太秦からの映画便り

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映写室 NO.171 宮廷画家ゴヤは見た

映写室 NO.171 宮廷画家ゴヤは見た
       ―画家の見た動乱のスペイン史―

 宗教がらみや国同士の争い、支配君主の交代で激変するヨーロッパの歴史の中でも、18世紀末から19世紀前半のスペインは、異端審問、フランス革命、ナポレオンの台頭と、内外の政治に翻弄されて特に激しく揺れていた。この作品は、天才画家ゴヤの目で、彼が描いた2枚の肖像画のモデルがたどる数奇な運命を追いながら、その後ろにそんな激動のスペイン史を浮かび上がらせてくる。権力の近くにいながら権力を非難する視点も忘れなかったゴヤ、彼の目に見えたものは何だったのだろう。時代は違っても、そこには不確かな今を生きる私たちにこそ大切なものが見えてくる。
 <「コレラの時代の愛」等このところ活躍著しいハビエル・バルデム>とナタリー・ポートマンという今が旬の実力派二人の共演も見所。この二人が絵的にぴったりとはまっている。ほとんどをスペインの古い建物や遺跡を使って撮影し、時を巻き戻したような重厚な空気感を映すことにも成功、これぞ映画の本格的作品です。

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(C) 2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved

<荒筋>
 18世紀末のスペイン、ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)は宮廷画家に任命されるが、一方で権力や社会を批判する風刺画も描いていた。ある日、彼のミューズの金持ちの娘イネス(ナタリー・ポートマン)が、豚肉を嫌っただけで異教徒と疑われて、異端審問所にとらわれてしまう。其処の責任者はゴヤが肖像画を描いていたロレンソ神父(ハビエル・バルデム)で、彼はゴヤのアトリエの絵を見てイネスに惹かれていた。こうして二人の運命が絡み始め、心配しながらもなす術も無く眺めるしかないゴヤの筆が、悲しみに相反するように冴え渡っていく。

 <この歴史大作に挑んだのはミロス・フォアマン監督>で、この作品のアイデアは彼がチェコスロバキアの学生だった50年以上前にすでにあったものだという。ミロス・フォアマンは幼い頃両親がナチスの収容所で殺され、旧チェコスロバキアの戦争孤児の寄宿学校で育ったが、大学の頃には歴史書を読んで、自分たちの住んでいる共産主義社会と、スペインのこの時代に共通性を見出していた。共産主義社会も表現者という自由人には充分に暴力的だったということだろうが、もちろんチェコでの映画化はかなうわけもない。
 <ところが30年後のマドリードでの「アマデウス」の>プロモーション中に、一緒にいたプロデューサーがゴヤの絵に魅了され、「ゴヤこそが最初の近代画家」と確信するに至って、このアイデアが再び動き始めた。宮廷から宗教、外国勢力と謎の多い歴史ものをこれだけ面白く見せる手法は、さすがに「アマデウス」や「カッコーの巣の上で」の監督だと納得する。名前だけで作品のクオリティを確信させる数少ない監督の一人だ。
 異端者の迫害やこじ付けの様な異端差別、誤認逮捕の数々等、狭量な権力者の愚かさをじわじわと焙り出していく監督の脳裏には、ゲシュタボに囚われた両親の無念さや、大学時代の窮屈さが蘇った事だろう。

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(C) 2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved


 <ゴヤ役にわざと無名の俳優を使い>、逆に一目で人を釘付けにせずには置かない絵のモデルの男女二人に、ハビエル・バルデムとナタリー・ポートマンという、存在感と演技力で他を圧倒する俳優を据えた事で、観客の視点が自然にゴヤに重なっていく巧みさも見逃せない。主役はあくまで画家の見つめたこの時代なのだ。まだ電気の無い時代、帽子の周りにぐるりとろうそくを立てて絵を描く画家の姿には、狂気迫るものがある。私たちは権力の隣でこんな姿勢を取れるだろうかと、ハラハラしながらもその反骨精神に圧倒された。
 ゴヤの絵筆はミロス・フォアマンにとっては映画表現、時代や権力者に流されない普遍的な生き方の大切さがじわじわと伝わってくる。

 <それにしても、凱旋者と全てを失った者>という対照的な姿になった二人が出会うラストシーンは感慨深い。驚愕するしかないロレンソの心中を深くは追わないのも、事実を描くことに徹したゴヤの姿勢に準じているのだろうか。人とは愚かなもの、運命も皮肉なもの、そんな言葉にならない無残さに胸を締め付けられる。(犬塚芳美)

この作品は、10月11日(土)より、
        シネ・リーブル梅田、敷島シネポップス、
        新京極シネラリーベ、シネ・リーブル神戸、他で上映


※<ちょっとディープに>
1.異端審問とは13世紀前半、ヨーロッパに設立されたカトリック教会の審問機関で、異端と疑われたら容赦なくひったてられ残酷な拷問を受けるし、異端宣告を受けたものは焼き殺されるという、おぞましいものだった。ガリレオ・ガリレイがここで「それでも地球は動いている」と言ったといわれるし、ジャンヌ・ダルクが魔女として火刑に処せられたのは、この異端審問の結果だった。

.「着衣のマハ」「裸のマハ」等で有名なゴヤは、アーティストであると共に、権力者や弱者等社会の全ての人を分け隔てなく同じように眺められるジャーナリスト精神も持っていた。国王カルロス4世の宮廷画家に任命されて安定した暮らしを送りながら、一方で町をさ迷い世相や庶民を描き続けている。上流階級の人々の肖像画だけでなく、一種の風刺画の「砂に埋もれる犬」や「我が子を食らうサトゥルネス」「異端審問」などの“黒い絵”といわれる作品群も印象深い。激動の時代を生き抜いたゴヤを主人公にしても充分に1本の映画になりそうだ。
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コメント


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今晩は

先日、宣伝文句にひかれ『グーグーだって猫である』と『落下の王国』を見に行ったのですが、期待が大きすぎた分、落胆も大きかったです。
映画を作った方には申し訳ないのですが…。

でも、この映画は、本格的で見応えがありそうですね。
ここに載っている1枚目の写真が、既に絵画のようで、映像が楽しみだなと感じました。
話も骨がありそう。映画はやはり、映画の「格」(流行の「格」を使うのはちょっと抵抗があるのですが)がないと…と、私などは思います。

大空の亀 | URL | 2008年10月09日(Thu)21:32 [EDIT]


ドキュン!

突然ハートを奪われたというか、一目見て「観たい!」と思わせる作品だと思いました。
ちなみに神戸の映画館で、「シネカノン」が近いうちに閉鎖されるらしく、ミニシアター系の映画を上映するところがシネリーブルだけになってしまうとのこと。ちょっと残念です。

ayako | URL | 2008年10月09日(Thu)22:30 [EDIT]


大空の亀様 落下の王国

週末に「落下の王国」を見に行くと言う事だったので、感想が楽しみでした。正直に言うとそちらは私には今ひとつだったけれど、原作を読んでらしてファンなのだろうと思っていたのです。
「落下の王国」は大きな世界を描き過ぎていて、絵空ごとになって姉妹、(まあ当然ですが)人に焦点が合わないというか・・・。

この作品は、濃厚なスペインの空気感だけでも凄いですよ。目を背けたい痛々しいくらいのこともありますが、ゴヤは怒りながらもその様子を描いていく。それがジャーナリストの役目だと思いながらも、後一歩踏み込んで救う事はできなかったのだろうかと、ジャーナリストの限界も感じさせる映画です。その点は戦争や飢餓に苦しむ人を映した写真等で、よく言われることでもありますよね。映す前に助けられなかったのかと。自分が渦中にまで入って巻き込まれては、伝える事も出来なくなると、ジャーナリストにはジャーナリストの役目があるということでしょうか。宮廷画家の立場でここまでやった凄さのほうを称えるべきですよね。ともあれ本格的な作品です。

犬塚 | URL | 2008年10月09日(Thu)23:30 [EDIT]


ayako様

現実の地理的な旅だけでなく、この映画のような時空の旅も良いですよね。主演の二人は容姿的に時代を超えやすく、それも作品の力になっていると思います。
「シネカノン神戸」の件は、実は映画館の本の件で、多分そうだろうと感じながら、まさかまさか?と半信半疑でいました。12月20日でクローズと言う事なので、何とかそれまでに行ってみたいと思っています。

ところで、今年は大空の亀さんとayakoさんお二人のサイトで彼岸花を堪能しました。私も好きなのだけれど、これほどの場所にも出かけられず、お二人の写真で楽しんだという訳です。ちょっと忙しくて上手く伝えられなかったけれど、両方にそれぞれの素敵な彼岸花のことを伝えたかったのですが、同じ作品にコメント下さっていい機会になりました。

犬塚 | URL | 2008年10月09日(Thu)23:42 [EDIT]


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| | 2013年02月13日(Wed)08:02 [EDIT]


 

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      ―画家の見た動乱のスペイン史―  宗教がらみや国同士の争い、支配君主の交代で激変するヨーロッパの歴史の中でも、18世紀末から19...
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journalist-net | 2008年10月10日(Fri) 07:40


 
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