太秦からの映画便り

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つぐない

映写室 シネマエッセイ「わずかな出番で映画をさらう人」   
  ―「つぐない」のヴァネッサ・レッドグレイヴ―
 
 映画を観ていて、役と演じている俳優さんを混同してしまう事があります。そんな時は、私が見ているのは役柄だろうか演じている本人だろうかと戸惑うのだけれど、たぶんそのどちらもで、両者が化学的結合を起こす事があるのでしょう。「つぐない」では3人のブライオニーがそれぞれに混同させてくれます。なかでもラストになって登場する、晩年を演じるヴァネッサ・レッドグレイヴのそれが見事でした。このベテラン女優のせいで作品の質がぐっと高まり、複雑にもなっているというお話です。

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(C) 2007 Universal Studios. All Rights Reserved.

 <評判がよく色々な方が書いているので>、「つぐない」の荒筋はもうご存知かもしれませんね。舞台は1930年代のイギリス上流階級で始まり、後に作家になる内省的な少女ブライオニーが、姉と自分の好きな人との間を、誤解もあり嫉妬もして嘘の証言をした事から引き裂き、色々な人の運命を狂わせるお話です。姉にキーラ・ナイトレイが、姉と相思相愛の使用人の息子のロビーに「ラストキング・オブ・スコットランド」のジェームズ・マカヴォイが扮しました。でも題名から察せるように、この妙齢の美男美女を差し置いて、主役というか物語の視点は過去を償おうと苦悩するブライオニーです。

 <そのブライオニーを年代に応じて3人の女優>が演じるのですが、まず事の発端の嘘の証言をする少女期は、新星シアーシャ・ローナン。この少女は演技力もたいした物だけれど、役に重なる容姿、それも正面以上に横顔が繊細で素晴らしいのです。おでこから鼻筋、口元からあごまでが美しい半円で繋がり、まるで天使の様な美しい凹凸になる。しかも瞳の僅かなニュアンスだけで、夢見がちな少女の危うさと一途さを感じさせるのが見事でした。彼女の横顔に魅せられたのは、観客以上に製作者達だったようで、カメラは執拗に彼女の横顔を追い続けています。
 <その後の、見習い看護婦として働いている年代>を演じるのが、オゾンの「エンジェル」で虚飾の作家に扮したロモーラ・ガライ。この時期のブライオニーは、自分の犯した罪の重さと戦場で傷ついた兵士の凄まじさに押しつぶされまいと、歯を食いしばって堪える、鬱積した表情をしています。本来なら一番美しい時期のはずなのに、年頃の娘の匂やかさが無く、配役を見るまであのロモーラ・ガライだとは気付かなかった位の無骨さ。実は、観ている時はそれが不満でした。この年代を重苦しく演じたからこそ、この役に現実味が加わったと気付いたのは、少し時間がたってからの事です。
役の為とはいえ、前後の二人の間で輝きを消した下支えを引き受けるのは、若い女優さんならちょっと辛いはず。それをやってのけるロモーラの役者魂は本物ですね。前作といいこれといい、作家と言う虚構を紡ぐ人種にリアリティを与えるのが見事でした。

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 <さて、それなりの結末が現れ>物語が終わるのかと思ったら、最後に晩年のブライオニーが登場します。実は私はここまで少し不満がありました。ブライオニーの言動には疑問を持たないものの、少女の言葉を鵜呑みにした周りの大人が幾ら何だって嘘っぽい。それにその時はともかく、後でいくらでも証言を改める事は出来たはずなのに、それをしないで自己満足的に「つぐなおう」とするブライオニーにも苛立って、展開が少し都合良過ぎると思っていました。
 <でもそんな不満も、ヴァネッサ・レッドグレイヴが>インタビュアーにこの物語の背景と、自分の病気を嘆く事もなく、これを最後に筆を折ると告げる姿を見た瞬間に消え、総てを納得しました。女優の全身からかもし出す説得力にやられたとしか思えません。

 <ブライオニーが説得したのか、演じたヴァネッサ>の滲ませる人生の説得力なのかは判別不能だけれど、あんな日々があったからこそ、一人の作家が誕生したのだと強烈に思いました。そうなると面白い物で、似ているわけでもないのに、若い時代を演じた2人の女優にすらヴァネッサのイメージが被ってくるのです。
 <こうして、短い出番で映画全体を支配して>しまったという訳で、何とも見事なヴァネッサ・レッドグレイヴと言うしかありません。思慮深い輝く瞳と人生を感じさせる皴や表情が本当に美しく、圧倒的な存在感を放っています。若い女優では到底太刀打ちできない美しさがあると教えてくれる。ちなみに3人のブライオニーに共通するのは、金髪の髪型と頬の小さなしるしだけでした。ブライオニーを演じた3人の誰もが、本年度の主要映画賞候補とまで言われているようです。

  関西ではテアトル梅田、三宮シネフェニックス、京都シネマ等で上映中
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