太秦からの映画便り

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映写室「破損した脳、感じる心―高次脳機能障害のリハビリ家族学」

映写室「破損した脳、感じる心―高次脳機能障害のリハビリ家族学」    
―映画に助けられた日々― 

<毎週のお奨め映画と>、監督のインタビュー記事等をコンスタントに更新していたサイトを、突然休んだのは、もう2年以上も前のことだ。

<2010年5月31日>、月曜日だった。大阪で「SEX AND THE CTY」の試写を見て帰ると、もう11時近かったと記憶している。夫はまだ帰っていなかった。前夜も帰っていない。彼は太秦にある撮影所のスタッフだ。仕事も生活も不規則極まりない。作品に掛かり始めると、こんなことはよくある。とくに撮影前は、ああでもないこうでもないと、脚本から大きな夢を膨らませて、皆で話が盛り上がり、打ち合わせが深夜に及ぶ。
 <でも、まだクランクインの前>、ここで無理をしては後が持たない。いくらなんでも今夜は帰ってくるだろう。そう思って軽い夜食を用意して待っていた。
日付の変わりそうな時計を眺めて、一瞬、撮影所まで迎えに行こうかと思ったけれど、そんなことをしたら又笑われると自重し、お風呂を使って寛いだ。そして、待ちくたびれてソファーでうとうとし始めたところを、電話のベルで起こされたのだ。この夜を境に、私の運命は暗転する。夫の緊急解頭手術からリハビリと、長い闘病がスタートした。

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 <これが「破損した脳、感じる心―高次脳機能障害のリハビリ家族学」>(亜紀書房 犬塚芳美著)の序奏になる。私ののん気な状態から一転して緊急手術となるさま、救急病院への1ヶ月の入院、リハビリ専門病院に転院してからの4ヶ月間を綴ったものだ。舞台は京都で、頻繁に散歩するのは左京区の北白川や出町周辺になる。9月14日発売で、今日は色々な人が書店に行ってくれたけれど、まだ並んでいなかった。でももうすぐ並ぶはず。

 <脳外科病棟の特徴は>、重ければ重いほど、当の本人は自分の厳しさが解からず、あっけらかんとしていることだ。そんな当人に代わって、当初の心労は、ほとんどが家族、それも連れ合いの肩にのしかかる。私もそうだった。驚いて取り乱す私の右往左往とともに、介護する立場で見た、脳外科患者のその時々の不思議な症状を記している。

 <私が書きたかったのは何だろう> 色々あるけれど、動機の一つは人間関係に衝撃を受けてだった。雨降りの日に助けてくれた人の恩を忘れてはいけないというが、親身に助けてくれる人が殆どだったけれど、落ち目のものにはわれ関せずと、関わりを避ける人もいる。それが親しい人なら苦しみは格別だ。そういう人間の醜さも見せ付けられた二年間だった。
夫を抱え、明日のこともわからず、その日一日をやっと生きているというのに、無残にも、自分の肩に載せられた荷物の重さに窒息しそうだった頃。こんな仕打ちを受けたことがなかったので、人は人に対してこんなことが出来るものかと、わが目を疑った。でもそういう事態に今まで出会わなかったのが幸せなのかもしれない。大変な日々には、とりあえずはこれを書き上げるまで生きていようと、崩れそうな自分の命をつなぐ糸にしていたところもあった。

 <そういう日々を助けてくれたのが>映画だった。これは本の完成間近の頃だけれど、「毎日がアルツハイマー」の関口監督にインタビューした時、監督から「近くで見る日常は悲劇だけれど、引いてみると喜劇になる」という、チャップリンの言葉を教えてもらった。悔し涙を流したあの日々も、確かに、引いて他者の目で見れば、こっけいなほどに人間性を曝している。いつかこの体験を書きたい、映像化したいという思いが、あの時の私の引きのテクニック、手段だったのだと、今気が付く。
 <もう一つの私の引きが>、脳の中への関心だった気がする。昔、まだ感性工学という言葉も一般的でなかった頃、脳を探ろうと、母校の研究室で、脳の出先機関、目、中でも色の反応を数値化しようとしたりもした。結局中途半端に終わったけれど、脳という触れることの出来ないアンタッチャブルな世界を、介護したといいながら、それ以上に興味深く、妻ではないもう一人の私が観察していたのだ。これが、いつか専門の方の目に触れて、あの時彼の頭の中で何が起こっていたのか、脳に絡めたご意見を伺いたいという希望もある。

 <ところで、この本を一番心待ちにして下さったのは>、闘病仲間や介護するその家族だ。脳疾患の闘病の大変さが解かるだけに、応援してくださる思いも強いけれど、なかなか言えない自分たちの思いを、書いてくれているのではという、期待もあるような気がする。せめて一石に成れているといいのだけれど。

 <それにしても>、脳外科病棟はまだまだベールの中だ。忙し過ぎる救急病院の執刀医は、まずは命を救うことが主眼、後に表れるさまざまなことについて、とてもそこまで見ていられない。リハビリ病院に行くと、今度は不都合は結果であって、今さら手の施しようがないから、患者の障害を治そうという目で注意深く見ることがないような気がする。病気ですら脳に受けた傷という意味で、脳外科では受傷という。幸い親切な主治医にめぐり合えたけれど、それでもこれが現状だ。患者の不思議な症状は、詳しいところまでは知られていない。
 <脳の神秘を思わせるデリケートな症状の数々は>、張り付いたからこそ気がついたけれど、見逃すこともあるだろうし、知性や人間性にかかわるだけに、表に出ないことも多い。ここに記したことは、もしかしたら、医療関係者だって、気がついていないこともあるのではないだろうか。私と同じ、介護する立場の家族だけでなく、読む人の視点で見えるものが違うと思う。

 <入院中も執筆中も、色々な映画を見た> どの作品もしばし修羅場を忘れさせてくれたし、夫や私の引き篭もりがちな感情を、世間に対して広げてくれた。私が一番助けられたのが、取材で監督たちと話したことだ。一本の映画を作るには、並々ならぬ苦労をしている。自主制作ならなおさらで、お金をかき集め、自腹を切り、自分の思いを形にしたいという思いのために、飛び込んでいる厳しい世界。夢に向かって努力する監督たちの姿が、がんばる勇気を与えてくれた気がする。頑張る人を見ると、くじけそうな自分ももう少しだけ頑張れた。境遇は違っても、これは普遍的な姿だ。

 <古いものの好きな我が家は>、ダイヤル式の黒電話を使っている。深夜に響き渡ったあの重い電話のベル、あの夜の記憶が蘇るから、2年経っても、いまだに自宅の電話は苦手だ。そして、時々、あの時間にどうして迎えに行こうと思ったのかと、もしかしたらあれが虫の知らせというものだったのかと、考えたりもする。この本の裏側には、書かなかったまだまだ多くの物語があるのだ。(犬塚芳美)
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コメント


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今日手に入りました

渋谷のブックファーストで早めに予約していたら今日手に入りました!早速読みました。
とりあえずは流し読みをするつもりがぐいぐい引き込まれて、ご飯もそこそこにそのまま最後まで行きました。

貴方の頑張りに感動しました。重い障害が頑張って何とかなったんですね。感服します。読みやすいし多くの人に読んで欲しいと思います。

MORI | URL | 2012年09月15日(Sat)07:27 [EDIT]


Re: 今日手に入りました


> とりあえずは流し読みをするつもりがぐいぐい引き込まれて、ご飯もそこそこにそのまま最後まで行きました。
有難うございます。そういっていただけると、少し安心します。皆さんにどう届くか気になるのですが、関西はまだ手に入らなくて・・・。個人的な話を普遍化できているかどうかと。

映画のツボ | URL | 2012年09月15日(Sat)22:53 [EDIT]


Re: まずは出版おめでとう!

色々有難うございました。
本はアマゾンでもいいのですが、すでに土曜日に発送しています。ほとんどの方は届いたとメールが来たのですが・・・。多分明日は大丈夫だと思います。

映画のツボ | URL | 2012年09月17日(Mon)21:24 [EDIT]


久しぶりです

芳美さんのがんばり、発想に感服しました。Mからのメールで知りました。元気でいてください。しかし治ってよかった!

S.M | URL | 2012年09月19日(Wed)07:22 [EDIT]


Re: 久しぶりです

本当に久し振りですね。
色々な方から連絡を頂き、思わぬ旧交を温める形になっています。

映画のツボ | URL | 2012年09月19日(Wed)22:39 [EDIT]


とても良い本です!

仕事や家のことで夜しか読めなかったのですが、とても読みやすくて二日で読了しました。
犬塚さんの文章もご主人の文章も、知性と感性のバランスがとれていて、魅力的でした。

お二人の全力でのリハビリの中に、京都の文化(映画をはじめ町並みや喫茶店など)をエネルギーにしていくところが、素敵だなと感じました。
「大変さ」(という言葉では表しきれませんが…)を越えていかれる中で、お二人でとても大切な時間を紡いでいかれたなという印象を持ちました。

同じ立場の方たちへ心を添わせる優しい視点も、温かくていいなと思いました。
多くの方に読まれて、現状を諦めず、回復の希望を持って下さる方が増えるといいですね。

大空の亀 | URL | 2012年09月20日(Thu)23:21 [EDIT]


Re: とても良い本です!

パソコンのトラブルで、管理画面に入れなくなっていました。お返事が遅くなって申し訳ありません。
温かいお言葉感謝です。大空の亀さんのブログでも紹介してくださって有難うございます。
24日には大阪日日新聞の1面コラムに、この本が取り上げられました。温かい書評で思わずウルウル。
あと、ジャーナリスト・ネットにも医療ジャーナリストの三室さんが、身に余る書評を書いてくださっています。一度お読み下さいね。

映画のツボ | URL | 2012年09月27日(Thu)21:29 [EDIT]


感動しました

内を言われても何を見ても再起を諦めなかった奥さんとだんなさん。えらい!奇跡は起こすものです。貴方たちの執念が奇跡を起こしたのです。

何度も泣きました。でも読み終わると幸せな気分になっていました。これは幸せな物語です。

seikisan | URL | 2012年09月30日(Sun)20:03 [EDIT]


Re: 感動しました

有難うございます。
この本、男性から「泣いた」と言われることが多いです。
先日も、「途中で涙が止まらなくなって、読むのを中断した。よく頑張ったね」と電話してきてくれた友人は、電話しながら感極まって又泣き出し、「いや、俺が泣いてどうする」と言いながら、励ましてくれました。女性は「泣いたけど、・・・」とその後の感想なのですが。どうぞ宜しくお願いいたします。

映画のツボ | URL | 2012年10月08日(Mon)21:36 [EDIT]


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| | 2013年04月20日(Sat)06:12 [EDIT]


 

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