太秦からの映画便り

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

映写室 NO.168 蛇にピアス

映写室 NO.168 蛇にピアス
   ―男の突き出した二つに割れた舌(スプリットタン)―

 刺青をしたり鼻や唇のピアスと、際限なく体に細工する若者たち。正直なところ、彼らの美意識が解らない。でも解らないなりに何を考えているのかに興味があるのは、透けて見える痛さが私の虚無感と何処かで重なりそうに思うからだ。そんな心理を瑞々しいタッチで描写した金原ひとみの原作を、蜷川幸雄が孤独を真正面に据えて映像化した。
 体の痛みでしか実感できない「生きている証」、社会に押しつぶされそうな若者の孤独が浮かび上がってくる。もしかしたら生きるということに対して、彼らは私たちよりずっと真摯に問い続ける哲学者かもしれない。時代の虚無感が彼らを追い詰めているのかもしれないとも思う。作り物で変形した彼らを見ていると、現代社会はもう人間の住処ではないのかもしれないと思ったりもする。

hebi-m.jpg
 (C) 「蛇にピアス」フィルムパートナーズ

<荒筋> 渋谷の町をふらついていたルイ(吉高由里子)は19歳。偶然出会ったアマ(高良健吾)は赤毛でモヒカン、背中の刺青、唇や眉のピアスと異様だが、ちょろちょろと動く二つに割れた舌を見せられた時から、虜になった。私もしたいとせがむと、シバ(ARATA)の店に連れて行ってくれる。シバも顔中にピアスをし、全身に刺青があった。

 <ここに登場する若者は>、若者だけの世界で生きていて、両親や家庭はまるで描かれない。複雑なアマと違って、ルイの家庭は恵まれていそうに感じるが、それでも親への不満とか不平とかではなく、(多分)大人には解らない彼女自身の選択で家を飛び出している。否、もしかすると飛び出したほどの意識も無く、ふらふらと自分に合う(これが味噌のような気がする)ぬくもりを求めてたどり着いた所が、同じ不確かさを見せるアマなのかもしれない。若者たちは、お仕着せじゃあない自分の心にぴったりと合う自分だけの温もりを探しているのだ。二人でアルバイトをするママゴトのような暮し、それでも背中の刺青に「でも瞳は入れないで欲しい。飛び出してしまうから…」と言う切なさ。家を出ながら、少女は自分で見つけたこんな頼りない拠り所を大切にするほどに弱くもある。

 <携帯電話1本で友達と繋がり>、それ以上に深入りしないから、アマが帰らなくてルイが行方を捜そうにも本名すら知らない有様だ。天涯孤独ならともかく、突然いなくなって両親は探していないのだろうかと、普通の疑問を持つけれど、現実は私の頭よりずっと進んでいるのは新聞を賑わす多くの事件が証明している。若者たちは大人とは別の世界に住み始めたらしい。もし一緒に住んでいると親が思っていても、それは彼らの仮面で、彼らの本当のねぐらはもはや大人の入り込めない別の時空になっている。何時からこんな風になったのだろう。

 <20才のまだ幼さを残す少女が>、SM、刺青、ボディピアスと過激な題材を自由に操り、若者の孤独を描いて芥川賞をとった、2004年の金原のデビューは鮮烈に覚えている。この時は、19才の綿矢りさの「蹴りたい背中」と言う対象的な作品も同時に芥川賞を取ったから、余計に印象深い。若い人の台頭、しかも描いているのが大人は存在すらも知らない世界だったから、旧世代は色々な意味でショックを受けたものだ。
 <今や、彼女が描いた世界は地方都市にまで>広がった。プチ家出、援助交際、フリーター、体のあちこちにさしたピアス、刺青等々は、少女を巻き込んだ事件が起こるとたいていどれかが絡んでいて、何も知らなかった親や教師をあわてさせる。この映像の世界は、金原という若い感性が確かな時代感覚でいち早く捉えた方向性だったらしい。

hebi-s.jpg
(C) 「蛇にピアス」フィルムパートナーズ

 <アマの突き出したスプリットタンは>、しなやかに動いて確かに生きていた。こんなにもエロテックで神秘な舌に惹かれる気持ちは少しだけ解る。こんな舌になれたら自分が変われそうに思うもの。それにしてもルイとアマの優しいこと、これでは生きにくい。ピアスも刺青もそんな若者が社会から自分を守る鎧かもしれない。
 <援助交際で稼いだお金で>、せっせと体に刺青を入れていくルイ。偶然に出会ったアマと運命のように出会ったシバ、ルイは二人の男の間で揺れ続けるが、二人の本質にはまだ気付いていない。そこらあたりが社会の怖さだ。
 ルイやアマのすぐ側には、同じようでまるで異質な、狂気を秘めたシバがいる。シバにからめ捕られたらもう後戻りは出来ない。孤独な少女の求めた「生きている証」の痛みの向こうには、本物の痛みと狂気があった。いつも事件はこうして起こる。


 <(全く何を考えているのか)と、普通だったら>怒鳴りつける年代の蜷川が、しなやかに若者に寄り添っていく。若者自身も掴みきれない不安と焦燥感、その根源は何なのだろうと問い続ける。もちろん当の若者にも解らず、だからこそスプリットタンを目指したのだ。言葉にならない答えが映像に漂い、ラストになると闇は深まるばかり、ちょっと辛い。
 蜷川幸雄は青春を描くとタッチが冴える。しかもその青春がひりひりと痛いほどいい。舞台でも完成された重厚な商業ペースのものより、若い俳優を使ったアバンギャルドで未完成なものの方が、彼の本気度が見える気がする。そんな意味ではこの作品も「青の炎」以上に監督の本領を発揮していると思う。製作者として常にがけっぷちを歩く姿勢が、実生活でそんな生き方をする彼らへのシンパシーになるのかもしれない。蜷川の中に残る思春期が、今も疼いているように思った。(犬塚芳美)

 この作品は9月20日(土)より全国ロードショー
    関西では、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、
         京都シネマ、シネ・リーブル神戸で上映
スポンサーサイト

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

題名はそんな意味でしたか!

題名の意味が解らなかったけどそんな意味なんですね。見てみたくなりました。

K.K | URL | 2008年09月18日(Thu)19:48 [EDIT]


蛇の舌はどうして

分かれているのだろう。CGだろうとは思うけれど、実際にそんな風な舌にしている人もいるのでしょうか。やり方とかリアルでした。アマを演じる高良健吾さんの優しそうな風情や頼りなさ、寄る辺のなさ、あまり考えないでそんな舌にしそうなところとか、本人には深い訳がありそうなところとか、今時の若者を感じます。「実録連合赤軍・・」に出ていたARATAが得体の知れなさを漂わせて、不気味です。正面切ったカタルシスのある映画ではないけれど、若者の不安定さや時代感が伝わってきますよ。

犬塚 | URL | 2008年09月18日(Thu)23:05 [EDIT]


承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

| | 2012年07月26日(Thu)04:59 [EDIT]


 

トラックバック

TB*URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

蛇にピアス 予告

蛇にピアス商品価格:400円レビュー平均:4.18蛇にピアス商品価格:420円レビュー平均:5.0今、こんなことが・・・・・・・・・びっくりです。映画『蛇にピアス』今、最も痛みを体現している芸人・小島よしおが元・同じ事務所の吉高由里子を応援!CINEMA TOPICS ONLINE200...
[続きを読む]

ロックBOX 日本 奇跡 ライヴ  | 2008年09月17日(Wed) 11:09


蛇にピアス

蛇にピアス主演女優!「ALL ABOUT 吉高由里子」蛇にピアス 映写室 NO.168 蛇にピアスそして!!蛇にピアス主演女優!「ALL ABOUT 吉高由里子」小島よしお、巨大ヘビに締め付けられながら「蛇にピアス」をPR『蛇にピアス』の吉高由里子「渋谷のスクランブ
[続きを読む]

番ことみ 記者会見 動画 画像 | 2008年09月18日(Thu) 06:46


映写室 NO.168 蛇にピアス:犬塚芳美

   ―男の突き出した二つに割れた舌(スプリットタン)―  刺青をしたり鼻や唇のピアスと、際限なく体に細工する若者たち。正直なところ、彼らの...
[続きを読む]

journalist-net | 2008年09月24日(Wed) 06:32


 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。