太秦からの映画便り

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映写室「死刑弁護人」斉藤潤一監督インタビュー(後編)

映写室「死刑弁護人」斉藤潤一監督インタビュー(後編)   
―悪魔の弁護人と呼ばれても、なお―

<昨日の続き>
―題材的にもこれは深夜枠がよかったかも。最初はテレビ作品ですが、とても映画的でした。
斉藤:実はこれは最初から映画にしようと思って作っています。編集の仕方も、テレビ的じゃあない。映画的なんです。音の入れ方もだし、手紙の文面もナレーションを入れず、目で画面を追ってもらっています。テレビ番組なら普通はここでナレーションが入るんですが。今まで自分が作った中では一番映画的な作りになっています。

―ええ、なるほど。
斉藤:そういう風に作りながら、テレビの人間なので、こうして劇場公開しお金を払って見て下さってる人を見ると、なんだか申し訳ない。いつもは只で見てもらっているのになあと思ってしまうんです。でも、映画は良いですね。画面の大きさが圧倒的に違いますし、テレビと違って、後ろの方で観客の皆さんと一緒に、皆さんの反応を見ながら見ることが出来ます。眠られないかなあとか怖いけれど、目の前で反応が見れるのは嬉しいです。それに、こういう番組をうちのキー局から全国ネットで流してもらえることは、まずありません。スポンサーがつきませんからね。そういう意味でも劇場公開は、うちの放送エリア以外の方に見ていただけて、嬉しいです。

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©東海テレビ放送

―こういう作品を被害者の方が見ることは?
斉藤:東京では地下鉄サリン事件の被害者の会の方が見てくださいました。良かったといってくださいました。その人は「どうしてこんな事件が起こったのだろう。それを知りたい」と言ってましたが、そういう点で見ると、安田さんは犯人側の弁護士ではあるけれど、真実を究明すると言う意味では、被害者の方と同じベクトルを向いているかもしれませんね。
―そうですね。そういう意味からも、安田弁護士は麻原さんに対して複雑な思いを持ってらっしゃるということですね。一つのきっかけで、事件の究明がうやむやになりましたから。
斉藤:そうですね。あの時反対尋問をしないで、強引に裁判を止めた方が良かったかもという思いはお持ちなのではないでしょうか。裁判所がやれと言うから仕方なく反対尋問をして、それ以降麻原がああなったわけですからね。あれがなかったら、もしかしたら麻原の精神状態が狂わず、法廷で麻原の証言が聞けたかもわかりません。それだとまるで違う展開ですからね。

―安田さんは、弁護士の自分が麻原の意向に反したことで、麻原が自分に対して心を閉ざしたと思っているのか、それとも緊張の頂点だったあそこで孤立し、麻原が壊れてしまったと思っているのでしょうか?
斉藤:たぶん後者でしょうねえ。自分の言い分を聞いてくれない警察や裁判に対する不信だと思います。まあ、本当のところは本人に聞いてみないとわかりませんが。

―麻原が精神錯乱を装っているという見方もありますが?
斉藤:それはないでしょうねえ。さすがにそこまでは描いていませんが、麻原の今の意識レベルは相当低下していると言う具体的な証言がいくつもあります。たとえば娘が会いに行っても、おしっこを垂れ流しでやってくるそうですから。

―そういう複雑な思いを持ち、重い事件の弁護をしながら、安田さんはいつも楽しそうにされていますが?
斉藤:そうですね。弁護士の仕事はすぐにでも止めたいと口癖のように言いますが、この仕事が好きなんだなあと、見ていて思います。
―1ヶ月に1度しか自宅にも帰れず、あの雑然とした事務所に泊まり込んで、仕事漬けですよね。
斉藤:そうですね。仕事しかしていません。土日もたいてい弁護団体の活動で全国を飛び回っていますから。

―でも暮らし方に余裕も感じます。服装もアイビールックの名残でお洒落ですし。
斉藤:お洒落ですよね。コットンパンツと紺ブレで、法廷にもあの格好で行きます。弁護士バッジもつけませんしね。法廷の弁護士はたいていダークスーツなんですが。

―こだわりがおありなんでしょうね。どうしてここまで刑事事件にのめり込まれたのでしょう?
斉藤:やっぱり優しさだと思います。こういう事件を起こす犯人と言うのは、社会的な弱者で、恵まれない環境で育っています。社会からも家庭からも見放された挙句と言う人が多い。弱者と言う環境がああいう事件を起こす下地にあるんです。そういう弱者を救ってあげたいと言う思いが、おありなのだと思います。きっちりと、なぜ事件が起こったのかを聞き取って、2度と犯罪が起こらないようにしたいと言う思いでしょう。そういう意志を聞くと、とてもピュアで気持ちの優しい人なんだなあと思います。

―何かの大きなきっかけで、刑事事件にかかわっていきだしたと言うのではないのでしょうか?
斉藤:どうでしょうか、今回では解かりません。元々学生運動をやっていたので、反体制派ですから。法廷でも検事側になることはないと言ってますからそういう思想的なものもあるかもしれません。全国の弁護士にとってもカリスマでしょうね。敵も多いとは思いますが、弁護士なら安田好弘と言う名前を知らない人はいないでしょう。
―相手側に安田さんがいると嫌とか?
斉藤:う~ん、基本的に負け続けていますからね。負け続けているのにそれでも続けると言うのが尊いですよ。死刑になった人も3人います。

―時にはそういう人の身柄を引き取り、お葬式もやるわけですね。死刑事件と言うと背負うものが重い。
斉藤:世間から「人殺しを弁度する人でなし」とバッシングを受けながら、人命が奪われたと言う大事件を通し、加害者と被害者双方の悔恨や悲嘆に苦悶するのですから。
―引き受ける時には突破口を見出しているんでしょうか?
斉藤:いや、見つけてないんじゃあないですか。たいていは最高裁判決の手前で依頼されるわけで、もし自分がここで断ったら、この人は死刑執行されるだけという断腸の思いじゃあないでしょうか。

―他の弁護士さんがお手上げ状態で?
斉藤:ええ。だから引き受けざるを得ないと。

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©東海テレビ放送

―精神だけでなく体もがっちりとされていて、見るからにタフ。そういう方でないと精神的にも勤まらない仕事ですね。ところで、斉藤監督がこれだけ司法問題に取り組まれるわけは? 面白いとか?
斉藤:いや、面白いわけではありません。暗い事件ばかりで、性格もどんどん暗くなってますから。それでもやっているのは、1つやると次の課題が見えて、止めるに止められなくなったというか。そんな数珠つながりで続けているんですかねえ。

―それで今度はドラマですか?東海テレビで、ドラマ「やくそく」を作られたばかりですよね。これは「名張毒ぶどう酒事件」の奥西勝死刑囚を描いたものとか?
斉藤:僕は最初に「重い扉~名張毒ぶどう酒事件」と言う作品を作り、1本作ると問題点が見え、切り口を変えてその後も2本作りと、合計3本、この事件のドキュメンタリーを作っています。4本目を作ろうと思った時、確定死刑囚の奥西さんに会うことが出来ないという現実に直面しました。僕の立場では、面会はおろか手紙のやり取りも出来ないのです。これでは彼を表すことが出来ない。(そうだドラマでやれば、本人の怒りや叫びを表すことが出来る)と気がつきました。

―そこまでこの事件に拘るのは何故ですか? 確定死刑囚の思いを伝えたいと思われたのですね?
斉藤:そうです。僕は長い間この事件を取材してきて、これはきわめて冤罪の可能性が高いと思っていますから。弁護団もそう思って、再審請求をしているのですが、なかなか認められない。そうこうするうちに、もう86歳です。今肺炎にかかっていて、いつ亡くなってもおかしくない状態です。

―冤罪と思う斉藤監督が作ったわけだから、裁判には反映されない色々なところを描いていると言うことですよね?
斉藤:そうです。ドラマは冤罪の可能性が高いと描いています。
―放映はいつですか?
斉藤:テレビの放映は6月30日に終わりました。次は劇場展開したいと思って、色々作業をしています。

―何とか生きているうちに再審が始まって欲しいですね。
斉藤:ええ。生きて出してあげたいと思います。僕らは接見できませんが、弁護士と親族、支援者のうち1人は出来るので、こういう作品が出来たのも伝わっているかもしれません。奥西さんは51年獄中にいます。大変なことです。僕は最初にかかわった司法事件で冤罪の可能性を感じてしまいました。司法は重いけれど、その判断が絶対に正しいとは限らない。でも重いことをやっているだけに、前言を翻すことも出来ない。間違えていたらごめんなさいと言えばいいのに、それが言えないんですね。そういう悪しき仕組みの中で苦しむ人を助けたいと思うのは安田弁護士にもあると思います。安田さんはどんな人も再生できると考える人で、死刑廃止運動もしています。死刑囚の中にも死刑廃止論者はいて、「罪を犯した者だからこそ償い、伝えるべきことがある。僕が最後の死刑囚であって欲しい」と、ともすれば反省していないと受け取られかねないリスクを犯して訴え続けました。1995年に執行された木村修治死刑囚です。

―安田さんは完成した本作を見て、何か言われましたか?
斉藤:だまされたと言われました。
―え?何を?
斉藤:元々1人に密着するのは嫌だと言われていたので、撮影に関して、数人に密着するので、その中の一人だよと言う言い方をしていたんです。安田さんの近くの弁護士から、そうしないと撮らせてもらえないよと、アドバイスを受けていたので、作戦でした。でも、だまされたと言っても嫌な感じで言われたわけではありません。

―ご家族の方は?
斉藤:奥様とお嬢さん二人ですが、家族の取材は止めて欲しいと最初から言われていました。きっと奥様も気丈な方なんだろうと思います。陰で支えているはずですよ。安田さんはいつもニコニコした方です。司法の問題を色々教えてもらいましたが、それ以上に一人の人間の生き方を教えられました。信念を通すのは大変なことですが、どんなにバッシングされても、逮捕されても、自分の信念を曲げずに続けている。一人の男の生き方みたいなもの、こういう人でありたいなあというのを見せてもらえました。

―見た私も、そういうもので満たされました。斉藤監督は、そういう風に世間の評判と違う内面を持つ人を主人公に撮ってきましたが、今興味をもたれるのは?
斉藤:取材すると対象者から色々刺激を受けます。それに背中を押されここまでやってきました。今度ニュース局に移動になりましたが、今後は後輩の拾ってきたニュースの中から次のネタを拾いたいと思います。僕はこのところ、安田さんや戸塚さんと、周りから悪人と言われる人を取材対象にしてきました。そういう意味で言うと、今は小沢一郎に興味があります。まあ、一般的には、悪人と言う捕らえ方をされていますから。密着は出来ませんし、本当に選挙のためというその通りかもしれないし、そうではない深いものがあるかもしれない。今一番気になる存在です。(聞き手:犬塚芳美)

<作品の感想とインタビュー後記:犬塚> 
斉藤監督や岩井カメラマンの目線の通りに、安田弁護士に魅せられました。それにしても、こういう作品に出会わなければ、私もテレビの前で「こんな人のことまで弁護して」と、嘯いていたかもしれません。世間の常識に流されない斉藤監督、そういう番組を作り続ける東海テレビ。ジャーナリストらしいこういう姿勢を貫いていただきたいと思います。ささやかな応援として、そういう映像を見続け、皆に良さを吹聴したい。生きる指針として、ぜひ安田弁護士を見てください。


この作品は、7月28日から第七芸術劇場、
順次神戸アートビレッジセンター、京都シネマ にて公開

*7月28日18:40~の上映後、斉藤潤一監督と安田好弘弁護士のトークショーがあります。
*又、7月28日~8月3日の16:20より、日替わりで「免罪映画特集~戦う弁護士たち~」と題して、同劇場で下記の2作品が上映されます。時間等は劇場まで(06-6302-2073)
  A 「証人の椅子」(1965年)
B 「帝銀事件 死刑囚」(1964年)

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