太秦からの映画便り

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映写室 NO.156 ミラクル7号

映写室 NO.156 ミラクル7号   
―映画はチャウ・シンチーのワンダーランド!―

 「少林サッカー」等でお馴染みの、香港映画界の才人、チャウ・シンチー(周星馳)が又もや弾けた作品を作った。「E.T.」をオマージュにしたSFファンタジーで、ハリウッド作品とは違うB級感が素敵な味わいになっている。主人公に拾われる奇妙な形の地球外生物「ミラクル7号」は、まるでスライムかヌイグルミ。でも次第に命を感じ始めるから不思議だ。失敗して困った顔や決意を秘めた瞳が忘れられない。全編遊び心が一杯で笑いが炸裂するが、観終えた後に残るのは何とも言えない温かさ。絶世の中国美人も出ていて、「お父さんも必見!」と断言しましょう。

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 <ディッキー(シュー・チャオ)は今日もボロ靴を履いて>、元気に小学校へ行く。お金持ちばかりの名門校では浮きまくりで、級友に虐められるが、巨体の少女や美人の先生が庇ってくれる。ある日「もう貧乏は嫌だ!」と我儘が爆発。それでも父は、息子に少しでもましな靴を履かせたくてゴミ捨て場を漁る。偶然見つけた緑色のボールを拾って帰ると、ディッキーは早速学校へ持って行き、「最新のオモチャで<ミラクル7号>だ」と嘘をつく。ところがボールは、ふとした拍子に小さな謎の生物に変身…

 <映画はディッキーの破れた靴をアップで映し>、それに続いてベンツ、フェラーリ等のマークと高級外車で登校する子供たち、そして今度は父親がボロ靴を繕うシーンへと移る。つまり近代的な建物やそこへ集まるオリンピック景気に沸く北京の最富裕層と、そんな建物の建築にかかわりながら、繁栄から取り残されて靴さえも買えない極貧を極める庶民という対比で、今の北京の凄まじい格差社会を映していく。
 ディッキーの通う小学校は、英才教育の匂いがぷんぷん。いかにもお金持ちそうな子供たちのエリート然と自信に満ちた姿に、誇張があるとはいえ、これが世界を目指す今の中国の富裕層なのだと感じる。

 <お金も無いのにどうしてこんな学校へ通わせて>高い学費や環境の違い等で、自分も息子も辛い思いをするのかと思うけれど、賢い息子には最高の教育を受けさせ、自分の手に届かなかった輝く未来を与えたいのだ。ここでコースから外れると、いくら努力してもこの父親のように貧しさから這い上がることは出来ないという、中国の学歴偏重の現状があるのだろう。

 <…なんて社会情勢が、物語の後ろに見え隠れするものの>、もちろん主題はディッキー親子の情愛と其処へ迷い込んだミラクル7号ことナナちゃんの活躍だ。この親子が本当に素敵で、派手に喧嘩しながらも仲がいい。父親は息子の為ならどんな苦労も厭わないし、ディッキーもそんな父が大好き。演技とは思えない信頼感やお互いを思う気持ちが、見ているほうまで伝わり幸せな気分になる。こんな愛があれば何も要らない、幸福はお金ではないとよく解るのだ。それに、よれよれでだらしない格好の父親も、チャウ・シンチーが扮するとカッコいいのが困るけれど。
 <ディッキーもたまには凹んでも>父親の「嘘はつかず、喧嘩をせず一生懸命勉強すればビンボーでも尊敬される」と言う言葉を座右の銘にしていているから、仲間に苛められる時以外は明るいのだ。大きな父性愛に守られて、子供らしく伸び伸びと育っている。闖入者のナナちゃんを相棒にして、色々な事件を子供らしく無邪気に乗り切っていく様子が可笑しい。こんな秘密の味方が出来たらどんなに楽しいだろう。

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 <そのナナちゃんが可笑しい> ディッキーの無理難題に困った顔をしたり過剰反応をしたり、何かを出したと思ったらウ〇チだったりして、ディッキーの嘆くまいことか。頑張ろうとするんだけれど、どこかピントがずれている。駄目な自分にしゅんとする姿も可笑しい。最も後ですごい事をするんだから、他力本願を戒める意味かもしれない。 
 <チャウ・シンチーはこの映画で>クリエーターとして思い切り遊んでいる。もちろん圧巻は、色々な形に変身するもののどれもがちょっと情けなくとぼけた味わいの、「ミラクル7号」と言う、愛すべき地球外生物のキャラクターを生み出したことだ。ポケットに入りそうで何だか儚いのに、スライムの体が微妙に震え、確かに生きていると感じさせるのも凄い。形もやることも何処か長閑でほっとさせられる。
 全編の過剰さの中、1人ナチュラルなのが、誰に対しても平等なユエン先生役のキティ・チャンだ。清楚でその美しい事、彼女が立っただけで風景が一変する。特にディッキーだけに優しいわけではなくても、ディッキーにはそう見えても仕方がない。

 <もっと凄いのが子供たちを色々に変身させている>ところだ。ここまで息子と書いてきたけれど、ディッキーに扮しているのは実は少女(!)で、他にもいじめっ子ジョニーに扮しているのも少女だし、ジョニーの用心棒の男子生徒は何と23歳の女性が演じている。逆にディッキーを助けてくれる巨体少女は、男性プロレスラーが扮しているのだ。どうです、この性や年齢をすら飛び越えた混合チーム、遊び心満載!
 <そんな内幕は観ていてもちっとも解らず>、どうしてこんな配役が閃くのだろうと感心する。チャウ・シンチーの創作魂炸裂の作品だ。おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさはぜひ劇場で確かめて欲しい。訳知りの大人を止めて、たまには童心に返ろう!

 <開発著しい北京の街で>ディッキー親子は元気に生き延びているだろうか。…等々楽しかった映画の世界が尾を引く。こんな格好で、宇宙からナナちゃんの仲間が一杯やってきたらどうしよう。それも楽しいかもと思える可愛い異星人の誕生だ。  (犬塚芳美)

   この作品は6月28日(土)より全国でロードショー

《ちょっとディープに、シュー・チャオの裏話》
 <ディッキーを演じるシュー・チャオは>1997年生まれの11才で、1万人のオーディションを勝ち上がったラッキーガール。何気ない少年の仕草や無邪気な表情、それに腕白ぶりも板についていて、何処から見ても少年で、後でチラシを見るまで少女だとは気付かなかった。まるで魔法を見せられた気分だ。
 <悲しみ喜び戸惑いやんちゃさ等>、これほどの細かい演技をしながら、今までの経験はCM1本だけと言うんだから、本人の才能もだけれど、チャウ・シンチーの監督としての力量が凄いのだろう。ただし、天才監督もこの少女の才能に惚れ込み、自分の会社との8年間の独占契約を結び特待生にしただけでなく、何と実生活でも養子縁組を交わしている。今は実の両親と暮しているが、来日会見ではチャウ・シンチーを「社長」、「父さん」、「監督」と呼び分ける利発さを見せ、報道陣を圧倒したと言う。
 <将来は映画監督になりたいというのだから>、この映画の親子のように、チャウ・シンチーが将来を見据えて英才教育を始めているかもしれない。なんか色々な意味で、中国のスケールの大きさを実感させられた作品だ。色々な作品のパロディ場面のあるオリジナル脚本も、チャウ・シンチーが書いている。
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