太秦からの映画便り

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映写室NO.160 「おいしいコーヒーの真実」&「オーケストラの向こう側(フィラデルフィア管弦楽団の秘密)」

映写室NO.160 「おいしいコーヒーの真実」&「オーケストラの向こう側(フィラデルフィア管弦楽団の秘密)」 
     ―良質なドキュメンタリーの2作品―  

 意表を突いた視点の、完成度の高いドキュメンタリー作品の公開が続きます。私たちに安らぎをくれる1杯のコーヒーの裏側で、生産地の農民が貧困に喘いでいる話には胸をつかれるし、音楽家の心の内から芸術の真髄を掬い取った「オーケストラの向こう側」には、魂を洗われる。ここにあるのは、映画を超えた社会と繋がる生きた教科書。大人だけで無く、ぜひ夏休みのお子さんを連れてご家族でご覧頂きたい2作品です。

1.おいしいコーヒーの真実 

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 <貴方が払うコーヒー1杯分のお金>330円のうち、コーヒー農家に支払われるのはわずか3~9円だと聞けば驚きませんか。コーヒー危機の2002年から2003年にはもっとひどくて、農家の取り分は喫茶店のコーヒー価格の0.1%にまで下がっていました。フランシス兄弟のこのドキュメンタリーは、その時に企画されたもので、コーヒーを題材に選び、巨大な多国籍企業に価格を支配されて、いかに生産国が残酷な仕打ちを受けているかを丁寧に描いています。
 <実は、お店で飲むコーヒーは>物価上昇に合わせて高くなっても、豆の価格は約30年前のまま。農家は年々困窮している。世界中でコーヒーが飲まれながら、肝心のコーヒー農家は価格の低迷に苦しみ、破産の危機に瀕しているという現実。一家で汗だくになって働いても、子供を学校にやるどころか、その日の食べ物にも事欠く。子供にこんな仕事を継がせる訳には行かないと嘆く、父親の姿が正視出来ない。

 <もっとも、アフリカの危機を救おうと>緊急食糧援助があり、この映画でも多くの人が配給のトラックに群がります。でも(援助に頼る親の姿を見て、子供が未来に夢を抱けるだろうか)という嘆きには誰もがハッとするでしょう。屈辱を嘆いても、貰わなければ一家が飢え死にする。でもコーヒーが適正な価格で取引されればすべては解決する問題。アフリカの国際商取引の価格が1%上がるだけで、年間700億円が派生し、これはこの大陸が受けている経済支援の5倍になるという事実を忘れてはいけません。もっとも搾取しながら援助すると言う先進国の驕りは、コーヒーでなくてもあらゆる物で成り立つ構図で、日本の国内でも、手作業の生産者が置かれている現状なのです。

 <私は物を作ることや流通の仕事を>長くしてきたので、あまりにも物が安いと嬉しいよりも辛い。(何処で誰が損をしているのだろう。大事に育ててやっと出来たキャベツがこんなに安くて農家の人は大丈夫だろうか)等、ついつい我が身に引き寄せて考えてしまいます。そんな低価格には注意を払っても、消費者としてコーヒー1杯にそれなりのお金を払いながら、こんな搾取の仕組みがあるとは気付かなかった。これでは誰も物を作らなくなる。この作品をコーヒー生産地で上映すると、農家の人々が理不尽な仕組みに気付き怒り狂うとか。もっと怒って、当然の権利を主張すればいい。物を作る人が一生県命働いて、それで消費者と同じ暮らしが出来ないのはおかしいのです。

 <貧しいアフリカと言う押し付けられたイメージに怒り>、「適正価格での取引を」と果敢に挑み続ける一人の男、エチオピアのタデッセ・メスケラの行動を追っているのが、この映画の方向性です。彼の行動が少しずつでもエチオピアを変えている。タデッセ・メスケラの姿を見て、彼を追ったフランシス兄弟の姿勢を見て、今度は消費者が変わらないといけない。貧困のスパイラルに加担しない為にも、せめて「フェアトレード」のコーヒーを味わいたいと、香りの向こうにタデッセ・メスケラたちを思い出しました。
 <後10円コーヒーに余分に払って>、そのお金がそのまま生産者に渡る仕組みは出来ないものでしょうか。そんなメーカーが出来たら私は迷わずそこでコーヒーを飲むのだけれど。映画は「あなたが飲む1杯のコーヒーから、世界のしくみが見えてくる」と訴えかけます。

  この作品は、7月26(土)より第七藝術劇場で上映
            時間等は直接劇場へ(06-6302-2073)
            8月14日(木)より、京都みなみ会館で上映予定


2.オーケストラの向こう側(フィラデルフィア管弦楽団の秘密)

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(c)2004 Anker Productions, Ink. All rights reserved.

 <このドキュメンタリーは>、映像作家のダニエル・アンカーが、アメリカの名門オーケストラ、フィラデルフィア管弦楽団の、ステージだけではなく一人一人のオフ・ステージに肉薄して、「音楽とは何か?」の答えを真摯に探った作品です。演奏シーンは主にリハーサル映像で、いわばこの作品のための演奏。団員には舞台ほどの緊張が無く、カメラには無防備に真摯に自分の音を探り、オーケストラの音を作っていく過程が覗けました。音楽好きなら溜息が出る贅沢さ。繊細なカメラワークからは誰もの息遣いが聞こえてきます。

 <これほどの名門オケにいながら>、誰もが一人の音楽家としての立場と、メンバーとしての立場の狭間を探る様子は深遠で興味深い。オーケストラの魅力を「己を無くさず、且つ少しだけオーケストラからはみ出そうとする皆の動きが、そのオーケストラの個性になる」と語る言葉に肯く。なるほど誰もが葛藤の中。彼らが心情を語る言葉はどれもがまるで詩人か哲学者のよう。音楽家とは思いのある人、音に思いを乗せる芸術家だと改めて気付く。

 <思わず書き留めた宝石のような言葉の数々>を挙げると、「楽器は声に近づいていく」と言ったのはジャズで博士号を取った奏者で、「耳障りな音が好き。雑音と音楽の違いは不協和音の向こうに別の意味があるかどうか」には、ノイズを含んだ音が好きな私は心底肯く。(私が言うと、邪道だと正統的なクラシックファンからは軽蔑される嗜好だけれど、良かった!クラシック奏者にもそんな人がいたんだ)ホルン奏者は音楽への感情移入を「雪ダルマを転がすように感情を転がし、だんだん大きくなっていくと、何かの拍子にその国への郷愁が湧き出る。それを音に乗せるんだ」と答え、「僕らは演奏で交信している。音だけでなくささやかなやり取りで心を交わしている」と、巻き込まれるように一体となる、演奏中の団員の至福の感情を表す者もいる。こんな言葉が洪水のように溢れているから、続きはスクリーンで聞き取って欲しい。

 <監督が音楽と心理学の学位を持つだけに>、心の奥底を覗いた深遠な言葉が作品の質を高めています。音楽ファンだけで無く、言葉に興味がある人も見逃せないと思う。元ブラス部員としては、ホーンパートがクローズアップされるのも嬉しい。臨場感に溢れていて、公開練習を見たか、公開実習を受けた気分と言うのはあまりに厚かましいだろうか。こんなにいい音を一杯聞いた後では、もう下手な生演奏は聴けない。それだけがこの作品の罪なところです。(犬塚芳美)

   この作品は、7月26(土)より第七藝術劇場で上映
                 時間等は直接劇場へ(06-6302-2073)


<ディープな情報>
 フィラデルフィア管弦楽団は1900年に創立された世界有数のオーケストラの一つ。指揮者のレオポルト・ストコフスキーが映画の音楽監督をしていた1937年に、「オーケストラの少女」でクラシックの名曲を演奏している。39年にはディズニーアニメ「ファンタジア」の音楽も担当。美しい音色とそのハーモニーは、華麗なるフィラデルフィア・サウンドと言われる。近年ではインターネットを通じたスクリーン会場のコンサート等、新しい試みにも挑戦している。
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コメント


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バタバタしていて、久しぶりにお邪魔しました。
大好きな蒼井優さん主演の映画や、京都で撮影した時代劇の解説に、感心しきりでした。

コーヒー豆の安さと搾取する側の仕組みにあきれました。
喫茶店でバイトしていたとき、原価と売値の差が激しく、一番もうかるのはコーヒーだと知りました。
それ故、この話には尚更怒りを覚えます。

オーケストラの個性、同じ曲を聞き比べるとよくわかりますよね。
同じ楽団でも、指揮者によって聞こえ方が違うしね。
挙げてある言葉がどれも興味深く、久しぶりに七芸に行きたくなりました。

大空の亀 | URL | 2008年07月23日(Wed)20:53 [EDIT]


この2作品はぜひにとお勧め出来るクオリティです。ドキュメンタリーだけれど解りやすく、映像も工夫して作っていて、ここまでのものは日本ではなかなか出来ないなと、世界とのレベルの違いを感じました。学生達にもぜひ見て欲しい。
外で飲むコーヒーの値段は場所代だとは解っていても、一番大変な作業の豆の生産者がここまで困窮しているとはと、私も怒りを覚えました。もはや必需品ではあるけれど、無いと生きれないわけではないと思えば嗜好品。ぜひ色々な方に気付いて欲しい矛盾です。
「オーケストラ…」の方は、あまりに深遠な言葉の数々に私でもメモを取らずにおれなかったので、「大空の亀」さんなら大変だと思いますよ。試写の後で「よかった!」を連発しました。
2本とも色々な意味で贅沢なドキュメンタリーでした。

犬塚 | URL | 2008年07月24日(Thu)01:36 [EDIT]


 

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映写室NO.160 「おいしいコーヒーの真実」&「オーケストラの向こう側(フィラデルフィア管弦楽団の秘密)」:犬塚芳美

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journalist-net | 2008年07月24日(Thu) 07:27


 
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