太秦からの映画便り

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映写室 NO.161 インクレディブル・ハルク

 映写室 NO.161 インクレディブル・ハルク  
  ―愛と悲しみのヒーロー―

 この猛暑、暑気払いならやっぱ大作でしょう。スクリーンに広がる映像美や圧倒的な迫力を堪能する間に、自分が物語の中の住人になるから今が夏なのも忘れる。心拍数が上昇し、アドレナリンが体内を駆け巡ると、グリーンの肌の超人的な姿になると言うお馴染みのマーベル・コミック「ハルク」の新作は、変身前の科学者にエドワード・ノートンを向かえ、このモンスターの愛と悲しみを丁寧に描きます。娯楽大作ながら、娯楽に終わらない複雑な余韻。ハリウッドは進化し続けている。映画ファンも唸らせるし、映画ビギナーにも映画の楽しさを教えてくれる作品です。

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(C) 2008 MVLFFLLC. TM & (C) 2008 Marvel Entertainment. All Rights Reserved.

<荒筋>
 科学者のブルース・バナー(エドワード・ノートン)は秘密実験の失敗で多量のガンマ線を浴びて、心拍数の上昇や怒りで巨体のモンスター=ハルクに変身する体になった。その血清を軍事に利用しようと執拗に追うロス将軍(ウイリアム・ハート)から逃れて、元の体に戻れる方法を探していたら、インターネットで光明を見つける。が、そこに追っ手が現れて、又もやハルクに変身。それを目撃したブロンスキー(ティム・ロス)はハルクの力に魅せられ、自ら人体実験に志願。軍はおぞましい領域に踏み込んでいく。


 <この作品、全てが巧みで>脚本と演出が練りに練られている。しかも、癖のある作品を好む演技派を配したキャスティングからも解る様に、娯楽作品の域を守りながら色々複雑な香りをつけてもいるのだ。冒頭の短い時間でテンポ良くハルク誕生の経緯を見せ、後はブルース=ハルク、恋人のベティ(リブ・タイラー)、ブロンスキー、ロス将軍等、登場人物同士の絡みや葛藤を裏に偲ばせ、表の激しいアクションとの2重構造で見せるから、2時間弱が息をつく間もなかった。全容を理解するには自分の知力で複雑な物語を繋ぎ合わせないといけず、その頭の使わせ方も上手い。もちろん単純に見ても面白く、見る人によって深さの違う作品になっている。

 <まず圧倒されたのが>、ブルースの潜んでいたブラジルを、リオ・デ・ジャネイロの丘にびっしりと張り付いて建つトタンのスラム街を舐めるように映していくシーンの見事さだ。これ以上は詰まりようが無いというほど縦にも横にも密集したスラム街は、家ごとに微妙に色を変えて造形の妙を見せ、まるで巨匠の絵のように美しい。近づけば一つ一つに貧しい暮らしがあるのだけれど、内側のそれを感じさせながらもすべてをトタンが覆い尽くして、ぎらつく太陽に静まり返っている。それがエキゾチックでもあり、これから始まる物語の多様さそのもののようで期待が膨らんだ。逃亡シーンの迷路のような家々、エリートだった科学者ブルースの奪われた物の大きさと共に、こんな町なら探し出すのも困難だろうと納得できる。

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(C) 2008 MVLFFLLC. TM & (C) 2008 Marvel Entertainment. All Rights Reserved.

 <この作品の1番の味噌は>、主役のブルースにエドワード・ノートンを持ってきた意外性だろう。ノートンの華奢で内省的なイメージは、いかつい緑のモンスターとはあまりにかけ離れていて、だからこそ変身の前後が際立つ。肩幅が狭く、なで肩でちょっと猫背、上目使いに凝視する瞳は時に気弱い影を落とし、自分の意に反してモンスターに変身する男の悲しみを痛々しいほどに体現する。でも逆にいえば、穏やかな人も心の底にはこれほどの怒りを秘めているのだ。ノートンのイメージで、暴れるハルクの表情にすら悲しみが濃く、怒りと悲しみが繋がってきた。それがハルク、我慢仕切れない私憤や義憤が彼を怪物に変える。ハルクだった時の記憶を一切なくして倒れている姿は、まるで死んだようで、気が付くとベティのように彼を案じ、奇想天外な主人公を身近に感じていた。ノートンの功績だと思う。

 <物語の佳境、元の体に返れたかに見えるブルースは>、自らの意志でもう一度ハルクになる。愛するベティや地球を守る為にはそうするしかない。こんな力を内蔵する彼はもう普通の生き方は出来ないかも。ベティと一緒にいたいと言う普通の愛とその彼女を守りたいと言う超人的な愛。心が張り裂けそうなハルクに、緑の肌はよく似合う。あれは悲しみの色だったのだ。

 <それにしても軍人とは愚かな者> 闇雲に力に憧れ無謀な試みになんら躊躇う事も無い。ブロンスキーの瞳の狂気に震え上がった。まるで人類の思い上がりを警告するような変貌後の醜い姿、その瞳にもちろん惑いなどは無く、二人の怪人の生みの親のロス将軍は事態には焦っても表立っては表情を変えない。と言っても心の中に動揺が無いはずがなく、軍人の性というものだ。この当たり演じる二人の巧みさが大きいのだろう。漫画的ながら愚かな人類の揶揄、規模は違ってもこんな方向の事をどこかでしてるかもと思わせる。
 もうハルクはブルース的な自分の幸せに埋没出来ない。ベティとは永遠の別れなのだろうか、何時の日か又以前の自分に返れるのだろうかと観客が感傷に落ちていると、映画は意外な落ちを付けた。「おっと、こう来るか!」と笑ったけれど、さあ、それもご覧になって楽しんでいただこう。気楽に見たのに、全てに圧倒されて目を覚まされた作品です。(犬塚芳美)


  この作品は8月1日(金)より全国でロードショー
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映写室 NO.161「「インクレディブル・ハルク」:犬塚芳美

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journalist-net | 2008年07月31日(Thu) 07:26


 
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