太秦からの映画便り

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映写室 新NO.52パーマネント野ばら

映写室 新NO.52パーマネント野ばら 
 ―原作者、西原理恵子のふるさとでのロケ―

<人は生きているだけで切ない> 切ないくせに、誰かを恋せずにはいれないから、もっと切ない。西原理恵子はそんな人間の本質を、これでもかと言うほどクールに見る作家だ。その痛みを自分に引き寄せて、時にはそれに塩を塗りこむような自虐性もある。なのに零れる人への愛しさ、愚かな存在へ乾いた目を向けようとする作者の、乾き切れないウエットな心が覗けて、複雑極まりないところが良い。
<もう何作目になるのだろう> 彼女の本が又映画化された。今回は大人の女たちの可愛さと愛しさが満載の、サイバラワールドの決定打だとも言われる、叙情性で一歩抜きん出ている作品だ。撮影は西原の出身地、高知の港町で行われた。この空気感で育ったからこそ、あのサイバラが誕生したのだと、少し解かった気がする。監督は、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の吉田大八。サイバラと共振している。龍馬だけじゃあない、南国の町の明るい光と空気感、土佐弁の温かさと人情を見て欲しい。

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(C) 2010「パーマネント野ばら」製作委員会

<海辺の町の小さな美容院「パーマネント野ばら」は>、離婚して一人娘を抱えて戻って来たなおこと、その母が切り盛りしている。今日も女たちが日常の憂さを晴らす。土地柄なのか明け透けな恋愛話が多く、小母ちゃんたちも女現役だ。でも皆男運が悪い。母の再婚相手は別の女の所へ行ったきり、友達のみっちゃんは浮気性の夫に貢いでばかり。ともちゃんはギャンブル狂の超駄目男に振り回されてきた。でもなおこは、高校教師のカシマと密かに付き合っている。

<サイバラの作品に優等生は出てこない> 過剰だったり欠けていたりと、皆どこかおかしい。でも無上の優しさも持つ。そんな不器用さや弱さを嫌いながら、どこかで愛している作者。痛切ないというのがぴったりのような、独特の世界観を持つサイバラワールド、今回もそんな登場人物で一杯だ。

<なおこに扮するのは菅野美穂>少し頼りなげで透明感のある存在が、濃~いこの物語の中で際立って、最初から少し浮いた存在だ。それこそが、なおこの立ち居地だった。何かがこの町に似合っていなくて、都会的な匂いも残るが誰もそれを咎めない。時が来たらこの町を出て行く予感もする。離婚までに何があったのだろうと想像した。柔らかな微笑、娘との穏やかな会話、心を傷つけて、それをリハビリするように、生まれた町で静かに暮しているのが伝わってくる。
<と言っても>、表立って母親は何も労わらない。強気を見せることで、か細い娘と孫を守るのがこの母のやり方のようだ。夏木マリが金髪に染めたパンチパーマで、原色のいかにもな服を着て、肝っ玉母さん振りを見せる。その圧倒的なインパクト、田舎に行くと確かにこんな、センスが良いのか悪いのか解からないような美容師さんがいると可笑しくなった。でも外観のやんちゃぶりに反して、この母は細やかだ。町にたった1軒の美容院だからと、ゴミ屋敷に住む老人も見捨てない。がに股の歩きぶり、ドーンと構えたところ、海辺の町で暮らし、全てを自分で引き受け、色々なものが自分から毀れて行くのを、それでも良いと肝を据えて乗り切った女の姿だ。夫が他所の女に走って寂しくても強気は崩さない。こんな母がいるからこそ、なおこはふんわりと生きていける。

<皆が都会に出て行く町で>、残っている女たちも半端じゃあない。誰もが何かの理由で残ることを選び、湧き上がる外への憧れを封印し、ガサツを装うことで乗り切ってきた女たちだ。あけすけなセックスの話や痛い男漁りが何だと言うのだろう。この土地に残り、生き抜くほうがもっと大事。過剰に剥き出した人間性は、何かに目を塞ぎ生きる為の方便だった。

<スリムになって>、こんなに横顔が美しかったのかと見とれさせるのは、友人のみっちゃん役の小池栄子。スナックを経営して、ひも状態の夫に自分の従業員に手を出されても追い出せない。殺傷沙汰を繰り返しながらも、又小遣いを渡してしまうのは、一人になるのが怖いから。自分から恋する思いが消えたら生きていけない。あの夫を追い出しても、この町の男たちは同じようなものなのだ。そんな夫を気遣う言葉が泣かせる。「今度は愛があるんじゃなかろうか?」愛がなければ浮気も何とか許せるのだ。だって又自分のところへ帰ってくるもの。気風よくなおこや母親に接するのは、未来の肝っ玉母さんの片鱗。一人で生きる時間がきっと彼女を、なおこの母親のように変えていくと思う。

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(C) 2010「パーマネント野ばら」製作委員会

<超ダメ男に引っかかってばかりの>池脇千鶴演じる、ともちゃん。何処かが壊れていて、何とも痛々しいけれど、痛々しいと言う言葉を跳ね除けるような確信性。こんな不思議な存在を納得させるのは、実力派池脇ならばこそだ。この町ならばお金のないどん底暮らしでも何とか生きて行ける。このゆるさが好きなのだろう。彼女はこのサイクルから抜け出る術を知らないし、抜け出す気もない。

<この町で埋没しそうな女ばかりの中で>、たった一人、なおこはカシマと幸せそうに見える。時期が来たら皆に祝福され、羨ましがられながら新しい生活を始めていくのだろう。娘の成長を待っているのか、離婚したなおこにまだ心の傷が消えないのか…、何て想像していたら、旅館で転寝した辺りから観客は戸惑いの中に放り込まれる。物語は意外な展開を始めるのだ。
<さあ、ここからが演技派>菅野美穂の本領発揮。全ての事象が別の側面を見せ始める。もちろん周りの演技派たちも負けてはいない。それでも生きていれば良い。生きているだけで幸せ、明日は明日で何とかなると、誰もが温かく包み込む気配。「パーマネント野ばら」は癒しの場所だった。

<女達が主役の物語に>、個性的な男優達がアクセントを付ける。いやいや、それは当然のこと、恋する女たちの相手は必ず男だ。高校教師のカシマに扮する江口洋介は、大きな体がなおこをそのまま包み込むよう。白衣が似合って無骨な風情もある。存在自体がこの物語の中の光なので、後半はなおさら切なさが増す。
<母の再婚相手に扮する宇崎竜堂は>まさにこの町の男だ。優しいのか無責任なのか解からないが、とりあえず目の前の女には優しい。彼が去っても意地を張り通す母は、誰より彼を理解しているようにも思う。不思議な重量感で物語を引き締める。後の男たちも凄まじい。スロットマシンのコインを残して餓死するともちゃんの男、チェーンソーを振り回す男、サイバラの毒はユーモアを加担しながら随所にちりばめられている。

<独特の毒気が効いてくるサイバラ作品に>、こんなにも惹かれるのは、私がすぐ隣の県で生まれて育ち、彼女が誇張する前の、この地の駄目さと温かさを熟知しているからかもしれない。それを露悪的に表現して世に出たサイバラ、そこに行き着くまでの思春期の彼女の頑張りと苦しみが解かる気がするのだ。駄目な故郷を嫌いながら、その嫌う思いが彼女を育てたという事実。「女の子ものがたり」も良かった。でも、土地に残り続けた女たちへの柔らかなエールは、なおさら心に染みる。いつか人生に疲れたら、「パーマネント野ばら」のあるような町に帰りたい。(犬塚芳美)

この作品は、5月22日(土)よりシネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、
                MOVIX京都、シネ・リーブル神戸で上映
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コメント


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夏木マリ、小母ちゃん役がはまりすぎ!!
卑猥な濃い小母ちゃん連中をまとめて男前!!これ以外の役の夏木マリはもう見れないぞ。宇崎のおっちゃん振りもはまりすぎ!!

田中 | URL | 2010年05月23日(Sun)19:50 [EDIT]


Re: タイトルなし

> 夏木マリ、小母ちゃん役がはまりすぎ!!

すごいですね。この作品一番のインパクトかも。金髪のパンチパーマと迫力の服装が頭を離れません。
菅野美穂の清楚さが1人際立っていました。もう一度見たいような・・・。

犬塚 | URL | 2010年05月24日(Mon)00:16 [EDIT]


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| | 2010年06月15日(Tue)18:24 [EDIT]


Re: 映画に呼ばれて

今頃になってやっと熱い気持ちを拝見しました。良い作品でしたね。このところの西原ブーム、、「毎日かあさん」も「酔いがさめたら…」も良かった!

映画のツボ | URL | 2011年03月22日(Tue)21:07 [EDIT]


 

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