太秦からの映画便り

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フランスから届いた大人のメルヘン

映写室 NO.144地上5センチの恋心
    ―フランスから届いた大人のメルヘン―

 平凡な日々の中でも些細な幸せを見つけて楽しく暮らす人もいれば、成功して全てを手に入れながら満たされない何かに焦燥感を募らせる人もいる。これは前者そのものの主婦と、後者に重なる流行作家がひょんな事から運命を絡ませる物語だ。主人公は現実を忘れ地上5センチで夢見ても、時々地表に着地する堅実さを忘れない。5センチ飛び上がって見えた世界と現実の違いを、自分に言い聞かせる賢さを持っているのだ。どちらもが大切で、だからこそ掴む幸せ。フランスならではの上質でカラフルな色彩の中に、大人のメルヘンが展開する。観終える頃には幸福感と共に夢見る力を伝授されています。

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© BEL OMBRE FILMS – ANTIGONE CINEMA – PATHE RENN PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION LES FILMS DE L’ETANG – RTBF (Télévision belge)

 <苦しい事にぶつかった時>、現実を見据えて苦境に立ち向う人もいれば、現実を忘れて夢に逃避する人もいる。たいていはそのどちらかだけれど、この主人公はその両方だ。
夫を亡くして2人の子供と暮らすオデット(カトリーヌ・フロ)は、昼はデパートで働き、夜は踊り子の羽飾りを作る内職をして陽気に暮らしている。一番幸せなのが、一日の終わりにロマンティックなバルタザール(アルベール・ヂュポンテル)の小説を読む事だ。彼のサイン会に飛びっきりのお洒落をして行くが、緊張で自分の名前も言えない。次のサイン会では思いを手紙に託した。一方テレビで酷評されて落ち込むバルタザールは、妻にも裏切られ自殺未遂。そんな時にオデットの手紙を読んで癒される。こうして、まるで違う世界に住む二人の人生が交差した。

 <これは哲学の教授を経て>、今やフランスを代表する劇作家で小説家になった、エリック=エマニュエル・シュミットが始めて監督した作品だ。オリジナル脚本も彼で、一人ぼっちの失意の時、オデットのようなファンからの自分の作品への賛美と感謝の手紙に慰められたのが、この物語の始まりになったと言う。
 作家はスランプになると、たいていファンレターを繰り返し読むと聞く。自分の作品の欠点なんて、他人に言われなくても解っている。弱った心を奮い立たせるのは、真実を突いた評論家の辛辣な言葉以上に自分を肯定し必要とする人の言葉だ。エリックは作家のそんな心情を告白しながら、一通の手紙と一度の出会いからイメージを広げて、作家の力となるファンに感謝を込めて究極の癒しのヒロインを誕生させた。
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 <考えてみるとオデットの日常は自分による自分の肯定だ> コスメ売り場でハタキを振り回して踊りながら仕事をするオデットは、メイクも服装も髪型も自分の好きな世界そのまま。でも青痣を作った客には的確なメイクのアドバイスをし、さりげなく自分の人生を大切にする事も忠告する。コスメで夢を売りながら、現実に対応する事も忘れない。
 <それは暮らしでも一緒で>、問題の多い娘や息子との日常をちゃんと支え、しかも好きな写真や人形を飾り自分を気持ち良くする事を心がける。お金の為とは言え、仕事にしても内職にしても綺麗で夢のある物から離れない。現実の中で楽しい事があるよう自分をプロデュースする術なのだろう。そんな主人公の素敵さを、カトリーヌ・フロが浮遊感と現実味の両方を見せて演じるのが見事だった。浮世離れした様や優しい雰囲気は癒しでも、これを全くの御伽噺にせず生活感が地上5センチに留めている。意外にもオデットが匂わせる主婦っぽさに安らぎ、主婦って誰かの為に陰で努力する人なのだと気付かされた。

 <この作品の物語に合わせる映像の浮遊感が>観客までを浮遊に誘う。CGを酷使した踊るコスメたちや空に舞い上がる主人公等心理描写を託した映像は、視点を変えて想像力を働かせれば日常すらこんなに輝いて見えるというお手本で、オデットがジョセフィン・ベイカーのナンバーを歌うシーンは、映画がセミ・ミュージカル調になる。作品全体がまるで監督の夢工房だ。
 <憧れの作家役のアルベール・ヂュポンテル>のハンサムなのにとぼけた味わいも素敵だった。自信喪失で子供のようになった作家を、黒目がちな瞳を潤ませてちょっと滑稽に演じるのは、この物語の深刻になり過ぎないトーンなのだろう。終盤近くハラハラさせられたけれど、オデットのせいで彼もまた夢見る力と夢を現実に着地させる力を持ったのだ。観客だってそれが欲しい。
 <このところのニュースは>、苦境に真正面から立ち向った挙句現実に押しつぶされて命を絶ったり、正視を避けて現実から足を踏み外し結局命を失ってしまうものばかりだ。困難に出会ったら、オデットのように自分を大切にして、片方をだけを取らず自分を元気付けるものを周りに集めて、現実に向える元気が戻ってくるまで時を待てばいい。着地点は夢見る事で覗いた世界と現実の狭間がベストだ。ラブ・コメディの中に見える人生の深淵、エリックからの贈り物はメルヘンタッチで優しいのにメッセージが深い。

  4月5日(土)より、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸で上映
  7月26日(土)より京都シネマで上映予定


ディープな情報
1.脚本と監督のエリックは、日本でも公開された「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」の原作者と言えば解る方が多いでしょう。元々舞台劇のこれで大評判をとりシュヴァリエの称号を受けていますし、書籍版でも色々な賞を受賞しました。
2.ジョセフィン・ベイカーは1906年セントルイス生まれの黒人。22年に人種差別が嫌で渡仏し、表現力豊かなチャールストンと躍動的な裸体が、“黒いヴィーナス”と賞賛されて多くのアーティストを虜にします。晩年には「虹の部族」と言う理想郷を作って12人の肌の色や宗教の異なる養子と共に南フランスで暮らしました。
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| | 2012年06月30日(Sat)06:44 [EDIT]


 

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