太秦からの映画便り

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「パークアンドラブホテル」インタビュー

映写室 「パークアンドラブホテル」インタビュー
   ―熊坂出監督に伺う撮影秘話―

 ラブホテルの屋上に公園があるという設定の、不思議な世界観の邦画が、2008年のベルリン国際映画祭で、最優秀新人作品賞を取りました。主演は、その昔「私は泣いています」と歌ってミリオンヒットを放ったリリィさんです。初の長編作品で快挙をなした、熊坂出監督にお話を伺いました。
    
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  (5月9日 大阪にて)

<その前に、「パークアンドラブホテル」とはこんなお話> 
 髪を銀色に染めた少女が、大きなリュックを背負って写真を取りながら町を彷徨っている。ラブホテルに老人や子供が次々と入っていくのに驚いていると、オーナーの艶子が屋上に案内してくれた。そこは公園になっていて皆が思い思いに過ごしている。「どうして死のうと思うの?」と聞かれて、髪を黒く染め直されその日は泊めて貰うことに。

<熊坂出監督インタビュー>
―これがスーパーとかだったら普通にあり得る話ですが、ラブホテルの屋上に公園という設定はかなり特殊ですが。
熊坂出監督(以下敬称略):普通にありうる設定では映画が出来ませんから。僕は元々ラブホテルと言う空間が好きで、外観はお城だったりブティックホテルだったりと、取り繕った虚飾性の強い世界なのに、中で行われているのはリアルな本能そのものですよね。そんな矛盾を抱えた所が好きで。屋上と言うのも、僕の実家が内装屋で、3階建の上に屋上があって、昔はそこでよく遊んだんです。色々な所の屋上にも行ったし、小さい頃から屋上に思い入れがありました。二つの好きな場所が一緒になってイメージが広がったんです。
―何処かにある実際の屋上の公園からイメージを膨らまされたのかと思いましたが。
熊坂:いえ違いますね。屋上の公園は滑り台だとか椅子だとか運び上げて、全てこの映画の為に作りました。色々な公園のイメージを借りています。

―艶子と少女が喋りながらエレベーターで屋上まで上がる時間が長くて、もっと高い建物かと思ったら、映ると意外に低かったのですが。
熊坂:そうなんです、あそこは意図的です。撮影に入る前にあのシーンがあんなに長くていいのかと話し合いましたが、訳の解らない所に連れて行かれる感じとかを表したいと。これも子供の頃の体験が下敷きにあるかもしれなくて、さっきも言いましたが実家が内装屋なんで、作業場と一緒の家にエレベーターがあって、で、エレベーターに襖とか一杯積んで2階の作業場まで運ぶんですが、重いから上がるのが凄いゆっくりなんですよ。そんな潜在意識もあるかもしれませんね。自分の家にエレベーターがあるというのは、子供ながら結構自慢だったんです。
―ラブホテルと言うのは日本独自のもので、ヨーロッパではこの話が通じにくいのでは。日本だとその発想が一番受けるところですが。
熊坂:ええ、そうなんです。向こうでは企画として成立しません。そこのところを勘違いされて、ベルリン映画祭の質問で「東京ではこんなところが一杯あるんですか」と言う質問を受けましたね。でもそれ以外の、人間の描き方というか、構成や作品の方向性が評価されたようです。

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(C)PFFパートナーズ

―釜山とベルリンの映画祭の反響の違いはどうでしたか。
熊坂:僕も初めての映画祭で他は知らないので、この作品が上映された時という限定でお話しするなら、両方とも反響は良かったです。釜山は若い人ばかりだった。広い会場もソールドアウトでしたし、凄く受けたんですが、ここは映画監督というだけでリスペクトされてる気もするので、そんな反応は僕だけじゃあないのかもしれません。上映後はサインを求める人にワーッと取り囲まれて、恥ずかしくもあり嬉しくもありでした。釜山はすぐに映画のレビューが出るんですが、一紙にはこてんこてんに貶され、しょげていた所に出たもう一紙には凄く褒められ、嬉しかったですね。レビューを読んで一喜一憂する自分が馬鹿みたいだなあと思いますが。ベルリンの会場は凄く大きいんです。こちらも毎回満席でした。観客は国籍も年代も本当にばらばらですが、自分で言うのもあれですが、やっぱり評判が良くて、3回大きな拍手をもらえました。この映画は10のうち2を描く手法です。描かないところも僕の中では設定してるんだけど、後の8割は観客に委ねている。まあこちらの設定とは違う解釈をされている方もいました。

―それは計算してですか。
熊坂:そうです。凄く解りやすいカタルシスがあると映画がそこで終わります。10設定して10提示すると映画が閉じてしまう。終わった後で観客に持って帰ってもらうには、観るほうの想像の余地が必要だと言うことです。なかなか難しいんですが、映画とはそんなものだと思うんですよ。
―なんでも監督の奥様はすごい映画通とか。
熊坂:彼女は一緒に映画祭を回っているんで、必然的に何度も観る事になります。この作品も最初観た時は辛辣でした。でも、2回目以降にガラット変わりましたね。まあ、それだけ解りにくいと言うことですが。
―そんな反応は予想していたと。
熊坂:ええ、予想していました。この映画で大きな軸となっているのは、艶子のアンビリーバブルな感情をどう構築していくかです。言葉に出来るような画一的な感情とは違うものを描きたかった。少女が送ってきた写真を見て泣くシーンとか、艶子の中にも複雑な相反する感情がある。そんなところは一回観ただけでは解りにくいと思います。でもベルリン映画祭は女性審査員が多く、そんな微妙さがすっきり伝わるんですよ。フランスのドミニクさんと言う映画監督と色々話したけれど、一回観ただけで全て把握されていました。

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(C)PFFパートナーズ

―リリイさんの存在感が大きいですが。
熊坂:最初こそ色々段取りを話しましたが、途中からは本当に全て本人に任せました。こんな芝居のつけ方をすると、リリィさんの生の人生が出てくるので、それに説得力があるものだから、それだったらここまで言わなくても解るだろうと、最初の台詞を一杯カットしていって、「何するのよ」と怒るリリィさんと喧嘩ばかりでした。でも後で解ってくれて、あれはリリィ艶子になる過程だったんだと思います。リリィさんは素顔のように見えますが、老けメークをしたり、それぞれコンセプトのある服装をしたりと、こちらがしたのはそんな事です。リリィさんが微妙なニュアンスを表現してくれるから、それで充分で、音楽を入れると観客の解釈を混同させる。場面の中に自然に流れる音楽以外使っていません。
―リリィさんは出来上がったものを御覧になって何と仰いましたか。
熊坂:どうなんでしょう。ちゃんと話してないですね。ゼロ号の試写を前の席で観てたけれど、私太って見えるとか言ってたかなあ。僕らあまり自分の出てるものを見たくないんです。恥かしくて客観視できないんですよ。ちはるさんからは、出来上がったものを観て初めて、監督の言いたい事が解ったと言われました。実は僕は、他の人とも終わった作品についてあまり話しません。僕は我が強いので、他の人の意見より自分の評価が大事で、もうこの映画に関しては、時間も経っていますから自分の評価が終わっているんですね。カメラの袴田さんが以前「僕は反省しないんですよ。次の宿題にするんです」と言ったのに感化されて、まあそれって反省と一緒ですけど、いまさらどうこう言っても仕方がないというか。それに映画は生き物で、これは確かに僕が作ったけれど、もう僕の手を離れて一人歩きしていますから。

―ベルリン映画祭の受賞と言う幸先の良いスタートですが、この後の予定は。
熊坂:色々書いてはいるんですが、なかなか通らなくて。もっとサービスしないといけないんでしょうね。自分が面白いと思うだけじゃあなく、それを観客も面白いと思う方向に持っていく。これを描きたいと思うものを、サービス精神によって解りやすいものにする技術が必要なのでしょうね。それが監督のサービス精神だと思います。名作って誰も悪く言わないじゃあないですか。マスを広げる事がレベルを上げることだと思うので、そういうものを作りたいです。  (犬塚芳美)

 この作品は6月28日(土)より第七藝術劇場で上映、
      7月中旬神戸アートビレッジセンター、順次京都シネマで上映予定


<インタビュー後記:犬塚>
 描き過ぎない作風どおり、監督自身も喋り過ぎるのを嫌うような、言葉を選んだ短い返答が返ってきます。作品を補足する姿勢とは真反対で、そこに意志の強さと潔さを感じました。ところで、この作品は何と言ってもリリィさんです。アンビリーバブルな感情を抱えた女性を、時にはふてぶてしいほどの存在感で演じ、柔らかくリアルに感じさせます。考えてみると、私たちの感情と言うのは、言葉も行動もだけど矛盾している。でもそれらを俯瞰すると、言葉にはならなくても、確かな思いがあるのが見て取れます。人とはそんな生き物、生きるとはそんな事、この映画の矛盾の中の真実という不思議な世界観が忘れられません。屋上の解放区が何処かに出現しそうです。
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コメント


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語りすぎない

前に予告編で見て、気になっていた映画です。
今日の夕刊にも、受賞の記事が載っていましたね。

>この映画は10のうち2を描く手法です。描かないところも僕の中では設定してるんだけど、後の8割は観客に委ねている。
監督のこの言葉が、私はとても気に入りました。想像の余地のない映画やドラマ、小説は苦手です。
想像する楽しさを残してくれている映画は、観客を信頼してくれているわけで、共有できる幅が広いですよね。
観ることを重ねることで、観客も成長するって、ステキだなあと思います。

大空の亀 | URL | 2008年06月27日(Fri)18:32 [EDIT]


映像もアートです

大空の亀さんが気に入ってくださった監督の言葉は深いし、確かに見る者には余韻となります。どう感動したのかを言葉では言えないけれど、それこそが誰もの抱えるアンビリーバブルな感情。言葉を選べば、選んだ分だけ本当の思いが遠ざかりそうな、まさに揺れるものです。だから、今日の夕刊の男性二人の解説は、本当言うと(ちょっと違うんだけど…)と言う気分。(長谷川さん御免なさい)
監督は屋上とラブホテルと言う昔から好きだったもの二つを組み合わせただけと簡単に言うけれど、いやいや深遠な意味がある。この物語でラブホテルの意味は大きいし公園の意味も大きい。両方の間で揺れている女達そのものに思いました。
屋上で遊ぶ大人の男性も、悪がきたちも、結局の所、女達の心矢からだの奥底の何かには、気が付かないのでは。でも離れられなくて、屋上でしばしの安らぎのひと時を過ごしている。深い闇や空洞があるのを感じながら、その上のブランコで揺られ、ひとまずその下に彼女がいるのを感じて安心しているように思います。
監督はカメラの袴田さんを信頼しているようで、アーティスティックな映像が素敵だったと言うと、「ええ、袴田さんの仕事のせいです」と即答されました。とても今的な時代を掴むのが上手い監督だと思ったら、普段はコマーシャルをとっているそうです。

犬塚 | URL | 2008年06月28日(Sat)00:19 [EDIT]


若い才能

この記事を読んでぜひ見たくなり遠征してきました。見るものを集中させる味わい深い映画でした。若い優れた才能が噴出しているのを感じる。

T.K. | URL | 2008年06月30日(Mon)08:15 [EDIT]


映画を大学で学んだ年代

昔は日大しかなかった映画学科が、色々な大学に出来て、其処の卒業生が映画業界に入ってきています。だから皆理論派。自分の映画論をきちんと持っている。しかも今の空気感を掴むのも上手いのです。邦画バブルと言う現象も味方して、色々な才能が機会を得るのは良いですよね。逆に五十代以降の監督が、邦画の厳しかった頃に大切な時期を送って、作って覚える機会が貰えなかった。運、不運もあるなあと、…。

犬塚 | URL | 2008年07月02日(Wed)00:18 [EDIT]


アンビリーバブルではなくて

アンビリーバブルではなくて、アンビバレントの間違いでは? 他の記事を読みましたが、多分、アンビバンレンツ、もしくはアンビバレントの書き間違いかと思いました。

通りすがりの者 | URL | 2008年07月04日(Fri)01:06 [EDIT]


ついそう使うのですが、調べてみます。有難うございました。

犬塚 | URL | 2008年07月04日(Fri)07:58 [EDIT]


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| | 2012年07月12日(Thu)01:19 [EDIT]


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| | 2012年08月21日(Tue)03:52 [EDIT]


 

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映写室 「パークアンドラブホテル」監督インタビュー:犬塚芳美

      ―熊坂出監督に伺う撮影秘話―  ラブホテルの屋上に公園があるという設定の、不思議な世界観の邦画が、2008年のベルリン国際映画祭...
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journalist-net | 2008年06月27日(Fri) 07:24


 
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