―フランスから届いた“現代のおとぎ話”―
<絵本から抜け出したような素敵な>作品が届いた。まず惹かれるのは映像美だ。緑豊かな田園と風景に溶け込んだ大邸宅、自転車で駆け抜ける森の小道と背中で揺れるランドセル、それらにはえるカラフルな衣装も楽しい。描かれるのは繊細な心が紡ぐ、現実と幻想がオーバーラップした世界で、夢見がちな少女にとっては、揺れる影さえも誰かからのメッセージだった。少女の心的世界は足音にすら反応し、暗闇は妄想と現実の境目を無くする。トイレに行くのさえも冒険だった暗闇への恐怖は、幼い頃を振り返れば誰もが思いあたるだろう。
<女優であり小説家でもあるアンヌ・ヴィアゼムスキーの原作>を、「アメリ」のギョ―ム・ローランが脚本化して、子供の頃の瑞々しい感情をリアルに再現。誰もが大きな瞳の小さいマドモアゼルに魅了されるだろう。

© 2006 – PYRAMIDE PRODUCTIONS / FRANCE 3 CINEMA / RHONE-ALPES CINEMA
<荒筋>
まだ10歳で幽霊と暗闇が怖いベティは、姉と無人のお屋敷を探検に行くが、扉が勝手に開いて驚いて帰ってしまう。その姉も寄宿舎に入り、ママはパパと口論して町に出て行き、広い屋敷で家政婦のローズと二人でお留守番。ローズは隣のパパの精神病院の患者で口がきけない。窓の外のざわめきすら心細いがパパも仕事が忙しい。ある夜自転車を小屋にしまっていると、木陰にハンサムな若い男を見つける。パパが話していた病院から抜け出した患者らしい。震える彼に私が守ってあげなくてはと思うのだ。
<繊細過ぎて時々妄想から物語を作ってしまう>ベティは、自分の事を少し変わっていると心配している。だから、口のきけないローズや隣のパパの精神病院の患者たちを見ていると、いつか自分もあんなふうにおかしくなるのではと不安になってくるのだ。普通の人なら自分との違いを見つけるところが、優しいベティは彼らと同じ自分の弱さを見つめてしまう。パパにはある時までそれが解らなくて、ローズの代わりに普通の家政婦を雇ってと言っても、単なる我儘だと聞き流してローズの為にそうしない。
<このあたりの展開は微妙で>、大人は子供の恐怖心など想像もつかないものだとどきりとさせられる。でもこんな純粋な娘を育てた父親の素敵さもバックに垣間見せて、どこの家でもあることだけれど、この一家はママとママ似の姉、パパとパパ似のベティという二組に別れているらしい。ほとんどをベティの視線に重なるカメラワークで捉えながら、時々はまるで父親のような、彼女への慈愛に満ちた監督の目線がカメラワークになる。
<ベティは学校でも活発な仲間とは馴染みにくく>、彼女が心を寄せるのは、明日にも殺されそうな収容所の檻に入れられた犬のナッツだったり、転校生で皆からのけ者にされている顔に大きな痣のある男の子だったり、大人なのに膝を抱えて震えているパパの患者の青年だったりと、自分と同じように生き方が不器用で弱い存在だ。彼らによりそっているとベティの寂しさが消えるのだけれど、大人にはそんなことは解らない。他の犬じゃあなく、ナッツを飼いたいといくら頼んでもパパは許してくれなかった。

© 2006 – PYRAMIDE PRODUCTIONS / FRANCE 3 CINEMA / RHONE-ALPES CINEMA
<自分の大切な二人(?)が明日にも大変になりそう>になった時、ベティは家を出て行く。このあたりの子供っぽさと向う見ずさがベティの魅力だ。嬉々としてバスケットに食べ物を放り込み、パパのクローゼットからセーターを持ち出す様子は、こちらから見るとままごと遊びの延長でも、本人は真剣そのもの、幼い少女にも母性愛があるのだと微笑ましくなる。ベティのキャラクターや美しさが、性格は違うのに、同じフランス映画の「ぜんぶフィデルのせい」の少女に似ているのは、フランス好みの美意識だろうか。少しお腹を突き出した姿勢に幼さが覗くのも一緒だった。
<父親だったら抱きしめたいような>この魅力的な少女を演じるのは、アルバ=ガイア。お嬢様ならではの真っ直ぐさと大らかさと繊細さ、怖がりの癖に暗闇の向こうを覗いて見たがるような冒険心もあり、ハラハラさせられながらも目が離せない。内省的でクラシックな容姿を持ち、瞳に多くのことを語らせていく。心を豊かに表現する物言う瞳が、この少女の何よりの魅力だろう。全編に赤が印象的に使われて、紅を含んだその赤はフランス映画独特のものでそこにもこの国の文化を感じた。
<ところでベティの小さな秘密とは何だろう> もちろん小屋にパパが探している青年を匿った事だろうが、少し複雑に考えると「自分も変になるのでは」とひそかに恐れていた事ではないだろうか。大人が思いもしないことを子供は心配するもの。些細なことで傷ついているのを忘れないでいたい。それにしても、御伽噺は暗がりと大きな空間でこそ生まれると思い知らされる。フランスの田舎の豊かさを感じる作品です。(犬塚芳美)
この作品は関西では10月25日(土)より、テアトル梅田、シネカノン神戸、
11月1日(土)より京都シネマで上映


