太秦からの映画便り

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映写室 NO.162 地球でいちばん幸せな場所

映写室 NO.162地球でいちばん幸せな場所   
          ―ホーチミン市に住む少女― 
 
 このところの暑さと湿気とスコールのような集中豪雨、日本は温帯ではなく亜熱帯になったらしい。といっても本物の亜熱帯はもっと濃厚。正真正銘の亜熱帯の街ホーチミン市を舞台に、ハンドカメラと同時録音で可憐な少女を追えば、スクリーンからはむせ返る木々の生命力や甘い果実の香り、雑然とした町の匂い、騒音、ヌターッと生ぬるい空気、行き交う人々の吐息等がリアルに伝わってきて、まるで自分がこの街を歩いているような気分。古さと新しさが混然としたベトナムの今の空気感が映っています。何処か懐かしい街の、活き活きとした時代の蠢きに魅せられるでしょう。

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©ANNAM PICTURES

<荒筋>
 ホーチミン市の郊外に住む10歳のトゥイは、両親を亡くして伯父さんに引き取られ簾工場を手伝っている。でも夢見がちで失敗ばかり。伯父さんに叱られると「弁償します」と応えるような勝気さもある。とうとう貯金箱を壊し、ピンクのリュックにお人形を詰め家を飛び出す。ホーチミン市に着くと絵葉書を売り、それが上手く行かないと今度は制服を借りて路上の花売りになる。そんな時に出会ったのが象の飼育係のハイと、フライトアテンダントのランだった。


 <東南アジアに行くと花売りの少年少女を>よく見かける。(移動中で買えない)と手振りで言っても諦めず作為的な笑顔で追いかけて来られると、どうしていいのかわからず困るのだけど、自尊心のあるトゥイはそんな強引なことはしない。だからちっとも売れず、夜になっても残ったお花を抱えてとぼとぼ歩くしかないのだ。
 不倫相手に取り残されて傷心のランが、そんなトゥイに気付いたのは偶然よりもある種必然。プライドと現実の狭間をさまよう孤独な魂が年代を越えて響き合った瞬間だった。場違いなおめかしをして屋台で一人フーティウ(米粉で作った麺)を啜るラン、心の拠り所がさっきの豪華なホテルではなく庶民的な町の中にあるのは確かで、彼女自身夢から覚めたような一瞬でもある。賢いトゥイはランの孤独に引き寄せられたのかもしれない。
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©ANNAM PICTURES

 <トゥイに扮するのは、この作品で映画デビュー>したファム・ティ・ハン。伝統的なダンス教師の母親の影響で以前から舞台には出ていたと言うが、カメラに動ぜずなんとも自然体。浅黒い肌とくるくると動く憂いを含んだ賢そうな瞳、子供なりのプライドと健気さに、たちまち心を掴まれた。姿形に気高い心根が漂い、エレガントでさえある。うつむいて耐える姿や、ふらりと動物園に入るシーンなど、ランがこの少女の本質と愚劣な環境とのギャップに驚いたように、私もハラハラと見た。

 <ベトナム戦争が終わって33年>、社会主義国家なのに市場経済を取り入れたベトナムは、今凄まじい勢いで変質している。従来の農業、漁業の自給自足型から、近代国家型に変わりつつあり、現金収入の得られる都市部への人口流入は激しい。政府が規制をかけても子供なら網の目を潜れるから、リュック一つが所持品の、絵葉書や花を売って暮す少年少女は結構いるのだ。この物語はそんな多くの話を元に作られている。ファムはそんな境遇の少女ではないけれど、見知っているから花売りの役を自然に演じられたと言う。
 <もっとも、働く子供が不幸かと言ったら>そうとも言えない。かって日本もそうだったように、この国では子供が働くのは当たり前。親を助け逞しく明るく自分の力で運命を切り開いていく途上国の姿がここにある。
 <都市部はバイクの排気ガスが舞い上がり>、暮らしの匂いで満ちて喧騒の中。私も旅行中にトゥイのように、騒がしさを逃れて動物園に入ったことがある。そこは人影もまばらで、時の止まったような静けさ。我も我もと近代化に雪崩を打つ外とは距離をとった、まるで別の世界だった。ハイはそんな暮らしを好む若者なのだ。一方のランは、空を飛んで皆の憧れを一身に集める時代の最先端の女性。優しさや空虚感が一緒とは言っても、スタンスも境遇もまるで違う。少女の企みどおり、二人と一緒に暮せるだろうか…。

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©ANNAM PICTURES

 <いちばん幸せな場所>って何処だろう。ちょっとおませに二人を取り持つトゥイの仕種が、子供目線と大人目線の入り混じった微妙な陰影で、自分のその頃を思い出させる。大人は子供だと思っても、子供は子供で大人をよく見ているもの。大人以上に本質を掴み老成したところがあるのだ。ベトナム系アメリカ人のステファン・ゴーガー監督が、そんな子供たちと幼い頃を過ごしたホーチミン市に愛を込めて作った作品です。観終えた後にじわじわと暖かい物が広がって行くのが嬉しい。(犬塚芳美)

 この作品は、8/9(土)よりシネマート心斎橋にて公開

<ちょっとディープに>
 ベトナムは約8400万の国民のうち、6割以上を30歳未満が占めるという若くて未来ある国。近代化へと雪崩をうつこの国の喧騒が想像できる。ホーチミン市はベトナム戦争の終結後の1975年、共産党指導者のホー・チー・ミンの名をとったもので、一般的には旧称のサイゴンと言われる。トゥイが送り込まれた孤児院は市の中心部から西にあり、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの3人目の養子はここの出身。
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映写室 NO.162 地球でいちばん幸せな場所:犬塚芳美

    ―ホーチミン市に住む少女―  このところの暑さと湿気とスコールのような集中豪雨、日本は温帯ではなく亜熱帯になったらしい。といっても本...
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journalist-net | 2008年08月13日(Wed) 07:02


 
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