太秦からの映画便り

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映写室 新NO.51 9<ナイン>~9番目の奇妙な人形

映写室 新NO.51 9<ナイン>~9番目の奇妙な人形 
     ―ティム・バートンのもう1本―

 <「アリス・イン・ワンダーランド」が>大ヒット中のティム・バートン監督だけれど、プロデュース作品では、もっと不思議な世界が出現している。これが凄い。見逃せない。今まで見たことがないような、始めて体感する世界なのだ。
 <麻のずた袋で出来た>、なで肩の奇妙な9体の人形が繰り広げる物語は、人類滅亡後の未来社会。手作り感一杯の、古さと新しさが混合した映像は、どうやって作ったのかも解からない。ストップモーション・アニメの様でもあり、CGの様でもあり、まるで動く立体絵本だ。深夜に、部屋の片隅の人形達が繰り広げたパラレルワールドの様でもある。まずはスクリーンで、腰を落として短い足でよたよたと、時には敏捷に動く彼らに出会って欲しい。ただし物語は複雑だ。人形達が、自分たちが生まれた意味を探るという、文明も風刺したちょっと高尚なファンタジーは子供よりは大人向きかも。其れを横において、映像展開だけでも、遊び心一杯のクリエイティブな世界が堪能できる。地中だけでなく未来へも潜り込んで欲しい。

9-m
(C) 2009 FOCUS FEATURES LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

 <古びた研究室で奇妙な人形が目を覚ます> 麻袋を縫い合わせた体、お腹の大きなジッパー、背中には9の文字がある。廃墟を見回してきょとんとしていると、背中に2と書いたボロ人形が現れ、自分は仲間だと言って、9を喋れるようにしてくれた。でも襲い掛かってくる機械獣に、2は9を庇って連れ去られる。気を失っている間に、同じ様な仲間が次々と現れた。どうやら9体いるらしい。

 <元々はUCLAの学生だったシェーン・アッカーが>、卒業制作で作った11分の短編だったと言う。2005年のアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされるや、ティムは造型の妙や物語の独創性に惹かれ、プロデューサーとして全面的にバックアップ。建築とアニメの修士号を持つアッカーは、豊かな発想と理系的センスを映像に忍び込ませて、5年をかけて新しいテイストの長編に仕立て上げた。物語の背景の、人形の生みの親になる博士、創造主がアッカーという訳だ。だからなのか、まだ学生気分も残り、趣味に走って労を厭わない。凝り性の理系器質が露見して、知的な匂いがプンプン。多分試行錯誤したアッカーの作業部屋自体が、最初のシーンの古びた研究室のようなのだろう。

 <この作品の魅力は、なんと言っても人形達の体を作る、麻の温かさだ> 体のラインにしなってユーモラスな事。考えてみると麻袋は大好きなアイテムだった。コーヒー豆の入っている荒い麻袋、通称ドンゴロスは特に味わい深くて、コーヒーの輸入ショップで皆が競って貰い受けたものだ。この作品はそんな温かさに包まれている。圧巻がとろんとした背中と肩の表情で、気が付くと奇妙な人形達に命を感じていた。

9-s
(C) 2009 FOCUS FEATURES LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

 <9体の人形はどれも大きな目をしている> 目と言うより、毒ガスマスクをそのままくっ付けたようで、その瞳の動きで心の内を感じさせられた。心細そうな動き、驚いた表情、探るような瞳、何処がどう違っていたのだろう。その時は納得していたのに、今となっては解からない。体だって、廃墟のそこら辺で拾い集めたもので出来ている。継ぎ接ぎだらけで、麻袋の皮膚の上に、真鍮や手の銅版細工と金属の種類も色々、手縫いの縫い目、ガラス玉、針金、全ての素材の温かさを感じる作品でもあるのだ。壊れたら何処かから部品を調達して、工夫して直してしまう。なんかそんな全てが温かい。

 <同じ様な材料なのに>、9体それぞれに宿る個性、その妙を楽しむのもみそだ。頑固なリーダー、お人よしの老人、好奇心旺盛な双子、小心者、風変わりな芸術家、勇敢な女性戦士、腕力自慢、博士の渾身の思いを込めて最後に作られた、我らが9は勇敢で直情型。ちょっと向こう見ずでも、他の8体に勇気と方向性をもたらすのが役目だろうか。まるで社会の縮図だけれど、時にはいがみ合い、友情も芽生えと、人形なのに人の心をもっている。う~ん、しかし人間の心って? 博士の思いで人間のしでかした後始末に送り込まれた人形達。…なんて理屈より、ともかく映像を楽しみたい。結末だって、映像のトーンだって決して明るくはないけれど、若々しい才気走った所が全てをカバーする。ティム・バートンだって、結局はこの煌めきにやられたんだと思う。ワンダーランドと言えばこれほどのワンダーランドはない。3D全盛の時代に、別の贅沢さと奥行きを見せてもらった。ヒットした自作の陰に隠れるプロデュース作品、ティムも複雑な心境だろう。映像が全てでレビューを書き難く、露出が少ないのも痛い。(犬塚芳美)

*声優はマーティン・ランドー、ジェニファー・コネリーやイライジャ・ウッドとハリウッドの看板スターを並べて豪華版。吹き替え版全盛の時代に、アニメながら字幕のみで攻めているのも好感度高し。

この作品は、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、
      なんばパークスシネマ、MOVIX京都等で上映中
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今年は9がブーム?

日頃こちらのブログを拝見するたびに、「シネ・リーブルに行きたいな~」という思いがいよいよ募り
(郊外のシネコンにはない、深い映画が上映されていますよね…)、
先月思い切って有休を取って行ってきました。
見た映画は「プレシャス」でしたが、その時予告編で見た、「17歳の肖像」と、こちらの「ナイン」という作品もちょっと気になっていました。
9という数字は、日本ではそれほど意味を感じませんが、「ナイン」という映画、最近別の作品でもありましたね…今年はブームなんでしょうか

ayako | URL | 2010年05月16日(Sun)21:53 [EDIT]


Re: 今年は9がブーム?

> 9という数字は、日本ではそれほど意味を感じませんが、「ナイン」という映画、最近別の作品でもありましたね…今年はブームなんでしょうか

そうなんです。特に「第9地区」とこの「9<ナイン>…」は配給会社も同じギャガ。制作年度は1,2年前だろうから、憧れをこめて本国公開時を狙ったのかも。そのまえの「NINE」も味わい深いし、9がらみの良作が続いた今年上半期でした。

京都にいると映画環境が恵まれていて気がつかないんだけれど、少し郊外に行くと単館系は厳しいですね。と言っても、ayakoさんがあげてくださった3作は、京都ではすべてシネコンでの上映。シネコンでもスクリーン数が多いのでこんな作品がかかります。「9<ナイン>…」、こんなに良いのに、書きにくいものだからあまり取り上げられなくて。少し遅れたけれどトライしました。見れると言いのですが。

犬塚 | URL | 2010年05月17日(Mon)00:29 [EDIT]


 

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