太秦からの映画便り

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映写室「百合子 ダスヴィダーニヤ」浜野佐知監督インタビュー(前編)

映写室「百合子 ダスヴィダーニヤ」浜野佐知監督インタビュー(前編)  
―社会に流されず、自分を貫いて生きた女性―

<「百合子 ダスヴィダーニヤ」とはこんな物語> 
ロシア語を勉強しながら雑誌の編集者をしていた湯浅芳子は、スカートをはいた侍と揶揄された女性だ。1924年、先輩作家・野上弥生子の家で、中條(後の宮本)百合子と出会い、お互いに激しく惹かれあう。百合子は17歳で「貧しき人々の群れ」を書き天才少女と騒がれた作家で、19歳の時遊学中のニューヨークで結婚した荒木との結婚に行き詰っていた。芳子に心を動かす妻に、荒木は動揺し詰め寄る。夫と芳子の間で揺れる百合子。この後芳子と百合子は、百合子が宮本顕治の元に去るまで、7年間の共同生活を送るが、この作品はその恋の始まった頃の物語だ。

前作に続いて、大正時代を舞台にし、歴史に埋もれそうな女性に再びスポットライトを当てた浜野佐知監督、この作品にこめた思いの深さを伺いました。


―この作品は監督の10年越しの企画と伺いますが?
浜野佐知監督(以下敬称略):10年以上で15年越しのものです。
―尾崎翠に続いて、今回も大正の話ですね。監督はこの時代がお好きなのですか?
浜野:別にこの時代が好きなわけではなく、この時代に自分らしく生きた女性が好きなのです。この作品には原作があって、沢部ひとみさんが、湯浅さんが93歳で亡くなる前の3年間、密着取材して書き上げたノンフィクションなんですが、それを読んで、湯浅芳子さんを知りました。芳子の潔い生き方に感動し、彼女を主人公にして映画を作りたいとずっと思っていて、やっと実現できたわけです。偶然なのですが、前作の尾崎翠もこの作品の主人公・湯浅芳子も、明治29年生まれ。戦争に向かっていくあの時代の中で、素晴らしい仕事をして、世間に迎合せず、自分を貫いて生きた女性です。でも、尾崎翠にしても湯浅芳子にしても、宮本百合子ですら、今や若い人はほとんど知りません。一生懸命生きたのに、歴史の中に埋もれてしまいました。かって日本にこれだけの強い意志を持って、社会と戦いながら生きた女性がいたことを、皆に知らせ、現代に蘇らせるのが自分の仕事なのではと思うのです。

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―二人の関係は7年間続くわけですが、この作品はその中でも最初の頃だけですね。そこに絞られたのはどうしてですか?
浜野:それにお答えする前に、私が何故この作品を撮ろうと思ったかというと、芳子の生き方に惹かれたからなんです。大正という時代に、「自分は男を愛するように女を愛するたちの女だ」と公言して生きた。その言葉にも芳子の苦悩があると思うんです。今なら、「私はレズビアンだ」と言えば済むけれど、当時はそういう言葉すらないわけで、自分は女としては半端ものだという、悩みや苦しみもあるわけですが、それでもそれを引き受けて、市民権を得たいまでも隠す人が多いのに、荒木のセリフにもあるように、病気や変態と言われながら、それを引き受けて、自分らしく生きた。「自分は愛することは知っているけれど、愛されることは期待しない人間だ」というセリフもあるんですが、孤独を引き受けても、自分は自分、自由でありたいという湯浅さんの潔さみたいなものに、惹かれたんです。この人の生き方を、今の女性に見てもらいたいと思ったのは、孤独じゃないと人は自由になれないという真実、自由と孤独はイコールなんだという潔さを解かって欲しいから。今の人たちって、自分の周りの色々なものに引きづられている。結婚しないと寂しいとか、子供がいないと老後が不安だとか、お金がないとどうとかに振り回されて、本当に生きるべき道を見失っている気がするんです。そういう中で、まったくぶれる事なく、「自分はこういう人間なんだ。こういう風にしか生きられないと」と言い切った潔さをぜひ見てもらいたいのです。

―ええ。
浜野:一方百合子も、どう見ても嫌な女のわけですよ。17歳で文壇デビューし、天才と騒がれている。プチブル的な何不自由のない家庭に育ち、あの時代にコロンビア大学に留学までしてわけです。そこで出会った荒木と結婚するんですが、我が儘一方のお嬢様で育った百合子は、自分の作家としての才能を信じ、自分が高みに上り詰める為の道を潰す者は、誰だって許さない。荒木なんて、今の日本の男子から見てもまともなんです。それでも、家庭の中で百合子は自分は自由でないと思うわけで、そんな夫も蹴散らしていく。で、今度はそんな頃に出会った芳子と、お互いに対等な立場で愛し合って高めあう。今度はロシア語をものにしたいという目的のある芳子と一緒に、ロシア留学するわけですが、自分の方は新しい国が出来るのを見、マルクス・レーニン主義に出会い、そうして帰ってきて、今度は芳子を捨てて、宮本顕治の元へ行くわけです。これはこれで又凄い生き方だと思うんですよ。人を蹴散らし、ここまで自分を貫くという強さも、今の女性たちは忘れていると。

―ええ。
浜野:私は若い女性と話す機会が多く、彼女たちは還暦を過ぎても女性監督として仕事をしている私を凄いと思ってくれるんです。私も監督のように一生仕事を持って生きたいけれど、女が仕事と家庭を両立させるにはどうすればいいんですかと、必ず聞かれる。今の女性の行き着く最初のことは家庭と仕事の両立なんです。それを成し遂げることが自分が仕事をし続けることだと思っている。私はそれは違うよというんです。何も家庭と両立しなくてもいいんだよと。貴女は自分の本当にやりたいことをやっていけばいいんで、家庭なんて考えなくていいんだよと言うと、きょとんとした顔をする。女子にはそういう質問をされるけれど、男子はそういうことを聞かないでしょう。男子にとってはそんな事は悩みでもなんでもない。両立なんて考えず、仕事だけしていればいい。何故女だけが、家庭と仕事の両立を悩まなければいけないのか、それ自体を考えて欲しいのです。結婚も出来る、仕事もできるという両立が、一歩進んだと思っている。でも結果的にはどちらも中途半端になっているんです。私たちの時代と違い、ずいぶん恵まれたせいで、戦うべきものを見失っている。この二人のいき方を見てもらって、百合子に感情移入するか、芳子に感情移入するかで、今その人が抱えている問題や悩みがあぶりだされる気がするのですが。(聞き手:犬塚芳美)     <続きは明日>

この作品は、第七芸術劇場06-6302-2073)にて上映中
10月29日(土)~11月4日(金)  12:25~ 、18:40~
11月5日(土)~11月11日(金)  10:10~、 15:45~
 
 10月30日(日)は全回、浜野監督舞台挨拶予定
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