太秦からの映画便り

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映写室 NO.167 「コレラの時代の愛」&「言えない秘密」

映写室 NO.167 「コレラの時代の愛」&「言えない秘密」   
 ―時代を超えた愛の物語2本―

 恋心は時に時空を超えるもの。ひた向きな愛で隔たる時空を歪めたり、耐え忍んだ時が頑なな心を溶かしたりと、方法は色々でも奇跡を呼ぶことがある。ノーベル文学賞作家ガルシア=マルケスの傑作「コレラの時代の愛」を圧倒的な存在感で引っ張るのは、「海を飛ぶ夢」、「ノーカントリー」等で数々の映画賞を受賞したスペインの演技派ハビエル・バルデム。「言えない秘密」は台湾の若手実力派ジェイ・チョウが、監督・脚本・音楽・主演をマルチに努め、爽やかな風をまきおこす。珍しい南米や台湾の映像と共に、両作品のヒロインの正統的な美しさも魅力で、初秋にふさわしい愛の物語2本です。

1.コレラの時代の愛 

corerano-m.jpg
(C)Copyright 2007 Cholera Love Productions,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

 <荒筋>舞台はコロンビアのカタルヘナ。男(ハビエル・バルデム)は女(ジョバンナ・メッツォジョルノ)の夫が死んだと聞いて、万感の思いでプロポーズする。51年と9ヶ月4日、男はこの日を待ち続けていたのだ。でも悲しみにくれる女から返って来たのは「出て行って!」と言う罵声だった。622人に愛されても彼が求めたのはただ一人の女だけ。始まりはまだコレラが多くの人の命を奪った時代の、故郷の屋敷での一目ぼれだった。

 <この男の場合、長年待ったと言っても>付きまとってはいない。思いは自分の中でたぎらせ、人知れず遠くから見つめていた訳で、その空虚さを埋め合わせるのが乞われるままに交わるその場限りの多くの女との秘め事だった。そのあたりの南米気質やしつこさと情熱を演じるとしたら、やっぱりハビエル・バルデムしかない。怪演すれすれで、重厚な物語に私達を誘っていく。全編まるで彼がこの地の空気そのもののような、纏いつく重さで、物陰からヒロインを見つめるまなざしを感じさせる。
 <この男の過剰さを真正面から演じて>、女が疎ましく思う気持ちと最初に惹かれた気持ち、両方が理解できた。驚くのが、青年期から51年後までを、特殊メイクの力を借りてとはいえ、一人で演じきったことだ。青年期の初々しさと男盛りの中年期、老年期のいぶし銀のような雰囲気。まさかと思いながら目を凝らしたが、同一人物以外に微妙なニュアンスがこんなに似るわけも無い。一体素顔の彼はどの年代なのだろうと、年までを超える役者の力演に驚く。
 <こんな主人公の側だから>、熱愛されるヒロインはただ気高く輝いていればいい。錯覚かもしれないが一度は愛した男を、夢から覚めて裏切る言葉さえたおやかで、男が諦められないのも解ろうと言うもの。自分の意志を持っていそうでも、この時代の女の常で、結局は受身の幸せに流される容易さ。そんな曖昧ささえ男と同じように観客を虜にする。物語の通りに、時を越えて愛されるべく生まれてきた人のオーラを感じた。南米の恋は何処までも不条理で濃いのだ。

 <そんな二人と共に>、この映画の見所はコロンビアの空気感を映した映像だろう。ゆったりと流れる川沿いの珍しい風景、極彩色の鳥が飛ぶ青々とした庭や装飾の多い重厚な建物、贅沢な調度や衣装の数々等、南米の濃厚さが全編に漂っている。ここには別の時間が流れていそうで、こんな土地なら時を越えた愛が生まれてもおかしくは無い。男の恋はこの土地ならではのもの、ガルシア=マルケスがカタルヘナで記者をしていた時にこの土地から受け取ったインスピレーションなのだろう。原作の世界感を再現した映画の重厚さに魅せられた。

    9月13日(土)より、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズ二条で上映
    9月27日(土)より、シネカノン神戸で上映予定


2.言えない秘密 
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(C) 2007 East Empire International Holding Limited

 <荒筋>淡江音楽学校に転校してきたシャンルン(ジェイ・チョウ)は初日に旧校舎のピアノ室で、美しい曲を弾くシャオユー(グイ・ルンメイ)と出会う。曲名を尋ねると「誰にも“言えない秘密”よ」と答える。その日の帰り自転車の二人乗りをしながら話す家族の事。親しくなったのにシャオユーはよく学校を休む。ある日家を訪ねると…。

 <私はこの作品で始めてジェイ・チョウ>を知ったけれど、日本では馴染みが薄くても、台湾では圧倒的な人気で、アルバムセールス、出演作の動員共にトップクラスのアーティストだと言う。満を期しての監督デビューは、自身のオリジナル脚本でなされた。物語の随所に出てくるピアノの演奏はもちろん本人で、クライマックスの圧倒的な演奏が彼の実力なのだ。ハンサムな訳ではないが、ナチュラルな優しい雰囲気が女性心理を擽る。
 <華麗なピアノ曲、可愛い制服>、こじんまりと素敵なおうち、自転車で走る郊外の道、全てがメルヘンチックで、知らず知らずこの物語の世界に引き込まれていく。と言っても、優しい世界を楽しんでいる間も、後で意味が出てくる伏線はあちらこちらに隠されているわけで、油断できない。でもシャンルンが気づかなかったように、私たち観客もその時まで大きなミステリーに翻弄されよう。最後の隠し味にジェイ・チョウの非凡さが伺われる。

 <殆どが制服姿と言うのもあるが>、ジェイ・チョウを取り巻く二人の女優の清楚さも素晴らしい。二人の笑顔を見るだけでさわやかな気分になった。ただし物語の後半は謎を残している。二人の関係は、それぞれの父と母はと、観客の想像も掻き立てる。描かれていないところも裏側できちんとつじつまが合っているというから、いつか種明かしをして欲しいものだ。 
 <重厚な雰囲気のある校舎は>ジェイ・チョウの母校だと言う。少しセビアに振った映像と言い、このけばけばしい時代に制服姿を魅力的に描いた姿勢といい、彼の美意識の結晶のような作品だ。ジェイ・チョウに貴公子のイメージが定着してしまった。全体に小品感があるが、それも自分だけの宝物のようで、この作品の雰囲気になっている。

   9月13日(土)より、テアトル梅田、MOVIX京都、
              シネカノン神戸他ロードショー


  世界観は対照的な2作品だが、どちらの愛も奇跡を起こすほどに純粋だった。(犬塚芳美)
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コメント


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見たくさせる文章に感嘆!

『後で意味が出てくる伏線はあちらこちらに隠されているわけで、油断できない。でもシャンルンが気づかなかったように、私たち観客もその時まで大きなミステリーに翻弄されよう。最後の隠し味にジェイ・チョウの非凡さが伺われる。』
 うまい文章に感嘆! そそられて、どうしも見たくなるではありませんか。

スッチ・ジェーラ | URL | 2008年09月10日(Wed)11:27 [EDIT]


有難うございます

でもその通りなのです。
ジェイ・チョウの爽やかさと才能に感嘆しました。

犬塚 | URL | 2008年09月11日(Thu)08:02 [EDIT]


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| | 2008年09月11日(Thu)22:28 [EDIT]


1年以上過ぎて

夫がどうしても見たい!というのでレンタルDVDを借りて見ました。
この記事が書かれたのは2008年の9月…(ちょうどこのブログの存在を知った頃でしょうか)、とすると、もう1年半ちかく過ぎていたのですね。
南米ならではの熱帯植物が生い茂る庭とか、19世紀から20世紀への町並みやファッションの移り変わりとか、物語の背景としてはずせない「コレラ」のこととか…独特な雰囲気が印象的でした。
もちろん物語の濃さも独特…青年期から老年期までをバビエルさんが1人で演じきっているというのは驚きました。

ayako | URL | 2010年02月20日(Sat)19:58 [EDIT]


Re: 1年以上過ぎて

> この記事が書かれたのは2008年の9月…(ちょうどこのブログの存在を知った頃でしょうか)、とすると、もう1年半ちかく過ぎていたのですね。

映画館の本の件でお願いしたのが始まりでしたね。あの説はご協力有難うございました。出版して1年になるのですが、奈良のシネコン(奈良市内と樫原。樫原は去年の今頃、奈良は1月末でクローズに)は2館なくなり、3月末で滋賀会館シネマホールもクローズになるそうです。そのうちあの本が、2009年にはこんなに映画館があったという資料になるのではないかと、ショックを受けました。いつもはDVDを見ないのだけど、見逃した映画には便利ですね。でも家で見るのが癖になりそうで、あまり見ないようにしています。

あの本でチリの映画館レポートをしてくださった、当時はチリに行っていた友人も2年間の勤めを終えて帰ってきました。彼がに赴任して最初に観た映画がこれで、たしか700円くらいだったと言ってたと。私は試写で観てるけど一般公開はまだという時期に、さすがに地元でかかってたようです。でも字幕がなくてスペイン語だけだから(彼は若い頃1年間スペインに語学留学して、一応解かるはずなんだけど)原作を知っていてもよく解からなかったとも言ってた。チリの人はあまり映画館に行かないようだと寂しいレポートでした。

映画は確かに濃厚な、南米アメリカの空気が漂ってましたね。1人の俳優の若つくりと老けメイクにも確かに驚いた!

映画のツボ | URL | 2010年02月21日(Sun)02:08 [EDIT]


 

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journalist-net | 2008年09月15日(Mon) 01:10


 
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