太秦からの映画便り

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ほのぼのとした大人の恋愛物語

映写室 NO.133 やわらかい手 
 ―蘇ったマドンナの究極の癒し― 

 セックス産業と言うきわものを題材にしながら、浮かび上がるのは究極の愛という、久しぶりに情感溢れる大人の物語です。主人公に扮するのは、伝説のロッカー、ミック・ジャガーの元恋人の、マリアンヌ・フェイスフル。「あの胸にもう一度」での、素肌の上に黒革のジャンプスーツを着た、コケティッシュな姿を思い出す方もいるでしょう。長い不遇時代を送った彼女の再生も、往年のファンを癒します。
yawarakai-m.jpg


荒筋
  ロンドン郊外に住む中年の主婦マギー(マリアンヌ・フェイスフル)は、難病の孫の治療費の為に、家も手放し質素に暮らしている。ある日医師から、「6週間以内にオーストラリアで手術を受けないと死ぬ」と宣告されるが、息子夫婦にそんなお金はない。自分が何とかしようと、思い余って歓楽街の「接客係募集」と書かれた店に入る。オーナーのミキ(ミキ・マノイロヴィッチ)は呆れて、張り紙の意味を知っているのかと問うが、マギーの手の柔らかさにある仕事を与えた。やがて「イリーナ・パーム」と言う源氏名をもらうまでになる。


 <オーナーのミキは、この仕組みを東京で見てきた>と自慢するけれど、真偽はともかく、ここで名前が使われるのがちょっと辛いけれど、凄い仕事があるものだと驚く。最初は題名からは想像も出来なかった展開に、とんでもない作品を観てしまったと下を向いても、心配は要らない。舞台は怪しげな風俗の店でも、描くのはあくまでマギーの暮らしと心。彼女は何をしても汚れを見せず、仕事の内容に戸惑いながらも、孫の命を救いたい一心で全てを乗り越える。その姿勢、その愛に感動した。と言うより、ひた向きなその姿に気品さえ感じて、気が付くと、彼女のしている仕事が何かすらも忘れている。それは貴族の血を引くという、マリアンヌの持つ気品や魅力でもあるのだろう。往年のマドンナぶりが窺われる。

 <マギーは孫の命を助けられれば>、自分や世間なんてどうでもいいのだ。迷いのないその意志が、さえない主婦に過ぎなかったマギーをどんどん美しくしていくのも見逃せない。もちろんそんな姿は観客だけでなく、仕事にシビアなミキの心も動かし、ミキとの触れ合いが、知らず知らずマギーの生きがいにもなっていく訳で、このあたりのほのぼの感がこの作品の本領だ。
 <事情を知りながら、「そんな仕事をして」と>マギーを攻める、俗物の友人たちや息子に対して、全てをさらけ出した、何もかもどん底から芽生えたこの2人の恋心や労わりあいの美しい事。2人が控えめに自分の事を告白するシーンは、若い美男美女のラブシーンとは違う温かさを感じる。階級制度の激しいロンドンで、移民として差別されながらそれを嘆かず、引退する日の為にと割り切ってセックス産業でお金を貯める男と、豊かだったのに、今や友人達とは違う暮らし向きで、風俗嬢を悪びれずに勤める中年の女。見栄も外聞も捨て、困難を自分の力で乗り切る2人の生き方。お互いに自分の分身を見る思いだったかもしれない。


 <マリアンヌが役柄とはいえ、よくここまでしたものだ>と思うほどの、衣装と言い仕草と言い中年女に徹した野暮ったさに感心するけれど、終盤には太目の体に短いブーツと言ういでたちで、どたどた歩く姿さえも、自分らしさを守る意志のように見えてくる。「君の歩き方が好きだ」とミキが告白する通り、私もその姿に安らぎを覚えた。まさに孫が命の祖母の姿だ。孫の為に風俗嬢になるマギーと同じく、心底この役を演じようとマリアンヌも見栄も外聞も捨てている。本来の持ち味と共に、そんな潔ぎ良さがこの作品に気品すら呼び込んだのだと思う。でも彼女本来の輝くような美しさを見せ付けて、あまりの違いにはっとさせられるシーンもあるので、往年のファンは楽しみにして欲しい。マドンナは年を経て、美しさだけでなく包容力も身につけたのだ。
yawarakai-s2.jpg


 <ところで、相手役のユーゴスラビア出身のミキ・マノイロヴィッチ>が、素敵で目が離せない。登場するだけで圧倒的な存在感。ミキの胡散臭さと優しみ、懐の深さ苦悩に孤独感と複雑な心情を覗かせ、まさに苦労人。気品のあるマリアンヌとのコンビネーションが良かった。二人の俳優の組み合わせそのものが、大人的だと思う。
物語は紆余屈折があり、2人の関係も仕事も一筋縄では行かない。そんなリアリティにはらはらもすれば、笑い転げるシーンもある。この仕事すら楽しくと、小さな個室の職場に花や絵を持ち込み、ポットを持参する主婦根性や、必死の覚悟や生真面目さが可笑しくて身につまされる。勇気があると言っても、マギーは普通の主婦でもあるのだ。この役を身近に感じさせたのが、マリアンヌの何よりの功績だと思う。

 <「やわらかい手」は淑女の必須と>知ったのは中学生の時。「風と共に去りぬ」で、レッド・パトラーが久しぶりに会ったスカーレットの、慣れない農作業で硬くなった手を、慰めるどころか戒める言葉だった。この作品ではその「やわらかい手」が思わぬ仕事に結びつき、窮地を救うのだけど、それ以前にも夜マギーが丁寧に手の手入れをするシーンがある。「やわらかい手」は、貧しさの中でも淑女のたしなみを忘れなかったマギーの素敵さが溢れた作品とも言えるだろう。どんな時も卑屈にならず、自分を大切にしながら生きる事の大切さを教えられた。2人の愛やマリアンヌの美しさを通して、年を重ねることの素晴らしさを知る映画でもあります。


  関西では、1月19日(土)より梅田ガーデンシネマで上映、
         2月9日(土)より京都シネマ、神戸アートビレッジセンターにて。
スポンサーサイト

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

 

トラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。