太秦からの映画便り

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映写室 新NO.53  ONE SHOT ONE KILL-兵士になるということー

映写室 新NO.53  ONE SHOT ONE KILL-兵士になるということー 
 -「グリーン・ゾーン」と共に沖縄や米軍のことを考える―

 <約束の5月末が近づいたが>、沖縄の基地問題に決着がつかない。国外どころか、抑止力に気が付いた等、鳩山総理は今更何をと言う言葉を吐いて迷走を続けている。そこでよく聞く言葉が海兵隊だ。辺野古のキャンプ・シュワブ、普天間基地等と沖縄には海兵隊の訓練施設があちらこちらにある。沖縄を考える上で欠かせない、海兵隊員とは何者なのか? 何の為にここにいるのか? そんな事が少し解かる、海兵隊のブートキャンプ(新兵訓練所)の12週間を追ったドキュメンタリーです。

one_shot.jpg
(C)森の映画社

<うかつにも海兵隊を海軍の事かと>思っていたら、とんだ間違いだった。海兵隊は作戦の中でももっとも危険な、戦争が始まった時の殴りこみ部隊で、米軍には陸軍・海軍・空軍・海兵隊・湾岸警備隊とあるのだという。危険が少ないエリートコースは入隊も厳しい。志願制度の今、不況による就職難や、免除されると言う大学の奨学金の事もあり、海兵隊にはそういう事情を抱える、移民やマイノリティと言った貧困層が多いという。隊員は任務以前に、自分に関わるアメリカ社会の問題も抱えているわけだ。

<ブートキャンプとは>、兵士になった若者たちが最初に訓練を受ける場所。陸軍・海軍等それぞれにあるが、海兵隊のブートキャンプが12週間と一番長い。海兵隊のブートキャンプは2ヶ所あって、ミシシッピ川から東の出身者と女性は、パリスアイランドで訓練を受ける。1915年に開設以来、100年近く新兵訓練を請負って来た地だ。毎週500人から700人の新兵がやってきて、平均で男子の90パーセント、女子の85パーセントが卒業する。金曜日ごとに卒業式があり、08年10月から09年9月までの1年間で、164000人が新兵としてアメリカ軍に入ったが、そのうちの約20000人がここから巣立った。

<ここを出た彼らは>、早ければ半年ほどでアフガニスタンやイラクという戦闘の最前線に送り込まれる。12週間で兵士になったのかどうかと言えば、これを見る限り、兵士と言うより本格的な兵士訓練に耐える精神と体を作っただけのように見えた。まだあどけない顔で無邪気に夢や希望を語る若者たち、このまま戦場に行けるわけがない。この後でも、沖縄やアメリカの別の場所で、海兵隊としての訓練が続く。

<ただ、そうは言っても軍隊の訓練は若者を凛々しくする> 最初はばらばらで小さかった掛け声が、訓練と共に大きくなった。整列した彼らにかける教官の言葉は、常に大きな声を出せだ。全編をBGMのように、「イエッサー」と言う揃った大きな力強い声が支配する。終盤になるほどそれが敏捷になってきた。何も考えず、上官の命令には即座に返すその声で自らを鼓舞し、仲間と一体化する様。訓練の主体は、絶対服従の徹底と円滑な集団行動を身につけることに見える。そうして彼らは戦争の入り口に立つ。後に控える本格的な訓練、兵士になるとはどんなことなのだろう?

<インタビューに答える新兵達の真摯さ>誰もが、入隊は自分の可能性を試したかったからと言い、ここの訓練で自分を成長させて、未来の職業選択肢を広げ、大学にも行きたいと答えるのだ。でもその前に、彼らには4年間の兵役が待っている。アメリカが中東紛争に絡んでいる今、過酷な戦地へ送られる可能性が高い。命の保障はないのだ。なのにそれを尋ねられても、任務を遂行するだけと穏やかに答える彼ら。事態が解かっているのかと心配したいような顔もあれば、答えられない面倒なことを上手に避けて返す知性派もいた。家族が自分を誇りにしていると答える彼らが、自分や家族の不安を口にすることはない。

<戦場と平和な町の倫理観は>180度違う。兵士の最高の美学は、題名の通り「ONE SHOT ONE KILL」だ。でも人は人を殺せるようには出来ていない。人を傷つけてはいけないと言う倫理の枷を、戦場で迅速にはずせるようになるのが、兵士になるということだろうか。訓練で精悍になった彼らの顔が、実際の戦闘でどのように変わるのか、見るのも想像するのも怖い。

<丁度今、マット・デイモン主演の>「グリーン・ゾーン」がヒット中だ。こちらはイラクで大量破壊兵器の捜索に当る陸軍の上級准尉を主役に、アメリカとイラクの陰謀を描いたもの。銃弾の中で真相を探る兵士と、兵士を操る軍と政府上層部の物語になっている。米軍も1枚板ではない。命を危険にさらし正義感に燃える現場と、部下の危険など顧みず安全な場所でもっと大きな野望に蠢く上層部。ドキュメンタリー出身のポール・グリーングラス監督は、ノンフィクション作品もあるジャーナリストだけに、映画にも真実を求める。イラク攻撃の大義名分だった、大量破壊兵器の保持に関する情報は、現実でも、虚偽だとか上層部に近い色々な所の関与が噂された。CIAすら偽情報に踊らされ、一流ジャーナリストまでが偽情報を掴まされていやおうなく陰謀に一役買うなど、滅茶苦茶。でもこんなことがあったのかもと想像させる。

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(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

<「ハート・ロッカー」で手持ちカメラの>ブレを利用し臨場感を出した、バリー・アクロイドを撮影監督に向かえ、有名俳優がいなければドキュメンタリーと間違うような、迫真の展開。米国でもヒットしたこんな映画を見ながら、それでも兵士に志願する若者たち。彼らを駆り立てるものは何なのだろう。対照的な2本から、アメリカとアメリカ軍の現実が浮かび上がります。(犬塚芳美)

    「ONE SHOT ONE KILL-兵士になるということー」は
        5月29日(土)から第七藝術劇場(06-6302-2073)で上映
      * 29日、30日、監督とプロデューサーの舞台挨拶があります。詳細は劇場まで。

        「グリーン・ゾーン」は全国で上映中


《アメリカ軍に絡んだ豆知識》
・アメリカの人口は約3億1500万人。アメリカ軍の兵士は2009年末で約150万人。このほかに州兵46万人、予備役が120万人いる。
元兵士の数は2000年の国勢調査で約2650万人。18歳以上の成人人口の約13パーセントに当る。このうちベトナム戦争時代の兵士は840万人。
・アメリカで1年間にホームレスを経験する人は約350万人。(2007年推計)元兵士の比率は推計25~40パーセント。退役軍人省の推計では3人に1人となっている。
2001年~2009年10月までに、イラクやアフガニスタンに派遣された兵士は200万人以上。複数回派遣された兵士は約79万人。戦死者が5347人で、負傷者は36571人に上る。2002年~2007年の退役軍人病院を受診した人の3分の1が精神疾患。5人に1人がPTSD。イラク・アフガン帰還兵のホームレスは、3700人以上だ。

< 凄まじい数字が並ぶが>、同じ藤本幸久監督に、そこの辺りを掘り下げた「アメリカー戦争する国の人びと―」という8時間14分に渡る超大作がある。戦争に参加させられた人びとや家族にとって、一生戦争は終わらない。「ONE SHOT ONE KILL-兵士になるということー」が戦争と軍隊への入り口を描いているとしたら、「アメリカー戦争する国の人びと―」はその出口を描いている。「行きはよいよい帰りは怖い」と言う歌がある。生き延びれたとしても彼らには戦争の傷跡と過酷な社会が待っているのだ。
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| | 2012年06月03日(Sun)19:49 [EDIT]


 

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