太秦からの映画便り

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映写室 「プンサンケ」チョン・ジェホン監督インタビュー(中編)

映写室 「プンサンケ」チョン・ジェホン監督インタビュー(中編)
―分断国家・南北の境界線上を自在に行き来する男―

<昨日の続き>
―主人公の内面を思わせる重要な場面で、印象的な声楽が流れます。後でパンフを読むと、監督の歌だと知りました。オペラ歌手として、ご自分の歌をどこかで流すのは、最初からの計画だったのでしょうか?

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©2011 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

チョン:最初はそういうつもりはなかったのです。もともとは別の曲でしたが、編集したのに、その曲を使うことが出来なくなりました。で、音楽監督と色々話をする中で、私がコンサートで歌ったシューマンの「睡蓮」がぴったり合うのではないかと、音楽監督の方から言い出しました。あの歌を使ったことで、二人が落ちる愛の情景を、最初に音楽で表すことができたかと思います。

―ドラマティックというか、彼の内面の豊かさを思わされ、今も心に残るシーンです。映画の作り方に関して、キム・キドク監督から学んだり影響を受けたことはありますか?
チョン:沢山学びました。一番印象に残っているのが、現場ではピエロになりなさいと言われたことです。しんどくても大変でも、いつも笑っていなさいと言われました。と言うのも、私が顔をしかめたり暗い表情をすると、全部のスタッフにその暗さが伝わってしまいますから。それに、座ってはいけないとも言われました。皆の前でサングラスをかけ、足を組んで座っていたら、それだけで別の世界の人間だぞ。現場にはいつも皆と一緒にいなくてはいけないと言うんです。後、監督としての生き様を学びました。監督は私より年上ですし、先輩です。私が悩んでいる時、唯一相談できる相手が、キム・キドク監督なのです。


―そういう風に、大切なことを学びながら、キム・キドク監督とはやっぱり作風が違いますよね?
チョン:色々な人にそう言われるのですが、その度に私は、どこがどう違いますかと聞くんです。自分では違いが解かりません。キム監督は師匠であり、父であるわけです。その監督から学んだものを違うと言ってしまうのは、あり得ないのではと思うんです。でも、キム・キドク監督が凄く得意とする分野があるように、私には私にしかできない分野があるとも思います。ですから、私が自分で出来る事を最大限にするのが、私らしい作品を作ると言うことだと思います。

―お若いのに、そういう精神力が凄いと思います。さっき劇所の方も、映画の完成度や成熟感から、もっと年上の監督を想像していたら、お若いので驚いたと言っていました。そういう精神力を作られた一番の要因は何だと思われますか?
チョン:精神力というのは愛です。映画そのものへの愛ですね。でも、映画が私の全てとは思いません。私が今したい事で出来る事が映画だと言うことです。映画は私が選択した職業、私のやりたい職業です。もし、人が入ってすごく儲かるとかそんなことがあれば、その時点で疲労してしまうでしょう。私は別の世界からここに入ってきたので、自分が本当にしたいのはこれだというのが解かるのだと思います。ただ、この職業を自分より年若い人たちに進めたいとは思いません。映画界の人間ですが、私はお酒を飲まないし、タバコも吸いません。人と濃厚に交わることもありません。自分がしたいことに集中する為に、他の多くの事を諦め、放棄して来ました。それに、これは他の作品もなのですが、作品が出来上がると、もっともっと上手くできるのではないかと、自分の至らないところへばかり目がいきます。周りの人たちは、これだけの条件で、どうしてこれほどのものが出来たのかと言うけれど、私はもっと出来たんじゃあないかと言う思いにとらわれます。イメージを固定されるのも嫌です。韓国で封切られた時には、こんな作品を作った監督なんだから、笑わないでくれと言われました。ちょっと辛いです。

―さっきから伺っていると、監督と主人公が重なります。撮ってらしていかがでしたか?
チョン:私も重なると思います。不思議なんですが、他の作品でも、僕の場合重なることがあるんです。意図したものではありません。でも、本当に(ああ、僕みたいだなあ)と思えるのが不思議です。僕自身は最初それが解からなかったのですが、友達がそう指摘してくれました。それを聞いて、もう一回自分の映画を見直し、その通りだとショックを受けたんです。
―主人公も何かへの愛で動いているじゃあないですか。そういうところが凄く近いなと。監督を動かしているのも、そういうもの、愛なんだなあと思いました。
チョン:私は愛が好きです。でも愛は苦しく難しい。悲しいです。

―脚本の縛りだと思うのですが、主人公は言葉を話せませんよね?
チョン:実は脚本にはあったんです。でも、それは私が表現したい事と違っていたので無くしました。キム・キドク監督が書かれているので、この主人公も「うつせみ」や「サマリア」の主人公に近いものがあったんです。神秘的な存在と言うか。でも、私が見たプンサンクは違っていました。先ほども言いましたが、私はオペラをやってきたのですが、オペラは元々神話からスタートしています。神話を見ると、神様が女性を愛し、神を捨てて人間になると言うストーリーがあります。愛の為に死を受け入れる。愛の為に永遠の若さを捨てる。私のプンサンクはそういう人物だなあと思いました。映画をご覧になればお解かり頂けますが、プンサンはイノクに出会い、だんだん笑顔も出て、人間になっていきます。死すらも恐れない愛の美しさ。
―でも、プンサンは、人間になってしまった為に、死に至ります。残酷ですね。
チョン:そうですね。例えば「蝶々夫人」を例に挙げさせてもらうなら、そういう熱情的な愛は、死に至らしめるということがあります。これもそういう話です。

―結局のところ、彼女が脱北の時にまで、突っ張っていたことから、全てが崩れたわけですね。プンサンケまで破滅に向かっていきます。最初見た時、いい加減にしてよといらいらしました。
チョン:多くの女性があの時の彼女の態度にいらいらするようです。あの女性はどうしてあの大変な場面で、文句ばっかり言うんだと言いますね。でも、僕にとっては、あのシーンはとても大切なのです。彼女にとってはとても幸せなシーンだったのではと思っています。北で隠れたように暮らし、つい誰かを頼っていたのに、休戦ラインを超えてから、自分のその抑えていた感情を表す訳です。おそらく、イノクにとっては初めての経験だったのではと思うんです。

―なるほど。まあいらいらはしましたが、後の彼女の美しさで、仕方がない、全て許そうと思えました。主役の二人をキャスティングした理由を教えて下さい。
チョン:男性のユン・ゲサンは元々僕が注目していた俳優です。脚本を読んで最初に頭に浮かんだのが彼でした。でも、周りの人たちからは反対されたんです。彼はもっと柔らかい映画や役が似合うと、皆が言う。私はそれはちょっとおかしいと思いました。それ以前の作品からだけで、その人の可能性を計ってはいけない。それは俳優だけでなく、僕のような監督についても一緒です。僕も「ビューティフル」を撮った後に、そういう芸術的な作品しか撮れないと言われましたが、1作だけで私を評価するのは早過ぎるのではないでしょうか。ユン・ゲサンと最初のミーティングをした時に、彼も私と同じ悩みを持っていると解かりました。僕はもっと強く激しい役をしたいのに、柔らかい役ばかりが来ると言うんです。それだけで彼と通じ合えました。この作品が公開された後、ユン・ゲサンの再発見と散々言われましたが、再発見ではなく、ユン・ゲサンの才能をお見せ出来たという事だと思います。キム・ギュリさんに関しては、好きな女優さんなので、前の作品でもキャスティングに入れていたんですが、スケジュール的に合わず実現できなかったのです。今回も、キャスティングした時、他の映画に出ている最中で、一度は難しいだろうと言われました。でも、イノクをキャスティングする段階で、他にぴったりの女優さんがいなかった。私がやりますと言ってくれる女優さんもいたけれど、どうもぴんとこない。この役に必要なのは、難しい感情の表現と、もう1つは体力です。それとノーギャラですね。撮影の2週間前になってもまだ女優さんが決まらず、リハーサルの時は代役の方が来てやってくれたほどなんです。でもかかっていた作品が終わったと聞き、もう一度お願いすると、快諾して下さいました。

―イノクのキャスティングに関して、一番大事にしたのは何ですか?
チョン:演技力です。この役は、新人の女優さんの、感性で切り抜けてる演技では無理です。演技力を十分に持った人で無いと出来ないと思いました。彼女は過去に僕を納得させる作品を作っていて、それに体力もあります。僕の考える条件を満たしていました。それと、彼女の凄い所は自分が女優だというのを良く知っているところなんです。プロという意味ですが。

―極寒での撮影だったと伺いますが、皆のモチベーションは?
チョン:最悪でした。特に鉄城門の辺りの撮影は、体を遮る物など何も無い、吹きさらしのところですから、寒くて大変でした。休みの無いスケジュールでしたし、スタッフと俳優さんが、まるで鳥のように背中を丸め身を丸くして、集まって寒さを凌いでいたのが印象に残っています。気温が昼間で零下10度という寒さですから、夜など相当の寒さなんです。僕が鉄板を素手で触ると瞬時に凍傷になりましたし、ユン・ゲサンが走っているシーンでは、汗が凍るんです。あまりの寒さに、20分ですが、車の中で一息ついてくれと言った事もあります。服も薄いものだったし、二人は本当に大変だったでしょう。撮影が終わると、キムさんの手が震えているのが解かりました。そんな状況の中でも、やりたいという熱い気持ちをスタッフや俳優さんに伝え、皆で頑張ったので、あんな苦しい状況の中でも文句を言う人は一人もいませんでした。(聞き手:犬塚芳美)
       <明日に続く>

この作品は、9月1日からシネマート心斎橋、
       順次京都シネマ、元町映画館 にて公開
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