太秦からの映画便り

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ラスベガスをぶっつぶせ

映写室 NO.152 ラスベガスをぶっつぶせ     
   ―数学の天才がブラックジャックに挑む―

 ラスベガスに降り立つ者は、自分こそはと「運」に賭けて、たいていは「運」を呼べず、肩を落として立ち去っていく。こんな具合に皆が不確かな「運」に翻弄されるゲームに、「運」ではなく自分の「知力」で挑み、大金を手に入れられたらどんなに気持ちいいだろう。それを成し遂げる若者たちを描いたこの物語は、いかにも映画的だけれど、何と1990年代の実話が基になっている。しかもこの手法は合法だと判決が出ているのだ。さあ、あなたも挑んでみる? 出来るかどうかはともかく、ブラックジャックで「ラスベガスをぶっつぶせる」秘法が、詳しく描かれています。

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 <MIT(マサチューセッツ工科大学)で優等生の>ベン(ジム・スタージェス)は、卒業後ハーバード大の医学部に進む為の、30万ドルと言う高額な学費に困っていた。彼の天才的な数学力に気付いた教授(ケヴィン・スペイシー)は、秘密の研究会に誘う。それはラスベガスで大金を稼ぐ為の会だった。一度は断ったものの、学費も欲しいしメンバーには憧れの美女ジルもいる。
 こうしてベンはチームに加わり、教授から徹底的にカード・カウンティングを仕込まれるが、何しろ飛び切りの天才、飲み込みが早い。すぐに中心的役目を担うことになる。大胆な企みは成功を重ねて、ウイーク・デーはボストンでダサい理系学生、週末はラスベガスに飛んでカジノと贅沢三昧と言う、スリル満天の二重生活を送り始めるという訳だ。

 <理系の私の周辺には、トランプやマージャン等>賭け事に滅法強い人がいた。「博才があるよね」と言うと、いつも「いやこれは統計学なんだ」と真面目な顔で教えられたものだ。本業そっちのけで統計学的な競馬必勝法ソフトの開発に余念がない研究者や、マージャンでお給料以上を稼ぎ続ける大学教授もいる。不謹慎だと怒らないで欲しい。お金よりも、皆が運や勘で突き進む所を数学の知識で分析的に攻めるのが、理系心をそそるのだ。この作品が彼らに重なる。スケールは違っても好奇心の質は同じだ。
 <数学という一見机上の空論が>、実は人の心理掌握までの日常の事象の分析に役だつと言う真理。私たちの行動の多くは個々が直感的に判断する、経験からの予測に基づいている。それを個人から離れ、マスを大きく広げて数学的に正しく捉えれば、幸運を手に入れる確率は格段に上がるという訳だ。私だって、こんな頭脳があればラスベガスの裏をかいてみたいもの。そんな視点で観るとこの映画は数倍面白い。

 <ところで、ゲームは人を熱くする> 冷静沈着なベンですら、いつの間にか騙し騙されるゲームそのものに夢中になっていく。それに大学町での地味な普通の学生の暮らしと、ラスベガスと言う特別な場所での高揚感、人並み外れたセレブな生活を行き来する間に、若者は平常を忘れてしまうのだ。一度高揚感を味わうと、それの無い生活は虚しいもの。正統派の天才が、ゲーム依存となる過程がリアルに描かれていく。
 <これが賭け事のダークサイドなのだろう> ベンも周到な用意と確率の計算が正確だから勝つのを忘れ、いつの間にか自分の幸運までも信じるようになる。こうなったら破滅だ。宝くじ等で顕著なように、理論上投資に見合うお金が返ってこないのを知りながら、人は誰しも自分の運や夢にお金を賭けてしまう。教授がどんなに戒めても、このベンにして、痛い目にあわないとそれを自制し続けるのは難しかった。恋模様、ベンの変化に苛立つ大学の友人たち、カジノ荒らしを取り締まる用心棒等を巻き込んだ、後半の息を呑む展開から目が離せない。

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 <MITの学生だったジェフ・マーの経験を基に>したこの原作が、ベン・メズリックによって2002年9月にワイヤード誌に書かれると、一大センセーションが起こり、150万部を売り上げた。天才マーはどんな人だろうと興味が尽きないが、この作品でブラックジャックのディーラー・ジェフリーとして出演もしている。
 <原作に惚れ込み制作も兼ねているのが>、教授を演じたケヴィン・スペイシーだ。数学者として抜群の知性を誇りながら、教授もまた正統派の道を踏み外し、お金の魔力とゲームの高揚感から抜け出せなくなった一人。オスカー俳優の実力で、この教授の得体の知れなさや心の闇を深めている。僅かに滲む挫折感からの残忍性が後半の鍵だ。

 <そのスペイシーに一歩も引けを取らず>、知性、朴訥さ、度胸、怯えと複雑な表情でベンを演じるスタージェスの、自転車とジャンパーとディバックのダサいオタク系から、高価なスーツに身を包んだギャンブラー風までの変化も、見事だった。どちらも素敵だけれど、ボストンの町並みに似合う古風さや正当性が捨てがたく、せっかくのエリートコース、道を踏み外さないでと思いながらハラハラと観てしまう。
 <ところで、ハーバードの学費には驚いた> 30万ドルを円に換算してため息をつく。彼にはMITの学費も必要だったはずで、エリートコースを歩き続けるにはその2倍近くのお金がかかる事になる。自由と平等を掲げながら、その象徴のはずの大学がこの有様とは、何と歪な社会だろう。「大いなる陰謀」では高額の学費を奨学金で借りた為に、その後の人生を考え、奨学金が免除になる兵役に志願して命を落とす黒人学生が登場した。学費の為とは言え、この若さで高額の借金を抱える人生は辛い。さりげない描写で、アメリカの事情に踏み込んだ作品が続く。やっぱ、ラスベガスをぶっ潰すしかないじゃあないか。
 
   この作品は5月31日(土)より全国ロードショー

<ディープな情報>
 ブラックジャック(BJ)がこれほど人気を集めるのは、他のゲームが運に支配されるのにたいして、BJだけはテーブルの状況を読むことによって、ディーラーより有利な条件で勝負することが可能だからだ。伝説のプレーヤーに元パシフィック証券所長のケン・ウストンがいるが、彼は転身の理由を「株の世界よりカジノのBJの方が、はるかにギャンブル性が低いから」と答えている。
MITの学生チームは、ゲームに勝つ為に、カードカウンティングに加えて、どのタイミングでどんな額のお金を賭けるのがいいかの戦略や、特定のカードが束のどの位置に移動し、どのタイミングで配られるかのカード・トラッキングの高度技術も酷使したらしい。学生たちは先端の数学理論を使いこなし、ラスベガスに挑んだのだ。その挑戦こそが彼らにとっては究極のゲームだったのだろう。
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