の謎めいた女性に扮する。その美しさは、まるで光が降りてきたよう。団員達のかもし出す、時を止めたようなロシアの重さや野暮ったさと対照的で、西側社会の現代性と洗練度を見せ付ける。
<容姿の繊細さからなのか>、これほど美しいのに、幸せ100パーセントと言うより少し薄幸な匂いがするメラニー・ロラン。それがたまらなく魅力的で、謎めいてもいて目が離せない。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の演奏シーンでは、音楽と共に、彼女の透明感のある美貌と、その美貌を一段と際立たせる、情感の溢れる演奏姿も見所だ。「のだめ…」の“のだめ”が演奏中の大胆な体の動きで思いを表現したのとは対照的に、こちらはもっと本格的に、大きな瞳と豊かな表情で思いの多くを表現する。まるで音楽家が音楽と自分の心を一体化させる過程を見た思いだ。

<前作では普段着を抜群のセンスで着こなしながら>、ラストの赤いドレスが、設定上から他の人に比べて安っぽくて残念だった。もっと良い素材のドレスを着せて、飛びっきりの美貌を見たいものだと思っていたら、こんなに早く、文句なしのドレス姿が見れたのが何より嬉しい。

 <…と、メラニー・ロランの絶賛>で終わりそうだ。仕方がない、それがアンドレイの思いだし、そんな物語なのだから。ところで、アンドレイと彼女の関係は何なのだろう? 途中、ありがちな物語を想像したけれど、後でもっと崇高な物語に連れて行かれた。この物語、練りに練られている。(犬塚芳美)

この作品は、5月1日(土)より梅田ガーデンシネマ、
          神戸国際松竹、MOVIX京都等で上映
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コメント


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感動です。ゴールデンウイーク中にもう一度見ます。満たされました。

M.S | URL | 2010年05月04日(Tue)02:01 [EDIT]


Re: タイトルなし

> 感動です。
凄いですよね! 見終えてしばらくうっとりしました。美しい人を見るのは嬉しい。感動の物語を見るのも嬉しい。
ゴールデンウイークの映画館はどんな具合なのでしょう?

犬塚 | URL | 2010年05月04日(Tue)09:38 [EDIT]


よかったです!

短歌の二次会でも、「ぜひ行きや!」とすすめられました。
梅田ガーデンシネマのHPを見ると、人気で立ち見とか整理券とか書いてあったので、日曜午前をやめ、土曜のレイトショーに、夫と行ってきました。
帰宅は、夜中の12時前。久しぶりの夜遊びです。
すごくよかったです!特に後半、力が入りました!
犬塚さんが書いている「音楽家が音楽と自分の心を一体化させる過程を見た思いだ。」そう、まさにこの通りで、感動しました。

大空の亀 | URL | 2010年05月16日(Sun)14:48 [EDIT]


Re: よかったです!

> すごくよかったです!特に後半、力が入りました!
> 犬塚さんが書いている「音楽家が音楽と自分の心を一体化させる過程を見た思いだ。」そう、まさにこの通りで、感動しました。

見た人は皆良いと口を揃えますね。見た人がそれぞれに、「良かった!」と報告に来てくださるほどなのです。先に見た「のだめ…」が馬鹿みたいに思えてきたと言う声が多いけれど、あちらはあちらで良いですよ。別のジャンルですから。
そうかあ、大阪はそんなに入っているのですか。京都の上映は400人くらいのキャパのところなので、ウイークデーの朝一では5,6人で見たという人もいます。ただ午後からは結構入っていたそうですが。久し振りの夜遊びも良いものですよね。私もさっき帰ってきたところです。

犬塚 | URL | 2010年05月17日(Mon)00:17 [EDIT]


 

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