太秦からの映画便り

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映写室「鬼に訊け 宮大工西岡常一の遺言」山崎佑次監督インタビュー(後編)

映写室「鬼に訊け 宮大工西岡常一の遺言」山崎佑次監督インタビュー(後編)   
 ―木は鉄を凌駕する―

<昨日の続き>
―重要文化財に関わるような、これほどの仕事をしながら、なんていうか…。非情ですね。ところで、薬師寺の西塔を再建するに当っては、東塔を調査されたんですよね? 見ただけで内部の骨組みまで解かるもんなんでしょうか?
山崎:いや、建物を外から見るだけで、解体できないから大変です。しかも長年のこと、修復が繰り返されている。それを一つ一つ、残っている資料や木を見て、何時何処でどんな修復をしているか等を推測して、びっしりノートに付けていくんです。そのノートが凄くて、西岡建築論の真髄だと言われています。塔は柱が上まで繋がっていない。各階で独立しているんです。そういう構造だから、地震が来てもゆらゆら動き、揺れを吸収して倒れないと言うのが西岡さんの理論です。芯柱だけは貫いているけど、30m以上あるわけで、なかなかそんな高さの木はないし第一運べない。貫いているといっても、一本ではなく、複雑な木組みで何本かを繋いでいるんです。しかも木組みだけで釘は使ってない。固定と言う意味だけでなく、大きな建造物だと釘は逆効果になる。釘は腐りますからね。そこを替えないといけなくなる。木は千年持っても、釘は百年ですから。

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©『鬼に訊け』製作委員会

―そういうのは、体で覚えないと理解できないんじゃあないでしょうか? それのない学者さんが、鉄骨で補強したがるのも、解からなくはありません。薬師寺でいうと、西岡さんは調査に2年を費やしました。そういう贅沢な時間の使い方をこれからも出来るのだろうかと、考えてしまいます。
山崎:出来ないでしょうね。西岡さんだからこそ出来たし、許されたことでもあった。西岡さんが「うん」と言うまで、作業にかかれませんからね。今回は、木で建てた金堂の中に、コンクリートの建物を作って、その中に国宝の仏像を入れました。国宝どころか、あそこの仏像は世界的な文化遺産だけに、火災から守らないといけない。建屋が焼けても、このコンクリートの中は焼けないという考え方ですよ。もちろん西岡さんは大反対でした。この建物は1500年持つのに、コンクリートは100年しか持たない。100年経ったら解体して、コンクリートを打ち直さないといけない。そんな馬鹿なことがあるかと言うんです。もっともです。ここまで大きな柱だと、外側は燃えても、中まで燃える事はないんですよ。それに、建てる時も、真ん中のコンクリートをよけてでは、木に無理もさせますからね。西岡さんの理論には大きく反します。これは文化庁から出た考え方で、大切なのはあくまで中の仏像。建物はそれを保護する入れ物でしかないわけです。建てる方にしたら、やってられない意見ですが、考え方としては一理あるかもしれません。

―う~ん。屈辱的ですね。ここまでのものだと、外の建物自体も大切な文化遺産だと思いますが。それに、西岡さんのいない100年後に、この複雑な木組みを解体して、元のように戻せる技術があるでしょうか?
山崎: 1000年経ったら建物も重要文化財ですよ。そうなるように作ってある。ただし、100年、200年という自分のいない将来の為に、西岡さんは完璧な模型を作っています。その模型を解体していけば、継ぎ手のやり方とかは解かるというわけです。模型は近鉄がお金を出して作ったもので、近鉄の何処かの博物館が保存していて、近鉄の物ではあるんだけれど、薬師寺の物でもあって、いざと言うときには、それを解体して、大工さんが勉強できるようにはなっているんです。
―取れる対策は取っているわけですね。見事というか…凄いです。撮影はどれ位の期間でしたか?
山崎:3年半です。企画書を持って言った後、西岡さんが体調を壊されて、6ヵ月ほど待たされましたから。90年から94年まで撮影しました。一番の思い出は、西岡さんの男っぷりですね。あの人の理詰めの仕事の仕方が素晴らしい。図面は学者が作るんだけど、その設計図面を、実際に建てる大工として西岡さんがチェックする。古代建築を研究している学者グループの基本設計図に対して、西岡さんが実施設計図を書いていくんです。薬師寺は東塔が残っていますので、それを研究するんですが、もう1000年以上経っているんで、屋根とか弛んで幾らか形が変わっている。西岡さんはそういう事も調べるんです。それで、これは本来の形じゃあないなあと、1000年の歪みを正していく。修理の時のほんの僅かな狂いも見逃しません。使った木を見て、これは少し短かかった様だとか、実に細かいんです。そういうのが長年の間の狂いにつながりますからね。あの時の西岡さんはまだ体力があり、体力を補う経験もあった。徹底的にやりました。やっぱりあの人は頭が良い。おじいさんから教えられたことを一字一句漏らさず覚えていますからね。勉強したこともぜんぶ頭に入っている。数字に対する記憶力は物凄いです。それだけ真剣に宮大工の仕事をされてきたと言うことでしょうが。

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©『鬼に訊け』製作委員会

―そういうお仕事振りに密着して撮影されたと?
山崎:晩年はかなり密着しましたね。大変だったけれど、僕は西岡さんに惚れていたんで苦にならない。西岡さんも遺言状を書くようなような覚悟で、僕に撮らせてくれました。僕は50近くだったので出来たけれど、もっと若かったら怖くて無理だったでしょうね。西岡さんも82歳でしたから、丸みが出て来た頃だった。若い頃は物凄く怖かったようです。入門したいと大工が来ても、道具を見て「お前こんなんで仕事をしとったんか」と言うたまま、物凄い目で睨んで、相手は縮み上がったらしいですよ。

―映画の中では、お爺ちゃんが孫に話すような感じですが。このお年になると、鬼と言ってもお弟子さんに対する言葉も優しいですね。自分が身につけた時は、苦労して先輩の技術を盗むようにしただろうに、惜しげもなくご自分の知識を与える様に頭が下がります。まるで孫に教えるような風情でした。西岡さんの知識や技術は、もはや個人のものではなく、日本の文化遺産ですものね。伝えられるものは伝えておきたかったのでしょう。
山崎:道具を使わなくなってから優しくなったと聞きます。65歳位で西岡さんが道具を使えなくなるんです。老眼になって、眼鏡をかけると色々な不都合が出始めた。で道具を使うのを止めたらしいけれど、その頃から優しくなったらしいですね。
―伝承者になったんでしょうねえ。
山崎:そうそう。それまでは自分が先頭に立って行くと言うやり方だから、そりゃあ怖かったらしい。道具を置き、孫も出来、がらっと替わったらしいです。昔を知らない若いお弟子さんは、そんな話を先輩から聞かされるらしい。副棟梁の上原さんは、凄く優しい人で、ずっと西岡さんと一緒なので色々西岡さんの技術や思いを受け継いでいる。西岡さんの言わない事も替わって言い、若い人に教えているようです。西岡さんをさりげなくサポートするわけで、上原さんも西岡さんに惚れ込んでますよ。

―薬師寺の前館長も西岡さんに惚れ込んでいる感じでしたね?
山崎:うん、そうだね。あの人が工事の時の責任者だったんです。西岡さんと色々やりあい、一緒に乗り切ってますからね。あの人も昔は怖かったよ。きっと睨んでね。怖い人、鬼がいないと大事業は出来ません。
―その頃は監督も怖かったんじゃあないですか?
山崎:う~ん、らしいねえ。
―その頃に撮られたものが今こうして劇場公開になったと?
山崎:撮影はそうだけれど、編集はずいぶんやり直しています。最初の技術の伝承の為のビデオから、今度は人物を追及していくという方向に変えましたし。20年前は、西岡さんの建築論を完璧な形で残すことに意義を感じたんですが、あれがあるから、今度は自分が惚れ込んだ西岡さんの人となりを伝えたいと思いました。前作は専門家向けに作りましたが、今度は色々な人に見ていただきたいというわけです。僕の人生で西岡さんに出会ったことは大きいですよ。あれがなかったら、生意気なおっさんのままだったでしょう。

―でも人生も狂いましたね。
山崎:ははは…、西岡さんに入れ込み過ぎてね。でも金銭的には、資金援助してくれるゼネコンもあって、恵まれていたんです。ゼネコンが4社で2千万用意してくれ、岩波も出してくれ、自己資金とで何とかなりました。
―ゼネコンも良い所があるんですね。
山崎:ええ、ゼネコンにも西岡さんの技術を残さなくてはという思いがありました。竹中工務店にしても清水建設にしても、大きくなっているけれど、元は宮大工の棟梁ですから。社寺建設は儲からないから、自分たちはコンクリートの建物で儲けているけれど、宮大工の技術を残さなくてはいけないと思っているんでしょう。自分たちのところで社寺建設をやろうにも、そういう技術を持っている人が社内にはいない。日本の伝統的な宮大工の技術の大切さをよく解かっているんですよ。西岡さんの凄さをよく解かっているわけです。それに、当時はまだのんびりしていて、景気が良いところは、文化事業にお金を出す風潮があったんです。完成したビデオを届けてくれれば良いと鷹揚でしたね。ビデオを社員教育に使うと言っていました。
―模型にお金を出した近鉄といい、他の所で儲けて文化的なことにお金を出して下さるのは有り難いです。東京でもヒット中ですが、西岡さんの地元関西でもヒット間違いなし。最初からロングランの予定ですね。こう好評では次の構想も沸いてくるのでは?
山崎:最近の僕は著述業が中心です。もうこれで映画作りはいいと思ったけれど、やりたいものが出てきました。今ひそかに戦略を練っているところです。まだ先ですが、実現できたら面白いものになるはず。それにも期待して下さい。(聞き手:犬塚芳美)

<作品の感想とインタビュー後記:犬塚>
 山崎監督が惚れ込んだという西岡さんの凄さは、ぜひ劇場で御覧下さい。思った事にまっしぐらの、山崎監督も素敵ですよ。男気一杯で、酒と女が大好きな(?)典型的映画人です。最近は著述業がお忙しそう。「宮大工西岡常一の遺言」、「李朝白磁のふるさとを歩く」、「還暦過ぎて始めた骨董露天商という生き方」の著書があります。骨董にも造詣が深く、それは又次の機会に!

この作品は、第七藝術劇場にて4月14日(土)~5月18日(金)上映
時間等は、劇場まで(06-6302-2073)
その後、 6月16日からシネ・リーブル神戸、
順次京都シネマ にて公開


監督:山崎佑次
ナレーター:石橋蓮司

出演:西岡常一・西岡太郎・石井浩司・速水浩・安田暎胤(薬師寺長老)
企画:小林三四郎/プロデューサー:植草信和・朴 炳陽
聞き手:青山茂(帝塚山短大名誉教授)・中山章(建築家)・山崎佑次
音楽:佐原一哉/撮影:多田修平/編集:今岡裕之/録音:平口聡/タイトル:上浦智宏
製作:?『鬼に訊け』製作委員会/助成   文化芸術振興費補助金
後援:奈良テレビ放送株式会社 奈良新聞社/協力:彰国社

【2011/日本/HD/カラー/88分】

配給:太秦
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コメント


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見に行きます!

西岡常一さんは、中学校の教科書にも出てきます。
とても尊敬しています。映画、見に行かねばと思っています。
文中の、上原さん、もしかして昔、仲人をした生徒のお父さんかしら?宮大工をされていました…。

大好きな家具屋さんが、「樹齢百年の木で作った家具は百年は使って下さいね。」と言われていました。
解説を読みながら、そんなことも思いだしました。

昨日、すごく久しぶりに映画に行けました。
『アーティスト』素敵な映画でした。

大空の亀 | URL | 2012年04月16日(Mon)08:16 [EDIT]


Re: 見に行きます!

お返事が遅くなってごめんなさい。PTSDが続いていて…。
もし上原さんがその上原さんならスゴイですね。今度聞いて見てくださいね。
私は西岡さんを知らなかったんだけど、私の周りは皆知っていて、赤面の至りです。
「アーティスト」私も見ました。ちょっとスカしている気もするけど、良かった!

> 文中の、上原さん、もしかして昔、仲人をした生徒のお父さんかしら?宮大工をされていました…。
>
> 大好きな家具屋さんが、「樹齢百年の木で作った家具は百年は使って下さいね。」と言われていました。
> 解説を読みながら、そんなことも思いだしました。
>
> 昨日、すごく久しぶりに映画に行けました。
> 『アーティスト』素敵な映画でした。

映画のツボ | URL | 2012年05月13日(Sun)21:39 [EDIT]


 

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